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【クラスメイトとの出会い (※サラ・ルコント視点)】

新キャラ視点のお話です。

「えっと…ここで合ってるんだよね…。」

私は圧倒されていた。

話には聞いていたけれど、まさかここまでだったとは…。


かつての栄華をいまに伝える豪華絢爛な造り。

青々と茂る生垣。

広々とした庭園には花が咲き誇り、きっちり刈り込まれた木々が規律正しく並んでいる。

そこへ次から次へと入ってゆく見事な馬車。


身分不相応。


その一言に尽きる。

出来ることなら、欠席したかった。

いや、欠席するつもりでいたし、それが暗黙の了解で常識だったはず。


例外を除いては…。

残念ながら、私はその例外に当たる生徒だ。


私が訪れたのは、ペルル宮殿。

100年ほど前までは、とある公爵家の邸宅だったそうだが、お家断絶してしまった現在は、私が明日入学する予定の国立学校の施設の一部となっている。

私は2か月ほど前、国立学校の入学試験を受けた。

精霊術師のクラスを第1志望、一般クラスを第2志望で受験した。

あわよくば、特別クラスに配属されて授業料が免除されたらいいな…なんて甘い気持ちも抱いていたが、夢のまた夢。

私のようなただちょっと精霊術が使えるだけの何の取柄もないような小娘がそんなクラスに入れるわけがない。

噂によると、士官学校の主席と次席で卒業した貴族の子息が揃って魔術師だという噂だし、今までの傾向としても、特別クラスは断然魔術師率が高いらしいし、男女比も圧倒的に男性が多い。


試験が終わり、帰ろうとした時、翌日再度試験を受けるように言われ、入学さえ危ういのかと落ち込んだ。




何かの間違いじゃないか?

私は無事、国立学校の入学を許可された。

しかし、精霊術師クラスでも一般クラスでも、特別クラスでもなかった。

20年ぶりに開設されるという特待クラスだった。

授業料が免除される上、学校が斡旋してくれる仕事も出来るという。

願ってもみない環境。


私の家は、商人の家。

サラ・ルコント――それが私の名前。

エルフの祖父を持ち、我が家はエルフとの交易で生計を立てている。

利益重視ではなく、緑の森(フォレ・ヴェール)から王国へ出たエルフ向けに良心的な価格で食品や日用品を販売しているため、そこまで裕福ではない。

とはいえ、比較的恵まれた環境で育ったと思う。

3人の兄たちも、全員国立学校を一般クラスだが奨学金なしで卒業している。

両親は兄たちで学費を使い切ったため、私の学費は奨学金を利用するつもりでいた。

兄たちは、私の学費がなくなってしまったのは自分たちのせいでもあるからと私の学費を出すつもりでいてくれたらしいが、私はそれが心苦しかった。

兄たちは昔から私を可愛がってくれた。

兄たちよりもエルフの特徴を強く持つ私は、好奇の目で見られることも少なくなかった。

ちょっと精霊術が使えるからって、お抱えの精霊術師になれだとか、妻になれとか妾になれとか変な誘いも多かった。

そんな時、兄たちはいつも守ってくれた。

幼い時から、読み書きとか、算術とか、歴史とか、勉強を教えてくれたのは兄たちだった。

視力が弱い私に、一番上の兄が気付き、初めてのお給金で私に眼鏡を買ってくれた。

これ以上、兄たちの世話になるのは申し訳なかったから、学費免除な上に、仕事までできるのは有難かった。


ただ不安だったのは、特待クラスの前評判が悪いというか、ある噂が流れていたこと。

国立学校に入学する王子と王女、公爵令嬢の為に開設され、士官学校の主席と次席は護衛、他の3人は引き立て役として適当に選ばれた、実力に疑問のあるクラス。

私はその引き立て役。

学校内でも、好奇の目で見られることは間違いないだろう。


それ以前に、今日の入学祝賀会という名の夜会はどうしたものだろうか。

今日の夜会は、新入生に平民出の者は私以外にいるのだろうか?

少なくとも、女子はよっぽどの物好き以外いないものと思われる。

特別クラスの新入生は全員男子だったし、特待クラスの私以外の女子は王女と公爵令嬢だ。

今日の夜会は、貴族と特別クラス以上は絶対参加だが、それ以外のクラスは自由参加…いや、暗黙の了解で出ないことになっているらしい。


夜会なんてもの、今まで出たことはもちろん見たことすらない。

私にとってはお伽噺とか違う世界の話だ。

急に出ろと言われても、どんな服を着たらいいのかも、マナーだって知らない。

兄たちが、授業で習ったというマナーを教えてもらったものの、卒業から数年が経過している上、難しくて半分も覚えられなかった。

ドレスは、祖父が入学のお祝いにと素敵なものを仕立ててくれた。

真っ白なドレス。


それを着て歩いてぺルル宮殿へ入る。

入口で、招待状があるか確認され、無事入れてもらえたが、門番にいぶかしげな顔をされてしまった。

在校生には平民出の物もそれなりにいるらしいが、会場に入る時間が違うのだろう。

この時間宮殿入りするのは貴族ばかり。

私のように徒歩で向かう生徒などいない。


「帰りたい…。」

本音だった。

知り合いなんてもちろんいないし、クラスメイトを探すと言っても、高貴な身分の方すぎて私からは声をかけられそうにない。

いや、かけていいわけがない。

何しろ王族なのだ。




「あの子でしょ?歩いて来た子って。」

「質素なドレスね…。」

「仕方ないわよ、生まれが違うもの…。」

開場に入った途端、ひそひそと、そこかしこで貴族のご令嬢たちが私の事を嘲笑っている。

「クラスに関わらず貴族以外は参加できなくしたらいいのに…。」

「あの子も気の毒よね。クラスでも絶対孤立するわよ?王女も公爵令嬢もあんな子相手にするはずないもの。」

「そうよね、公爵令嬢は殿下の婚約者って噂ですものね。しかも王女の親友なんでしょう?」

「仲のいい二人の間に入れるわけないわ。」

「殿下も素敵だけど、フレデリック様もルイ様も素敵よね。そんな方と同じクラスとか許せないわ。」

「本当にその通りよね。あり得ないわ。」

「早いうちに、自分の身分ってものを分からせて差し上げた方が良いんじゃないかしら?」

「そうね、彼女の為でもあるわよね。」

はっきり聞こえる私を中傷する言葉。

自分でもわかっていること。

分かっていても、こうはっきりと言われてしまうと胸が抉られるように痛い。


私が素敵だと思って着ていたドレスは、本当に質素で安っぽかった。

まわりのご令嬢が身にまとっているのは、カラフルで、きらびやかで、フリルやレース、ドレープだけでなく宝石がたくさんあしらわれたような豪華なものだった。


極力、広間の隅で壁の花になるように…私なんかじゃ壁の花にさえなれないだろう。

壁の雑草がいいところだ。

なるべく目立たないように、小さくなって時間が過ぎるのを待っていた。


「あら、失礼?」

部屋の隅にいたはずなのに、私にぶつかる人がいた。

その途端、彼女が持っていたグラスの葡萄酒がスカートにかかる。

「きゃっ!危ないじゃない、こんなところに突っ立ってたら。」

次の瞬間、頭から葡萄酒をかぶってしまった。

完全に言いがかりだ。

2人とも、故意に私にかけたに違いない。

広間の隅なので、そんな私の様子に気づく人などいるはずもない。

「大変、早く着替えなくちゃシミになっちゃうわ。」

「でも、こっちの方が華やかでいいんじゃないかしら?」

私に葡萄酒をかけた2人のご令嬢は、クスクス笑いながら人だかりの中へ消えていった。

声をあげて泣き出したかった。

どうにか涙をこらえてお手洗いへ行く。メガネをはずし、顔を洗う。

頭も洗ってしまいたかったが、タオルがないので洗うこともできない。

ハンカチでふくので精いっぱいだ。

ドレスも濡らしたハンカチで叩く事しかできない。


ガチャン。

嫌な音。

眼鏡を落としてしまったらしい。

慌てて拾うが、レンズが片方割れてしまった。

これではかけることすらできない。

どうしよう…このままじゃほとんど見えない…これ以上恥はかきたくないのに…。


私はお手洗いで声をあげて泣いていた。


「どうしたの?大丈夫?」

不意に声をかけられる。

心地よい、透き通った美しい声。

「あら、大変。眼鏡が割れてしまったのね。それに…ドレスも汚れちゃってるし…髪も?一緒に来て。」

誰だろう?

お手洗いから出る。

「フレッド、控室に行ってくるわ。」

私に声をかけてくれた少女は私の手を取り、どこかの部屋に連れて行ってくれた。

視力が弱い私は、彼女の顔を確認することが出来ない。

ぼんやりと見える雰囲気でも、美人なのだろう、それだけが分かった。


『酷い事をする人もいるのね。辛かったでしょう?』

「え?」

私が何か話したわけではないのに、彼女は私が何をされたかわかったらしい。

でも、なんだろう?この違和感は…。

『そんなことまで言われたの?』

誰と話しているのだろう?…エルフ語?

「あの、なんでエルフ語を…?」

「あ、ごめんなさい。あなたも話せるのね?」

「話せる訳では何ですが…もしかして今、精霊と話していたんですか?あなたも…精霊術師?」

私は、エルフ語をうまく話せない。

辛うじて聞き取れるくらい。

なのに、彼女は流暢なエルフ語を話していた。

でもなぜだろう?精霊の気配を全く感じない。

まるで私の祖父のようだ…エルフなのだろうか?

「ごめん、目を瞑ってもらってもいいかしら?」

彼女にそう言われ、目を瞑ると、目のあたりが急に暖かくなった。

「ゆっくり目を開けてみて?」

「!?」

信じられない。

いままでぼやけていた視界が…はっきりくっきり見える。

そして、私に微笑みかける少女はやはりとても美しかった。

「数時間だけど、はっきり見えるはずよ?割れた眼鏡、直そうとしたんだけど、パーツが足りなかったみたい。ごめんね。」

彼女に渡されたのは、一部が欠けているものの、すっかり元通りになった私の眼鏡。

「魔術も使えるんですか?」

「ええ。事情はあなたの精霊に聞いたわ。あなたがサラ・ルコントなのね?」

ニコニコ笑いながら私の名前を言い当てた。

一体何者だろう?私の事を知っているみたいだ。

「私はリラ。リラ・フローレンス・フーシェ。あなたのクラスメイト。これからよろしくね。私の事はリラって呼んで。私もサラって呼んでいいかしら?」

リラ・フローレンス・フーシェ?

クラスメイト?

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!?

「ちょっと立って動かないでいてくれる?」

私が一人でパニック状態になっているのに、彼女はすごくマイペースだった。

私のドレスを触ったり、結んであった私の髪をほどいたり、私は彼女にされるがままにされていた。

「うーん、だいぶ薄くなったけれど、完全には落ちないみたい。とりあえず…隠しちゃえばいいかしら?」

次の瞬間、花の香りに包まれて…私のドレスの首回りとスカート全体がまっ白い花で埋め尽くされていた。

私はスツールに座るように言われ、座る。

「もう少し動かないでね?」

それだけ言うと、私の髪を編み始めた。

最後に私の髪に、ドレスと同じ花をあしらうと、彼女は満足そうな顔で言った。


「出来上がり。とっても可愛いわ。」

「あ…ありがとうございます…フーシェ公爵のご令嬢に…こんなことをさせてしまって…申し訳ありません。」

どうにか私は言葉にしたが、それを聞いて彼女は不服そうな顔をした。

「さっき、リラって呼んでってお願いしたのに…クラスメイトなんだから普通に話して欲しいの。それに、私本当の娘じゃないし。本当は孫なのよ。あなたと一緒。祖母がエルフだからクォーターよ?」

「ごめんなさい。サラです、よろしくね、リラ。」

「うん、もちろんよろしくね、サラ。」

今度は嬉しそうににっこり笑って握手してくれた。




「リラ?入るわよ?」

そう言って、同じ年くらいの少女と、3人の少年が部屋に入ってきた。

「サラ、紹介するわね。皆クラスメイトよ。アンヌと、アル、フレッドとルイよ。アンヌとアルが精霊術師でフレッドが私と同じ精霊魔術師、ルイが魔術師。」

「初めまして…。」

「サラ、よろしくね。知っているかもしれないけど私はアンヌ。アンヌって呼んで。敬語を使うのはお願いだからやめてくれる?多分みんながそうしてほしいはずよ?」

きりりとした美人と評判のアンヌ王女は、イメージとはずいぶん違ってフレンドリーだった。

「アルって呼んでくれ。王子扱いされるのは困る。精霊から話を聞いたよ。酷い事をする生徒がいるものだね。でも、彼女たちは貴族クラスだからこういった場でない限り接点がないはずだから大丈夫だよ。」

「フレデリックだよ。フレッドって呼んで。よろしくね。」

「ルイだ。よろしく。」

みな、イメージしていたのとは全く違った。

私が平民出だとか全く気にならないらしい。

対等に接することを望んでいる。

それに、服装も、みな上質なものなのだろうが、シンプルで品の良いものだった。


「それにしても、貴族クラスってみんなケバいわね。ギラギラして目が疲れるわ。化粧も異常に濃いし、学生って自覚あるのかしら?」

「仕方ないよ、貴族クラスってそんなもんだろ?」

「学校の資金源だもんな。」

アンヌとルイは毒舌らしい。

リラが言うには、思ったことを口にしているだけだから気にしなくて良い、それにアンヌの毒舌は愛のある毒舌だから…ということだった。


リラたちに受け入れられ、一緒に夜会を楽しんだ。

マナー云々も、こっそり教えてくれて、恥をかかずに済んだし、みんな本当に優しかった。

帰る方向が一緒だからと馬車にまで乗せてもらった。

今まで学校生活に対して抱いていた不安が払拭された。


そして、私は特待クラスについて囁かれている噂が、事実とは全く逆で、彼らは皆、特待クラスにふさわしい能力を持っている事を感じた。

それを実感した今、自分に対する自信も持つことが出来た。


素晴らしい学校生活が待っている。

私の胸は期待で満ち溢れていた。

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