告白
更新が遅くなり申し訳ありません。
「えっと…それはつまり…国王陛下公認で恋人を演じていると?」
「公認っていうかお祖父様が言い出しっぺだからね。」
「…でもなんで?」
「王侯貴族には色々なしがらみがあるのよ…本当にくっだらないのが、たーくさん。」
「今までサラに黙っていて本当にごめんなさい。」
「…仕方ないわ。聞いてしまった今も混乱しているもの…。でもすごく…楽になった…ごめんなさい。私、勘違いしていたの…。こんなに大事な事を私なんかに打ち明けてくれてありがとう。」
帰宅するとフレッド、アンヌ、アル、そしてサラが私を待っていた。
妙に緊張した面持ちのサラは、彼女とは対照的に穏やかな顔のフレッドとアル、2人の顔色をずっと窺っていたらしい。
「私達、サラに内緒にしていることがあるの。今日はそれを謝りたくて…。結論から言うわ。私とアルはただの親友。婚約者でも恋人でもないの。」
「え……?」
サラは噂を信じて疑わなかったのだろう。
私の告白に対して言葉を失っていた。
彼女自身が勘違いをしていたことに気付くまで数分を要していた。
追い打ちをかけるように「完全にリラに両天秤疑惑がかかってたわよ?」なんてアンヌに言われ、非常に肩身の狭そうな様子のサラ。
「私の恋人はフレッドで、結婚の約束もしているの。…結の精霊、この間サラの子になった精霊たちと私とフレッドは契約を結んでいるわ。」
「そうだったのね…。ところで、『契約』って何?」
どうにか事態を飲み込んだサラに、アルが精霊との契約について説明をする。
精霊術師であれば、必ず知っているのかと言えば、そうでもないらしい。
光の精霊や空の精霊との契約は一般的なものではあるが、闇の精霊と結の精霊との契約に関して言えばあまり知られていないのだ。
闇の精霊自体がこの国には殆どいないと言っても過言ではないし、闇の精霊との契約がこの国ではもちろん、国交のある周辺諸国でも禁じられている。
それに関する書物は出版規制が敷かれているし、大昔に出版されたものも現存するもののほとんどが国によって回収され、処分又は封印されている為、情報がシャットアウトされている。
一方、結の精霊はというと、もともと数は少なくないものの、「純粋に」結の精霊として存在している精霊は非常に少ないらしい。
そのほとんどが、四精霊のフリをしてそこかしこに存在しており、一部が人と人との縁を結んでいるが、契約を結ぶほど活性化(私やフレッドの子たちのように虹色の輝きを放つような状態)するにはいくつもの条件をクリアしなければいけないらしく、その姿はなかなか見られるものではないらしい。
それゆえ、「結の精霊」という精霊が存在するらしい、ということは一般に知られてはいるが、結局のところ、活性化する条件も、契約に関しても、結の精霊の気まぐれである部分が大きく、契約者をサンプル調査するにしてもそのサンプル自体が少ない上に、成約者の殆どが成約した事実を隠すケースが殆どなので、謎に包まれた非常に部分が大きく、精霊術師であっても良く知らない、聞いたことはあっても見たことは無い、「結の精霊?なにそれ美味しいの?」な人も多いのだ。
……かくいう私も、契約を結んでいるくせに良くわかっていない。
個人差が大きいというか、ケースバイケースというのも良く知られていない原因なのだろう。
私が知っていることと言えば、私はフレッドとは決して結ばれない運命だったということ。
私とフレッドは必ず結ばれなければいけないということ。
そのために、精霊たちの非常に強い加護がついていること。
しかし、悪意を持ってそれを阻止しようとする者が現れた場合、私と私を加護する精霊は悪影響を受けてしまい、体調を崩してしまうこと、それを改善するためにはフレッドとフレッドを加護する精霊の力が不可欠だということ。
フレッドに抱きしめられると、私も精霊たちも調子が良くなること………ほんのこの程度。
アルがサラに説明している内容もほぼそんな感じだった。
アルの説明に、サラは神妙な顔つきで、真剣に聞いていた。
時々メモを取りながら…。
翌日からサラはまたいつものサラに戻った。
昨日の余所余所しい態度は、どうやら一昨日私とフレッドが親密にしている様子を見てしまったからだったらしい。
アンヌの言うところの「両天秤疑惑」とか「浮気疑惑」というやつだ。
サラ自身が戸惑ってしまい、私に対してだけでなく、フレッドやアルに対してもそうだったらしい。
「お、どうやら疑惑は晴れたらしいな。」
ルイにそう言われてしまったところを見ると、ルイも気づいていたようだ。
ルイは不愛想に見えて実はものすごく気遣いの人だ。
無関心の様に振舞っているが、誰よりも周りを見て、状況を把握し、少しの異変も見逃さない。
それでいて、すごくさりげなくフォローする。
かと思えば、思ったことはアンヌと同じか彼女以上にはっきり言う。
アンヌとルイのやり取りは見ていて本当に面白い。
心の声がダダ漏れ。
そんなにもはっきり言える2人がうらやましい。
特に、フレッドとの関係を隠さなくてはいけなくなってしまってからは特に羨ましく思ってしまう。
多少慣れたとはいえ、サラに勘違いされた一件で以前よりも強く。
いくら、私とフレッドとアルの利害関係が一致しているからって…。
昨日、サラに告白した後、3人でそんな話をしたら、アルとフレッドに言われてしまった。
「深く考えたらいけないことがこの世にはたくさんあるんだよ。今の僕らにとって、これがベストなんだ。考えない方が幸せなんだって…。」
「リラ、アルの言う通りだよ。これがお互いのためなんだ。リラの為にも、アルの為にも、もちろん僕の為にも…。」
「とは言え、僕もアンヌみたいに思ったことをはっきり言いたいって思ったことは物心ついてから常々思ってきたことで、実際にそうした時期もあった。でもね、僕にはそれが向いていなかったんだよ。彼女とは兄妹でも置かれている状況が違うわけだし、性格も違う。僕の場合、言いたいこと言ってすっきりすることよりも、言ってから後悔することの方が多くて余計辛かった。僕だけじゃなくてきっとリラも、フレッドもそういうタイプだと思う。だからこのままでいいんだよ、僕らは。」
「そうかもしれないわね…。」
私は精一杯の笑顔でそう答えた。
なぜか、アルは苦しそうな目をしていた。
アルだけじゃない、フレッドもそうだ。
2人とも、笑っているけれど目は笑っていなかった。
「ほら、リラもそんな顔しないで…。」
どうやら目が笑っていないのは2人だけではなかったらしい。
***
入学してから2か月以上が経過し、秋はすっかり深まっていった。
秋は採集・収穫の季節。
それは緑の森(アルフレッドおじ様の住む王城ではなくリアルな森の方)でも例外ではなく、薬草学の授業で使う材料となりうる茸や魔力を込めて採集しないと効力がなくなってしまう黄金色の樫の実やブナの実、赤銅色に鈍く輝く楓など、学校でも材料を備蓄する必要があるらしく、特待クラスの1年生、つまり私達向けの仕事としてたくさんの依頼があった。
急を要する物は依頼としてではなく、課題として出されているあたり、アンヌが「パシリ」というのもあながち間違っていないと思う。
特に私は校内で受けるべき授業や補助を出来る授業が少ない上、土地勘もあるので誰よりもそのような仕事や課題をこなしていた。
しかも、使いで治療院を訪れることが多かったので、やってることは入学前と大差ない。
間違いなく学校で過ごす時間よりもそれ以外の時間の方が多い。
多いどころか学校には出欠の時顔を出し、提出物を出しに行くだけ、ここ半月はそう言った方が適切かもしれない
校外特別個人指導という形で術の効率を上げるとか、応用や転用、多少高度な事を教えてもらっているが、教師はもっぱらアルフレッドおじ様か院長先生。
一応二人とも特別講師という位置づけではあるらしいが余計入学前と大差ないと思ってしまうのは仕方ないだろう。
実母が生きていたころ、毎日かけていた血液浄化の術は意外なところで役に立った。
薬草学では様々な種類の茸を材料として使用するのだが、その殆どが毒茸で、一口食べたら即死、なんて猛毒を持つものも少なくない。
特に、緑の森産の物は毒っ気が通常の森の物よりも強く、サイズも大きいので、王国内の持ち込みが規制されている。
1つ持ち込めばそれこそ何十人、何百人を毒殺することも可能なのだ。
エルフの技術で無毒化した物だけが持ち込むことが出来、流通している。
「エルフの技術」ということになっているが、実は無毒化の方法には数種類がある。
まず、本当にエルフの技術で無毒化する方法。
塩漬けにした後、門外不出の独自のブレンドで煮出した毒消しの薬草で塩抜きをして、精霊の協力のもと熱処理を施してさらに乾燥させ…言葉にすれば簡単だが、そのためには結構な労力と時間を必要とする。
小さな村などでは今もこの方法で解毒処理をしているらしい。
そして、光の精霊と契約したエルフが茸に毒消しの術を数回かけて無毒化する方法。
ポイントは光の精霊と契約をした術者でないといけないということ。しかもエルフというところがミソなのである。
光の精霊との契約では、他の精霊術が一切使えなくなる代わりに強力な治癒・回復系統の術を使えるようになる。それがエルフであると、より強力な力を得ることが出来る。
とはいえ、光の精霊と契約しているエルフの数はそう多くない。
そして私や院長先生が行う方法。
血液浄化の魔法を応用して、茸の毒素を分離し無毒化する方法。
この場合、分離した毒素の処理が問題となる。
適切に処理をしなければいけない。
この処理はアルフレッドおじ様任せなので、私は良くわからない。
万が一、この毒素が悪い人の手に渡ってしまうと非常に不味い。
劇薬指定なんてレベルじゃなくて、兵器にさえなり得る。
光の精霊術では毒を『消す』のだが、これは『分離』するだけ。
昔ながらの方法も毒を薄めて消している。
というわけで、この方法は一応秘匿とされているが、それ以前に血液浄化の強力な術が使える術師がめったにいないので、この方法を使うのは私と院長先生のみらしい。
一応、建前としては、私が採集した毒茸を技術者のところへ持ち込み、その10分の1程の解毒処理をした茸と交換して持ち帰るということになっている。
実際は、自分で採集したものを自分で解毒処理した後精霊の協力のもと乾燥させ、3分の1をアルフレッドおじ様のところへ、3分の1を院長先生のところへ、残り3分の1を学校へ提出している。
依頼を出した薬学教師は私が持ち帰った量の多さに驚いていたが、「幼いころから遊んでいるので土地勘が…」と誤魔化しただけであっさり納得してくれた。
茸の採集は基本的に私が1人で行くときにだけ行っている。
処理の方法についてはフレッドにさえ内緒にしているのだ。
アンヌとサラ、アルが一緒のときは魔力を必要としない天然の薬草の採集、フレッドやルイが一緒のときは魔力を込めて採集する必要のある木の実や木の葉をメインでしている。
「リラ、また後でね。」
「今日はローラン様が一緒なのよ?是非ゆっくりしてきて!」
「リラ、くれぐれも無理をしないようにね。」
今日はアンヌ、サラ、アルが森へ行った。
私は基本1人でウロウロしていいことになっている。
土地勘があるし、最悪転移魔法が使えるからだ。
私は院長先生のところへ実務訓練という名のお手伝いを半日ほどこなしてから行くことになっている。
それまでは迷子防止のため、兄が3人に同行するらしい。
相変わらず私の兄が大好きなアンヌとしては私が行くのが遅ければ遅いほど嬉しいのだ。
私は3人と別れて院長先生の待つ治療院へと向かった。




