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悪魔との遭遇

「息子を助けてくれ…悪魔だ…助けてくれ…」

フレッドにも聞こえていたらしい。

繋いだ手が強く握られる。

2人で覚悟を決めて進む。


そこには、2人の悪そうな顔をした男の人と、逆さづりにされた2頭のユニコーンがいた。

2頭は親子のようだった。

子どものユニコーンは吊るされ、首を刃物で切られ、血が滴っている。

その下には、木のおけと、赤い液体で満たされた瓶が数本転がっていた。

許せなかった。

なんてひどいことをするのだろう。

しかも、ここは許可なく立ち入れる場所ではないし、こんなところにまで来てこんなひどいことをしているなんて、そんな人がいるのが信じられなかった。

フレッドも、握りしめた手が震えていた。

きっと同じ思いなのだろう。


幸い、悪魔と呼ばれていた2人は私とフレッドには気づいていないようだし、彼らからは魔力を感じられなかった。

彼らが魔術師でないのならば、不意打ちすればユニコーン達を助けられる。

きっと大人には怒られるが、このまま助けを待っていたところで、あの子どものユニコーンは助からない。

目の前にある命の火が消えようとしているのを見過ごすなんてできなかった。

フレッドと2人なら助けられる、そんな確信があった。


精霊さんに、ローランおじ様とアルフレッドおじ様を呼びに行ってもらい、私とフレッドは深呼吸する。

3つ数えたら作戦開始だ。


フレッドは私をかばうようにしながら飛び出し、悪魔と呼ばれた2人に風の魔法で攻撃、ユニコーンから2人を離す。

そしてすかさず、雷の魔法で、麻痺させて動きを止める。

私は、森の精霊の力を借りて、2人を縛り上げる。

しかし彼らはナイフを持っているので、油断はできない。

いつ、麻痺が解けるかもわからないのだから、どうにかしてナイフを回収しなければ…。

フレッドも、同じ精霊魔法をかける。

より強力に縛り上げる。

このまま、ユニコーンの手当てをしたいけれど、ナイフを持っている以上、不安はついてくる。

それでは集中も出来ないし、治癒魔法や回復魔法をかけているときに襲われたら、お終いだ。

フレッドにも手伝ってもらわなくてはユニコーンは助けられないのだからこのまま2人を縛り上げるのに付きっ切りでは困る。


その時、なぜか私は口ずさんでいた。

知らない歌だったのに、するすると口から流れ出た。


私の歌を聴いた悪魔と呼ばれた2人は、眠ってしまった。

フレッドが、直ぐに彼らのナイフを回収して、ユニコーンに浮遊の魔法をかけながら、ユニコーンを逆さ吊りにしていたロープを切ってくれた。

なるべく、柔らかい地面に下ろしてもらい、治療を始める。

子どものユニコーンは意識がない。

私は必死だった。

首の傷に治癒魔法をかける。

だめだ、傷が深くて塞がらない。

再びかけるが、先ほどよりも塞がっているものの不十分なので、もう一度。

3度かけてやっと傷口が塞がったけれど、大量の血を抜かれているため、このままでは助からない。

回復魔法をかけなくては、それもいつもよりも強力なものを…。


いつも以上に集中する。

私達に助けを求めたのだ。

私が助けなければ、この子はこのまま命を落としてしまうのだから。


フレッドはもう1頭のユニコーンも下ろすと、私達を守る為、魔法で障壁を作ってくれた。

温かくて、優しくて、フレッドの人柄がにじみ出ているようだった。


私の掌で、光の球体がどんどん大きくなる。

助けたい思いと共に、ユニコーンの子どもの身体に押し込む。

やはりこのサイズだと、押し込まなくては入り切らない。

身体が光に包まれるが、まだ意識はない。

もう一度、大回復。

先ほどよりも、更に魔力を込めて押し込む。

光に包まれ、先ほどよりも色艶が良くなったがまだ意識はない。

あともう1度。

これで助かるはず、そう確信した。

もう1頭のユニコーンは私と彼の息子を心配そうに見つめている。

大丈夫だから、私が必ず助けるから、と目で伝える。

そして、両手に、掌に神経を集中させる。

時間はかかったが、なんとか光が集まった。

ユニコーンに押し込む。

再び光に包まれる。

ユニコーンの子どもは目を開き、立ち上がり、私を見つめた。

ホッとして、涙が流れた。

涙は止まらなかった。

怖かった。不安だった。

でも良かった。助けられた。


でも、まだ治療は終わっていない。

もう1頭のユニコーンだって怪我をしている。

後ろ足を引きずっているので治癒魔法をかける。

良かった、1度で治ったようだ。

私がもう限界だから、本当に良かった。

目の前がグルグル回り出した。

フラフラする。

こんな酷い目眩は初めてだ。

でも、彼にも回復魔法をかけなくては…逆さ吊りにされて、体力を消耗しているのだから。

大回復は無理かもしれないが、出来る限りのことはしたい。

精霊さんにも力を分けてもらえるようお願いする。


精霊の光も掌で受けつつ、残っていた私の力も、全て掌に集めて、私はユニコーンに回復魔法をかけた。


「リラ、大丈夫?リラ!リラ!」

フレッドに支えられてるんだ、私。

ホッとしたら身体が重たい。

私はそのまま意識を失った。





リラとフレッドが悪戦苦闘している頃、姿が見えない2人を、大人達が探していた。

そんな時に、精霊達によりもたらされた良くない知らせに、マルグリットとジュリエッタは冷静でいられるわけもなく、フローレンスに宥められた結果、ローランとアルフレッド、フローレンスでリラ達の元へ向かった。


精霊に導かれ、2人の元へ辿り着いた時には、もう解決した後だった。

「まさか2人でどうにかしてしまったとはね…つくづくこの子達には驚かされるわ。」

そこには、蔓や小枝で捕らえられ、魔法で眠らされた男が2人と、銀色に輝く鬣を持つユニコーンの父子と、意識を失ったリラと、彼女を抱えて泣きじゃくるフレデリックがいた。

「フレデリックにはこうなった経緯をきちんと説明してもらいますからね。それとリラは、魔力切れで倒れているだけだから、このまま暫く休ませたら目を覚ますわよ。だから、男がそんなみっともなく泣かないの。」

フローレンスに宥められ、なんとかフレデリックは泣き止んだが、酷い顔をしていたうえ、呼吸も整っておらずまともに話せそうになかった。


『こうなった経緯であれば、我々が事細かに説明しよう。久方ぶりだな、アルフレッド殿。』

そう切り出したのはユニコーンだった。

「お久しぶりです。ぜひともお願い申し上げます。」

『我と我の息子が、この愚かな悪魔のような人間に捕まり、逆さ吊りにされ、首を切られて血を抜かれていたのだ。息子の助けを求める声に気づいたこの子どもらが駆けつけてくれてな、よく見たらただの子どもらではないではないか。これだけの精霊を引き連れて、何やら尋常ではない加護まで受けておる。この子どもらならば、息子を助けられると思い、我も助けを求めたのだ。』

皆が息を飲む。

『この娘は特に賢い。まず、お主らに助けを求めた後、冷静に状況を見極め、段取りを踏んでから悪魔に奇襲をかけたのだ。愚かな悪魔は、子どもらが近くにいる事さえ微塵も気付いていなかったから効果は想像以上だった。

急にその少年が飛び出して風魔法で飛ばして、すかさず雷で麻痺させ、すぐに2人でそのように縛り上げて、娘の歌のような呪文で眠らされ、悪魔どもは抵抗する間も無く今に至ってこの有様じゃ。』

「ではこの子達は、一切攻撃などは受けていないのですね?」

ローランが問いかける。

『全くもって受けておらぬので安心するが良い。奴等を縛り上げた後も、少年が直ぐに武器を回収し、我と息子を丁寧に解放してくれた。それから、少年が防御の結界を張った中で、その娘が治療を施し始めた。我は本当に驚いた。まさかそこまで世話になるつもりも無かった。まだ幼い娘がそのような力を使えるとは想像さえ及ばなかったしな。

娘は我が息子の傷を塞ぐのに、3度術を施して、その後、意識の戻らぬ息子に再び3度術を施したのだ。

それでやめておけばいいものを、我の後ろ足の怪我にも術を施し、体力回復の術までかけて意識を失ってしまったのだ。無理をさせて心苦しい限りだ』

「ご説明くださり感謝いたします。何より、あなた方とこの子達が無事で何よりだ。それから、あなた方が悪魔と呼んだ人間達ですが、こちらで預かり、然るべき罰を与えたいと考えていますが、それでご納得いただけますか?」

ローランが尋ねた。

『勿論それで構わぬ。しかし感謝するのは我々の方である。この恩は必ずや返そう。しかしながら、直ぐにとはいかぬ。我が息子が成長するまで待って欲しい。時が来たら、この子どもらに我々が仕えよう。助けが無ければここで消えるはずであったこの命だ。我々は彼らに喜んで仕えよう。』

「では、その時が来たとき、この子達に判断を委ねる、それでいかがです?」

アルフレッドが答えた。

『そうであるな。それから、そこに転がっている瓶だが、我が息子の血が入っておる。奴等はあの様な惨い事をしてまで求めるのだから、人間にとっては有用なものなのであろう。娘の回復の術のお陰で我々にはもう必要の無いものだ。それをもって行くが良い。』

『いつになるかわかりませんが、このご恩は必ずやお返しいたします。』

『少年よ、本当に感謝する。娘に礼が言えないのが残念だ。宜しく伝えてくれ。お主は本当に勇敢だった。これからも娘を守ってやるのだぞ。ではまた会おう。』

そう言うと、ユニコーンの親子は森の中へと消えて行った。


ローランがリラを抱きかかえ、アルフレッドが瓶を回収した。

フローレンスがフレデリックの手を引く帰り道。

アルフレッドは1人、考えていた。

誇り高きユニコーンが、その血を分け与えたということ。

こんな幼い子ども達に、直ぐでは無いとはいえ、喜んで仕えると言い出したこと。

当事者、しかもあの状況で1番客観的に物事を見ることが出来る彼から経緯を聞いて思ったのは、あの子達は、自分たちが思っていた以上の能力を身につけていたということ。


知らせを受けて、向かっている時は、全く何を考えているのだと叱るつもりでいたが、今はそれが適切では無いと思えた。

どうせ、戻れば母親達が叱るのだ。

それは母の務めなのだ。

では自分は何をすべきか。


あの子達は、こちらに連絡をした上で、自分たちで解決出来るかきちんと判断して行動に移している。

彼らは確かに心配はかけたが、褒められるべきことをしたのだ。

ここで叱ってしまえば、彼らの正義を否定したととられるかもしれない。

また、このような場面に出会った時、自分たちに助けを求められなくなるのでは無いか。

あの子達の素直さ、善悪の判断を歪めてしまってはいけないのだ。


全く、今日は驚かされた1日だった。

この子達は、きっと自分達の持つ力の偉大さを理解していないだろう。

アルフレッドを含めて、周りの大人達が当たり前のように使っている力。

特殊な環境で育った彼らに理解しろというほうが難しいのかもしれない。

それには周りが特殊であることを認識させる必要がある。

そして、それを学ばせるのも自分たちの責任で有ることを感じていた。


また、話し合う必要がある。

彼が出したのはそんな結論だった。

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