【1年半ぶりの再会 ※ノエミ視点】
更新が遅くなり申し訳ございません。
リラの妹?ノエミ視点です。
「リラ様、やっぱりお美しいわ…今日も素敵なドレスね…アルベール王子と本当にお似合いだわ。」
「いつご婚約の発表をされるのかしらね?」
「卒業してからって噂じゃない?」
私は自分の目を疑った。
「でも、特待クラスって分かりやす過ぎるわよね。」
「王子と王女と王子の婚約者を特別待遇するクラスですもの…。」
「護衛だって言われているけど…フレデリック様もルイ様も素敵よね。お近づきになりたいわ。」
「やぁねぇ、そんなの無理よ。何しろ士官学校の首席と次席ですもの…将来は王子の側近間違いなしね。」
「でも学生ってくくりでは一緒なんだからチャンスさえあればどうにかなっちゃうかもよ?」
「そのチャンスが問題でしょ?」
「2人だけじゃないわよ?他の3年生だって優秀な魔術師と精霊術師なんでしょ?」
「まるでこの国の将来の重鎮が揃ったクラスね。」
「でも1人正体不明の女がいるって話だけど?」
「どうせ人数合わせでしょう?でも運がいいわよね。あんな素敵な方々と同じ空間で過ごせるなんて…。」
今、私はぺルル宮殿で行われている国立学校の入学祝賀会へ出席している。
バカンスの季節、私は王都を離れお母様と2人、旅行へ出かけていた。
お母様の実家、海に面した領地を治めるお祖父さまの屋敷へ滞在し、近くの観光地や、保養地で過ごした。
私のいなかった2か月程で、社交界はすっかり様変わりしていた。
私のいない間に、アルベール王子殿下とアンヌ王女の成人のお祝いの夜会が開かれ、そこで1人の少女が衝撃的な社交界デビューをしたらしい。
その少女は、とある伯爵家の生まれだそうだが、病弱な母の静養のため、王都から離れて暮らしており、今まで貴族の社交の場に顔を出したことがなかったそうだ。
しかし、1年半ほど前、彼女の母が亡くなって、彼女は祖父母に引き取られ養女となったのだと言う。
容姿端麗、美しく儚げな彼女は王子の婚約者と噂されている。
容姿だけではなく、王子の婚約者としてもふさわしい血筋。
久しぶりに会った友人がそんな話をしてくれた。
その話を聞いた時、私は背筋が凍るような感覚に襲われた。
そして、その少女の姿をこの目で確認した今、、何とも言えない、居心地の悪さに苦しめられている。
1年半前のあの日を思い出したのだ。
私は恋をしていた。
1つ年上の少年に恋をしていた。
彼との出会いは、もう8年も前の話。
母に連れられ、訪れた母の友人の別邸で出会った。
次の年も、その次の年も、夏は母の友人の別邸で過ごし、そこには彼もいた。
1つしか変わらないと言うのに、彼は紳士だった。
マナーも、立ち振る舞いも、ダンスも、武術も、乗馬も完璧にこなし、素晴らしく素敵だった。
年に1度、彼と会える日々は夢のようだった。
ある年、彼と私の父が親しげに話しているのを友人が見たらしい。
その会話の内容から、私と彼が相思相愛であると私は信じて疑わなかった。
甘い期待を胸に秘め私は成長した。
私と彼は将来結婚できるのではないか…。
そんな期待も、1年半前のその日、あっけなく音を立てて崩れた。
残ったのは、怒りと、憎しみと、苦しみと悲しみ、空しさだった。
彼が思いを寄せていたのは、私ではなかった。
今、社交界で王子の婚約者だと噂されている少女だった。
私と彼女は、かつて仲良くしていたこともあった。
私と彼女は同じ人を父に持つ姉妹だった。
しかし、いつの頃からか私は彼女に不信感を持っていた。
理由は覚えていない。
本能的な嫌悪感とかそんな類のものな気もする。
彼の思いを知った私は彼女を許すことが出来なかった。
もう、彼女は私の姉妹でもなんでもない。
ただ、私から彼を奪った憎むべき女でしかないのだ。
私から彼を奪ったはずなのに、なぜ、王子の婚約者として私の前に姿を現すのだろうか?
彼は、あの女に思いを寄せていたはずなのに、なぜ2人の側に平気な顔していられるのだろうか?
私にはわからない。
しかし、あの女が彼を手放したなら私が彼を奪い返すまで。
「エミ、どうしたの?顔色が悪くてよ?」
私の友人ミレーヌが私に声をかける。
私はノエミ・リディ・シャルロワ。
明日から国立学校の貴族クラスへ侍女見習いのセバスチアンヌと共に入学する。
国立学校の貴族クラスと言えば、貴族の家に生まれた女子にとって最高の花嫁修業。
最上級のマナーともてなし、家を守る妻としての務めや心構え、その他諸々を学ぶのである。
「ミレーヌ、何でもないわ。ありがとう。」
「リラ様って、本当にお綺麗で憧れちゃうわ。エミはお目にかかるのは初めてよね?デビューされた夜会でも、アルベール殿下がべったりだったのよ?」
私の父がリラの母と結婚していたのはあまり有名な話ではないらしい。
リラの母は貴族社会では忘れられた人。
私自身も、リラの存在を知ったのはある程度大きくなってからだった。
私の友人たちも、リラと私が姉妹だということを知らない。
「そうだったのね。…フレデリック様、相変わらず素敵ね。」
「そう言えば、昔、フレデリック様とエミのお父様が意味ありげな話をしていたじゃない?」
「そんなこともあったわね。あれ、聞き間違いだったんじゃないのかしら?」
「幼いころの話だし、早とちりの得意なセリアだものね。でも、知り合いっていうだけでもすごく有利だと思うわ。彼の事を狙っているご令嬢ってすごく多いもの。」
私の恋敵はリラだけでないことを知る。
クラスメイト達も皆、フレデリック様を狙っているのだ。
「ミレーヌはエドワール様とどうなの?」
「今日、一緒にここまで来るつもりだったんだけど…用事があるとかで一緒に来れなかったの。やっぱりあちらのクラスは忙しいみたい。」
「そう言えば姿が見えないわね?」
ミレーヌの幼馴染で彼女が思いを寄せるエドワール様は文官クラス。
私とフレデリック様が出会ったのも、ミレーヌとエドワール様が幼馴染だったから。
「彼がフレデリック様やルイ様と仲がいいって知ったご令嬢たちが彼を取り囲んでいるのよ?失礼な話だと思わない?」
どうやらクラスメイト達が恋敵となりうるのはミレーヌも同じ。
私の置かれた状況と大差なさそうだ。
「王子や王女だからって特別扱いかよ?」
「公爵令嬢って、やっぱフローレンス様の孫だし精霊術くらい使えるんじゃないか?」
「その割には精霊の気配が全くないぞ?」
「隠しているのでは?」
「まさか、それにしても気配がなさすぎるだろう?」
「まぁ、エルフの血を引いていても必ず精霊術が使えるとは限らないしな。」
「孫なら25%だもんな。使えない確率の方が高いか…。」
「でも、王子も王女も公爵令嬢も精霊術の実技試験受けているらしいぞ?」
「どうせパフォーマンスだろう?」
「流石に20年ぶりに特待クラス開設するのに実技試験もなしじゃいくら王子様でも体裁が悪いんだろうな。」
「そんなところだろう。」
「まぁ、護衛の2人はそれなりらしいじゃねぇか?」
「ああ、士官学校の主席と次席って奴らね。」
「士官学校でも王宮魔術師の特別授業受けてたって噂だしな。」
「まぁ、20年ぶりの開設もまったくの無駄じゃないならいいんじゃねぇの?」
「それと意外だったのがさ、もう一人の…。」
「謎の女?サラ・ルコントだっけ?」
「さっき、それらしき子見かけたんだけど…精霊の手厚い加護受けてたよ。あの子も本物じゃないかな?」
「まぁ、特待と俺ら特別クラスとは合同授業あるわけだし、実際始まったら実力もわかるだろうな。」
特別クラスに配属された上級生らしき生徒たちの話。
私はリラが精霊術を使えると言う話を聞いたことがない。
おそらく、彼らがひそひそ話している内容は大方間違っていないのだろう。
「あの特待クラスになった一般人、歩いてここへ来ていたんですって。」
「本当?信じられないわ。」
「さっき、上級生にワインをかけられていたらしいじゃない?」
「庶民がアルベール殿下やアンヌ様、リラ様と一緒のクラスっていうのがおかしいのよ?」
「アンヌ様とリラ様って親友なんでしょう?お2人に相手にされるわけもないでしょうに…可哀想ね。」
「マジで可愛いよなぁ…リラ嬢。」
「おい、王子の女に手を出すのかよ?」
「見てるだけだよ、そんな恐ろしいこと出来るかよ?」
「リラ様のドレス、どこで仕立てられたのかしら?」
「素敵よね…お話ししてみたいわ。」
「今どちらにいらっしゃるのかしらね?先程からお姿が見えないわ。」
「休憩されているんじゃない?アンヌ様も王子殿下も護衛の2人もいらっしゃらないわ。」
会場のあちらこちらでリラは話題に上がっていた。
彼女の話を聞くたび、苛立つ私がいた。
もし、彼女が私に気付いて話しかけてきたらどうしよう?
ふと、そんなことを考えてしまった。
しかしそんなことは杞憂に終わった。
彼女はもう雲の上の人だったのだ。
「エミ、ミレーヌ、アルベール殿下とリラ様、アンヌ様が戻られたんですって。」
「フレデリック様とルイ様もいらっしゃったわ。」
合流した友人のセリアとロザリーもやはりリラが気になるらしい。
「話しかけてみましょうよ?」
ロザリーの提案で、近づいてみようにも、彼らは他の生徒たちに囲まれてとても話しかけられそうになかった。
基本的に、リラの隣にはアルベール王子が立ちエスコートしている。
しかし、アルベール王子が離れるとすかさずフレデリック様がリラの側に移動する。
ルイ様はアンヌ王女の近くにいることが多い。
「フレデリック様はリラ様の護衛で、ルイ様はアンヌ様の護衛なのね。羨ましいわね…。」
ルイ様に思いを寄せているロザリーがうっとりした顔で私に話しかける。
「本当ね。」
苛立ちを表に出さないように努めて短く返事をする。
リラは、アンヌ王女と白い花がたくさんあしらわれた素敵なドレスを身にまとった綺麗な少女と楽しそうに話している。
私になんて気付く様子もない。
おそらく、私の存在など覚えていないのだろう。
暫くすると、彼らの周りを取り囲んでいた生徒たちが順に話しかけ始めているようだった。
時々、リラは男子生徒にダンスに誘われているようだったが、その度に、アルベール王子が断っていた。
リラから離れている時でも、わざわざ戻ってきて断っているようだった。
本当にアルベール王子はリラにべったりだった。
可能な限り、リラから離れず、リラの隣で優しく微笑んでいる。
「アルベール殿下って本当にリラ様に夢中なのね。」
「だって、成人のお祝いの席に国王陛下の前で求婚してしまうくらいですもの。」
「私もその場で見ていたけれど、本当に素敵だったわ…。」
「フレデリック様って、アルベール殿下の親友なんですって。殿下が親友であるフレデリック様にリラ様の護衛をしてほしいって頭を下げたそうよ?」
「それでフレデリック・ガルニエの後見人がフーシェ公爵だったのか。」
「でもそもそも、フレデリック様とアルベール殿下ってどういうつながりなの?」
「噂では、フレデリック・ガルニエの能力を国王陛下が見込んで幼いころから一緒に学ばれていたとか…。」
「ルイ様は近衛副隊長のご子息ですものね。」
王子や王女に話しかけた生徒たちが彼らの噂をしている。
私の知らないリラの話。
私の知らないフレデリック様の話。
苦しい。
私は何も知らない。
憎い。
何であの女は笑っているのだろう。
私からあの人を奪っておきながら、王子殿下に乗り換え、それでも彼を拘束している。
夜会の間中、どす黒い感情を隠すのに必死で、その後の事は覚えていない。
私はあの女を許さない。
あの女もこの苦しさを味わえばいいのに…。
ただ、それだけが私の心の中を渦巻いていた。




