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【知りたくなかった事 (※サラ視点)】

国立学校入学以来、私は本当に充実した毎日を過ごしている。

ここに入学していなかったら一生会うことも話すこともなかったであろう高貴な生まれの人たちがクラスメイトで、私を友人だと言ってくれる。

今でも信じられない。


この国の王の血を引く直系の王子と王女、自身も王族で私の尊敬する方の娘である公爵令嬢、非常に優秀な魔術師の伯爵令息が2人。

これだけ聞くと、住む世界の違う、すごくプライドが高くてお高くとまっていそうな感じがするけれど、彼らは全然そうじゃない。優しくて、気さくな、同世代の少年少女。

ただ、みんな実力が凄い。

それを鼻にかけるでも、ひけらかすでもなく、必要なときに必要なだけ使う。


私が貴族の子息や令嬢に馬鹿にされたり、嫌がらせされたら助けて守ってくれるし、恥をかかないようにいろいろフォローしてくれる。


私は彼らに何もしてあげられない。

いつも助けてもらうばかり。

守ってもらうばかり。




そんな自分に引け目を感じていた。

それに気付いたアンヌとリラは何で引け目を感じるのか、友人なんだから助けるのも守るのも当たり前だって言ってくれて、たとえ今は私が彼らを助けることが出来なくても、それがずっと続くわけじゃない、いつか困ったときには助けてね、って言ってくれる。

それから、実はもう、私の笑顔にみんなが助けられているんだよ、って教えてくれた。


だから、少しでもみんなに迷惑をかけることが少なくなるように、早くもっとちゃんと助けてあげられるように、最低限のマナー位は早く身に着けて、彼らの側にいてもとやかく言われることが少なくなるように、そう思って毎日リラの家へ通って憧れのフローレンス様の指導を必死で受けている。




子どもの頃からフローレンス様にレディとしての教育をみっちりたたき込まれたリラは完璧な淑女だった。

ちょっぴり天然なところもあるけれど、それも彼女の魅力だ。

そんな彼女に、王子のアルがベタ惚れなのも頷ける。

本人たちからではないけれど、みんなが噂をしているところによると、子どもの頃から実は相思相愛で、アルの成人のお祝いの夜会で、リラが社交界デビューした際、国王陛下や王太子殿下、そしてたくさんの貴族の前でアルがリラに求婚して、リラがそれを受け入れたんだと聞いた。

まだ2人は学生なので、正式には発表されていないが、2人は婚約しているともっぱらの噂だ。


そのことについて、本人たちを前に触れたことがある。

少し困ったような顔をしたが2人とも否定などしなかった。


だから、私はそれを信じていた。

昨日までは…。




でも、昨日知ってしまったんだ。

知りたくなかったことを…。



「アル……内緒にして……………リラとの事…………周りに気付かれないように……………仲良くしている人に隠して……心苦しいよね。」


フローレンス様のレッスンが終わり、リラに声をかけるためリラの部屋を訪れた。

ドアは少し開いていて、ノックしようとした時、中から聞こえたフレッドの声。

はっきり話が聞き取れたわけではないけれど、彼の声色からただならぬ話しであることがうかがえた。


いけないとは思いながらも、少し中を覗くと、寄り添ってソファに座るフレッドとリラ。

そして、次の瞬間、フレッドの唇がリラのそれと重なった。


「私が本当に好きなのはフレッドだけ。アルの恋人のフリをし続けるのはやっぱり苦しいわ。アルにも申し訳ないし…。」


そして、2人の唇が離れた後、リラの口から出た言葉に私の頭の中が真っ白になってしまった。


逃げるように階段を下りて、私は呼吸を整えた。

リラの室内には、昼間、緑の森(フォレ・ヴェール)で見た彼女に加護をする精霊たちよりもずっと多くの精霊たちがいて…その精霊たちの雰囲気も今まで見たことのないような不思議なものだった。


「さっき聞いたのは…嘘だよね?リラとフレッドが…まさか…きっと私、夢でも見たんだわ…それとも何かの術かしら?」

自分に問いかける。

嘘だと言い聞かせて…見なかったことにして…明日からまた今まで通り過ごしたい。


『嘘じゃないよ…本当だよ…リラとフレッドは愛し合ってる…アルとリラは偽りの恋人。』


急に頭の中に響いた、今まで聞いたことのない声。

この感覚は精霊に話しかけられているときの感覚。

昼間、話した結の精霊と似ているけれどちょっと違う。


『僕はフレッドを守ってる』

振り向くとそこにいたのは、昼間私のところへやってきた精霊よりも鮮やかに光を放つ結の精霊だった。

『リラが本当に好きなのはフレッド。アルじゃない。』

そう告げると、その精霊はどこかへ行ってしまった。




「すみません、私、今日はやはり帰ります。用事があったのを忘れていて…。リラにもよろしくお伝えください。」

「あら?お嬢様にはお会いにならなかったんですか?」

「ええ…明日また学校で会えるので…。」

「畏まりました。ではすぐ馬車を手配しますので…。」

「いいえ、今日は早いので歩いて帰ります…。」

「それでは私が奥様に怒られてしまいますので、そう仰らないでください。」

「…すみません。お願いいたします。」


リラの家のエルフの使用人のクレールさんにご挨拶をして帰る。

リラやフレッドに会って今まで通りに接する自信は無い。

私は2人に会いたくなかった。

2人から逃げたのだ。




最近やたらとフレッドとリラは一緒にいることが多い。

授業の関係だろうけど、いつもフレッドはリラの側にいて、リラを守っている。

てっきり、彼の親友の婚約者を親友に代わって守っているものだと思っていた。

リラとフレッドのしていることはアルに対する裏切りなのではないか?

アンヌは知っているのだろうか?


私は特にリラにお世話になっている。

入学式の前日の夜会での件もあるし、普段もさりげなく助けてくれるのはリラであることが多い。


彼女の秘密を守ることが、彼女への恩返しになるのではないか?

しかし、それは同時にアルやアンヌに対する裏切りである。


アルやアンヌは、授業で一緒になることも多く、彼らにも私はお世話になりっぱなしだ。


一体どうしたらいいのだろうか?

私はどうすべきなのだろうか?


分からない。いくら考えても分からない。


リラも、フレッドも、親友に対して裏切るようなことをなぜできるのだろう?

しかも、学校でリラはアルに寄り添い、守られているのに…。

フレッドだって、アルとあんなに仲が良いのに…。


見なかったことにして、今まで通りに接する。

結局これが一番ベストな気もした。

しかし、私は良心の呵責を感じずにはいられない。


苦しい…。






結局、どうすることも出来なかった私は、翌日、つまり今日の朝、学校で皆と普通に接することが出来なかった。

特に、リラを避けて過ごした。

彼女と話すことはおろか、目を合わせることすら困難だった。


幸い、彼女とは午前のカリキュラムが別々だったし、午後はマダムの言いつけでリラは校外へ使いに出かけていた。


「おい、様子がおかしいぞ?どうかしたのか?」

授業が終わり、私に声をかけてくれたのはルイだった。

「何でもない…。」

そう答えることしかできない。

「何でもなかったらそんな顔をするな。明らかにリラとフレッドとアルを避けているのはなぜだ?」

「気のせいじゃないかな?」

「そうか、気のせいなのか…俺の気のせいか…それなら良いけどな。」

それ以上、彼は聞かなかった。

明らかに、気のせいではないことを理解している。

ルイも知っているのだろうか?

昨日聞いてしまった事を打ち明けて、知っているのかと質問してみたい衝動に駆られる。

「あの…やっぱり何でもない。」

私が言いかけた時、アンヌに声をかけられてしまい、私はルイに聞くことを断念した。


「サラ、今日ってダンスのレッスンよね?私とアル、それからフレッドも一緒にリラの家に行くわ。あの子、遅くなりそうだから先に行きましょう?ルイも一緒にどう?フローレンス様のダンスレッスン。」

「俺はやめておく。」

「やっぱりそう言うと思ったわ。じゃあまた明日ね。サラ、行きましょう?」

「え…あ、うん…。」


リラの家で彼女と顔を合わせることになるのは避けられないだろう、そう思うだけで気が重く、体調不良を理由に今日のレッスンを休もうかとさえ思っていたのに…。

とてもアンヌを断れるような雰囲気でもなく、仕方なく、それを皆に気付かれぬように笑顔をつくろい帰りの支度をする。

よりによって、アルとフレッドが2人ともいるとかどんな拷問だろう…。

今はリラがいないとはいえ、これから行くのはリラの家。

レッスンが終わるまでに彼女は帰ってくるだろうし、そうすればフレッド、アル、リラの3人が顔を合わせるなんて避けようがない。


私はその時、どんな顔をしてそこにいればいいのだろう?

とても今まで通り振舞う自信も、今のように必死で笑顔をつくろい続ける自信もない。


「サラ、顔色が悪いけれど大丈夫?」

「ええ…何でもないわ。大丈夫よ。」


アンヌに指摘され、笑顔をつくろえていないことを知る。

リラのいない今でさえこうなのだから、先が思いやられるがこうなってはいかないわけにもいかない。

体調不良を理由に休んでしまっては、アンヌ達に心配をかけてしまうだけだし、問題を先送りにするだけ。

今日、その場に言わせたところで問題が解決するわけでも、先送りにならない保証があるわけでもないけれど、逃げてはこの先もずっと逃げ続けることになる気がした。


私は大きく深呼吸して、私を待つ3人のもとへと向かう。

いつも通りのアンヌと少し緊張の面持ちのアル、穏やかな顔をしたフレッド。



「リラ程はうまくないけれど…。」

そう言うフレッドの転移魔法でフーシェ公爵邸に降り立った。

そして、いつも通り、フローレンス様のレッスンを受けるべく、私はその重いドアをノックした。


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