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王の相談と保護者達の会合

フローレンスは王都エメラルダにある王宮の一室にいた。

孫達の持つ想像以上の能力について、再び今夜話し合う必要がある事を、彼女の夫テオドールと、古くからの友人 ―宮廷所属の魔術師でもう1人の当事者の祖母でもある― ヴィクトリーヌに知らせに来たところで声をかけられたのだ。


その部屋の中には、フローレンスとテオドール、そしてテオドールと兄弟のように育った(血縁上は甥である)マティユ王がいた。

2人は王マティユに相談を持ちかけられたのだ。

「それで、相談というのは?」

「儂の孫達の事じゃ。」

「王女が7歳になられたら、王子と王女付きの教師として私が指導する件ですか?」

その話なら、丁度いい。

リラとフレデリックも一緒に教える許可を取る必要があるのだから。

「それで、その王女…アンヌのことなんじゃが…誕生日も近い事だし、何か欲しいものは無いかと聞いたら、対等に付き合える友を持つ権利が欲しいとか、結婚相手は自分で決める権利が欲しいとか、大人の干渉無しに出かけたいだとか言い出して困っているのだ。

結婚相手云々は成人するまで保留にしておくというので済ませるつもりが、婚約の申し込みは全て断る事を約束させられたよ…。

まったく誰に似たらこうなるのかわからん…。

それで、対等に付き合える友というのが厄介でな。

同じ年頃の貴族の令嬢と会わせるのは簡単だ。そこで友が出来たとしても相手がアンヌを対等には扱わないだろう。もし対等に付き合う者がいたとして、儂等が許可したとしても、周りの者がそれを許さないだろう。

ならば納得するような相手をこちらで用意してお膳立てすれば…と思ったのだが、その条件に当てはまる人物を儂は1人しか知らなくてな。」

「それがリラというわけですね。」

マティユはニヤリとする。

「お主らの孫なら、儂の血縁であり、王族だと儂が言えば通るからな。

それにあの子はあちら(エルフ)の王宮にも出入りしているし、アルフレッド陛下も王族としても認めておられるのだろう?」

「ええ、今日の朝までは王位継承権は2位でしたわ。」

フローレンスの一言に、テオドールとマティユが凍りつく。

アルフレッドは未婚のため子どもがいない。

彼の兄妹もフローレンスだけだし、彼女とマルグリットは放棄しているので、今日の朝までのでの継承順位は1位がローラン、2位がリラだったりする。

「今日の朝までとはどういうことだ?」

「あの子はエルフの4分の1の血(クォーター)です。しかしながらあの子の能力を考えると…実際は隔世遺伝のせいかもう少し濃いでしょうね。でももし王位を継承する場合、純粋なエルフを夫とする必要があるのですよ。子孫の為にね。」

「言っている意味がわからないのだが…そんな事と、『今日の朝まで』と何が関係あるのだ?夫もなにも、まだあの子は7歳だろう?」

「まさか…」

フローレンスの言う意味がわからなかった2人だったが、ふと思い当たる事があった。

「そうです、あなた方も30数年前に目にしている、アレです。テオドールは目にしているではなく当事者ですね。精霊には年齢なんてものは関係無いようですわ。私たちが気づいた時には手遅れ…もとい祝福されていて、直後に兄が証人となり、精霊との契約は済んでいます。相手が人間ですので、自動的に権利を放棄したことになりますわね。」

テオドールはあまりの衝撃で絶句し、マティユも驚くしかなかった。

「でもまぁ、放棄したとはいえ、リラが一応あちらの姫であることは間違いないですからね。それに、こちらの2代前の王のひ孫ですから、王族と言えば王族です。王女と対等に…というのをお望みでしたら条件は充分に満たしているでしょう。」

そう自分で言っておきながらも、そういえばあの子はそういう立場だった事に改めて気づく。

あの子は自分がお姫様だなんて微塵も知らないだろう。

彼女にとってお姫様は御伽噺の登場人物、残念ながらそういう認識だ。

「いや、いま説明するのはそこでは無いだろう!相手は誰だ?」

テオドールは動揺を隠せないようだ。

「そんなの1人しかいないでしょう?」

フローレンスは冷たく言い放つ。

該当者はどう考えてもフレデリックしかいないのだ。

フレデリックの事はテオドールだって可愛がっているし、リラと仲が良いのはわかっている。

彼の持つ条件(スペック)だけを考慮したって孫の結婚相手として不足はない。

いや,寧ろこれ以上条件が良い相手なんて見つからないだろう。

「………」

さっさと受け入れろ、というニュアンスを含むフローレンスの口調にテオドールは何も言えなかった。

目に入れても痛くないほど可愛がっていた(リラ)が自分の知らないところで、まだ7歳だというのに結婚の約束を交わしてしまった ーそんな現実に、夫のショックは想像以上だったのだろう。

思わず溜息が漏れる。


そんな夫はまぁ放っておくとして、マティユとの話を詰める必要があることに気付きフローレンスは続けた。

「そこで、王子と王女の指導についてなんですが、お2人だけでなく生徒を増やしてはいかがでしょう。人数が増えれば、いい意味での競争心も生まれ、学習意欲も上がります。

その生徒として、リラとフレデリックを推薦いたしますわ。

そのフレデリックがリラと精霊の契約を結んだ相手ですの。因みに、ヴィクトリーヌの孫で精霊魔術師のタマゴです。王女だけでなく王子にもそのような友をとマティユ様は思っていらっしゃるのでしょう?ガルニエ伯爵令息ですので、表向きには対等ではいけませんが、共に学ぶ条件としてはそれなりに満たしていると思いますわ。」

「相変わらず流石だな。儂の望む答え以上のものを返してくれるとは思わなかったぞ。では、孫達と2人を共に学ばせよう。」

「ありがたきお言葉ですわ。ただ、ひとつお約束していただきたいことがあります。それをお約束いただければ、王女の望みである、大人に干渉無しに出かけられる場所にも時々お連れいたしますわ。」

「フローレンスには儂の思惑が筒抜けだな。そうだ、時々緑の森(フォレ・ヴェール)に連れて自由にさせてやって欲しいのだ。それでその条件とはなんだ?」

マティユは高らかに笑った。

「リラを王子殿下の結婚相手にとかふざけたことは言わないで欲しい、ただそれだけですわ。」

マティユは苦笑いした。

「あわよくば、とは思っていたが精霊と契約を交わした以上そんなことは言えまいよ。」

「それであれば、喜んでお受け致しますわ。」






その日の夜、2年前のあの日のように保護者達の会合が再び開かれた。

2年前のメンバーとほぼ同じ、違うのはフレデリックの父ガルニエ伯爵が加わったことだ。

フローレンスとアルフレッドが今日起こった出来事について解説を加えつつ説明した。

精霊の契約については、ジェラールとガルニエ伯爵はあっさり受け入れた。

寧ろ、テオドールとローランの方が未だ葛藤しているようだ。

ジェラールよりもローランの方がリラと過ごす事が圧倒的に多かったし、彼にとってリラは娘同然だったのだろう。

「私が口を出してもどうにもなりませんしね。それに、本人同士の純粋な気持ちがあっての結果でしょう?リラが選んだのであれば問題ありませんよ。それに彼とは面識もありますし、2人の仲の良い様子を見ていたら寧ろ喜ばしいことです。」

そういったジェラールに、ガルニエ伯爵も同意する。

「シャルロワ伯爵の人柄も存じ上げていますし、妻の親友のお嬢さんですからまったく問題ありませんよ。息子がこの年でプロポーズするとか正直驚きましたけれど、よく考えたらジュリエッタもそうでしたからね。子どもの頃は顔を会わせる度に『お嫁さんにして!』って私に言ってましたから。血は争えないと言うかこの親にしてこの子ありと言うか、妙に納得してしまったんですよね。」

ガルニエ伯爵の暴露で、ジュリエッタに向けられる生温かい視線。

「極めつけはアレだね、ガルニエ伯爵の結婚が決まった時だね。正妻じゃなくていい、寧ろそうじゃ無い方が都合がいいから結婚させてくれ、子ども産ませてくれ、だからね。まぁ確かに仕事中心の今の状況見てたら正妻じゃない方が自由がきいて都合がいいのはわかるけどね。」

さらにヴィクトリーヌ(母親)に爆弾を投下されジュリエッタの顔は真っ赤になった。

「今は私の話ではなくてフレデリックとリラの話をするべきです!」

無理やり話を戻す。

これには皆、そうだった、と渋々納得し、子ども達の事に話題は戻った。


「それにしても、フレデリックがリラの手を握ってキスした瞬間のリラの顔ったら可愛かったわ。目をまあるく見開いちゃって、頬も真っ赤になるし。それで次の瞬間、結の精霊が一気に集まって虹色に輝き出したの。もう本当にロマンチックだったわ。」

マルグリットが目を輝かせながら言う。

「「「「!?」」」」

アルフレッド以外の男性陣に衝撃が走る。

ガルニエ伯爵はバツの悪そうな顔だ。

「相手がフレデリックで、こういう形で将来が約束されていれば、私も安心して死ねるわ。」

マルグリットの、安心したような、でも少し淋しそうな言葉に皆がしんみりする。


「キス…だと?」

ローランの目がすわっている。

どうやらしばらくショックで思考が停止していたようだ。

「めでたいことだ、祝ってやらねば可哀想だぞ。そして、見守ってやるのが我々の務めだ。

あれだけの精霊が集まって祝福していたのを見るのは30数年振りだ。なぁ、我が妹よ。」

アルフレッドは高らかに笑った。

「そうですわね、私達は見守ってやらねばいけませんね。」

フローレンスがにこやかに答えるが、アルフレッドの話の半分は聞かなかったことにした様だ。

全員の同意もあり、この話はこれで終わりになった。


ユニコーン救出の話では、やはりこちらが思っていた以上の能力を2人が持っている事に皆が驚いていた。

「やっぱりこの環境よね。使えるのが当たり前みたいになっていて、身近に当たり前に見ているもの。で、目にしてやろうと思っちゃえばできちゃうのはやっぱり血筋?緑の森(ここ)で使う分には問題ないけれど、今後、成人するまで?本当の意味で大人になるまで?、外では能力を全て隠せとは言わないまでも、有る程度は控えるべきよね。」

ジュリエッタが少し自嘲的に言う。

「それをどう教えるか、だな。」

「まずは使えることが当たり前っていう概念を無くさないといけないだろうね。」

ローランとヴィクトリーヌが答える。

口で注意するだけなら簡単だけれど、それでは理解しきれないのだ。

「私が教えましょう。以前にも話に上がったエルフ語とマナー云々の件は先方に許可を取りました。その中できっと気づくはずよ。」

フローレンスならうまく2人を導いてくれるだろう、と皆が安心したのだった。

誤字訂正いたしました。

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