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私たちの設定

「今日の夜会は関係者だけの小規模なものだからそんなに緊張しなくても大丈夫よ。」

今日は治療院もお休みで、朝から家で溜息ばかりついて過ごしていた私に、母がお茶をいれ、笑いながら教えてくれた。

「名前が仰々しいだけなのよ。即位40周年式典はもう行われている頃ね。式典って言っても中身のない形式だけのつまらないものよ。今日の夜会はその打ち上げと言うか憂さ晴らしのとてもくだけた会よ。」

父と兄は裏方として式典を仕切っているし、アンヌとアルは王孫という立場上式典にも参列しなくてはいけないらしい。

私と母は特に出席する必要も無いのでこうしてお茶を飲んでいられるのだ。




初めての夜会から2週間。

「凄く疲れた」

初めての夜会の感想はそれに尽きる。

綺麗なドレスを着て、アンヌとアルのご両親とお話しして、アンヌとフレッドやアル、お兄様達、フレッドの友人とダンスを踊って、楽しいと言えば楽しかった。

でも、それ以上に知らない貴族たちに次から次へと挨拶をして、ダンスをして、ローランお兄様やアルに思いを寄せるご令嬢から敵意に満ちた視線を向けられ、そして何より、デュラン侯爵親子の纏う何とも言い難い嫌な雰囲気…。

それをまた味わうのかと思うと気が重くて仕方がなかった。


「今日は、各国の来賓と外務系の官僚とその家族だけ。規模も前回の3分の1程度だし、この間の様に主役ではないから壁の花でも構わないのよ。

来賓には同じくらいの歳のお姫様もいるし、今日は自由に楽しめば良いのよ。」

私にお菓子を勧めながら母がそう言う。

「ちなみに、デュラン親子は今日はいないわ。あの親子は軍部ですもの。そうねぇ…ジェラールはいるわ。きっとジャンとポールも来るでしょうね。」

実父(ちち)とジャンお兄様とポールお兄様がいると聞いて嬉しくなる。

そして、何より、あのデュラン侯爵親子がいないと聞いてホッとする。

母に、今日の大体の出席者を聞くが、要注意人物リストに挙げられている人はいない。

すると段々楽しみになって来た。

唯一の要注意人物はアンヌが言っていたグラナート王国の第3王子くらいだろうか。

それも、アンヌ曰く、アルとイチャイチャしていたら問題ないと言うし…。

婚約者の親友とイチャイチャってどうなの?とは思ったが、この前の様に振る舞えば十分だと言われたので、安心した。


流石に跪かれたのはびっくりしたけれど…アンヌが貸してくれた恋愛小説では、主人公がプロポーズされる時、大概そうやって指輪を渡されていたから…あの時は、指輪も無かったし、一緒に踊って欲しいと言われただけだし、他にもそうやってダンスを申し込んでいる人も見かけたし、貴族の世界ってそう言うものなのだと勉強になった。

アンヌが言う『イチャイチャ』が、この前フレッドがしてくれた様な事じゃなくて良かった、心からそう思う。

同じくアンヌが貸してくてる恋愛小説でいうところの『イチャイチャ』の定義とは、大抵抱きしめられて、唇と唇が触れるだけではないキスをして…(以下自粛)だったもの…。

見られてはいないとはいえ、同じ部屋にいることに気付いただけであんなに恥ずかしかったのに、婚約者でもないアルとそんな事をする事自体あり得ないし、例えフレッドとだとしても、人前でなんてとても無理だ。

でも、人前じゃなかったら…きゃっ、私ったらなんて事を考えているんだろう。

恥ずかしい、恥ずかしすぎる…。


そんな私に、母は生温かい視線を向ける。

「なんだかとても忙しそうね。頬を赤らめたり、にやけたり、びっくりしたり、慌てたり…。

いい?要注意人物が少ないからって気を抜いちゃダメよ。今日も必ず誰かと一緒に…なるべくアルベールと一緒に過ごすんですよ。フレデリックはいませんからね。」

フレッドがいない?

初耳だった。

てっきりいるものとばかり思っていた。

「なぜフレッドはいないのですか?」

「先程言ったでしょう?外務系の官僚とその家族だけだって。ガルニエ伯爵は違うでしょう?だからフレデリックはいないわよ。」

ちなみにガルニエ伯爵は法務系の官僚だそうだ。

残念ながらフレッドのお兄様達も外務系ではない。

「でも、ヴィクトリーヌとジュリエッタは護衛で王城に配備されている筈だからもしかしたらおまけで近くまでなら来ているかも知れないわ。」

くだけた会とは言え、各国の要人が来賓なので、会場周辺には防御用の障壁を念のため張っておくのだとか。




「今後の為に、念のため教えておくわね。表向きのあなた達の関係の設定。この前の夜会で皆様うまい具合に勘違いしてくれたみたいよ。流石にアルベールが跪いたのには驚いたけれど…。」


え?やっぱり跪くって特別な意味があったの…?

母によると、忠誠とか、求愛とか、求婚とか色んな解釈があるらしいが、王子レベルの身分の方が跪くのは普通あり得ない事そうだ。

女性好きの軽い男性だと割とすぐああ言うことをするらしいけど…。

それで、あの場にいた貴族達は揃いも揃ってアルが私に思いを寄せていると勘違いして下さったらしい。


「普通、自分よりも身分の高い男性に公衆の面前であんなことされたら断る訳にはいかないのよ。相手に恥をかかせることになるから…だからあなたの対応は正解。ローランに吹き込まれた様だったけれど。

それで、大事なのはこれからも勘違いし続けてもらえる様にすること。とりあえずアルに任せておけば大丈夫よ。」



アルは私に思いを寄せている。

私もアルに好意を持っている。

婚約はしていないけれど、私はアルの婚約者に限りなく近い。

私とアンヌは親友。

フレッドは、アルとアンヌと私の護衛。

付き合いも長く、アルの心を許した親友でもある。


大体こんな設定となっているのでは私とフレッドが少しくらいであれば2人きりでいても不自然ではないらしいが、私から手を繋いだり、人前で仲良くしてはいけないらしい。

アルとの結婚や婚約について聞かれたら、否定も肯定もするなと言われている。

少し俯いて恥ずかしそうに笑うか、「まだお互い学生なので…」それで通せとの事だった。




大体の話が終わると、クレールに入浴する様促され、髪を洗うところから始まるフルコースでしっかり磨き上げられた。

今日はエメラルドグリーンのドレス。

バックに大きなリボンがあしらわれているが、割とシンプル。

例のごとく複雑に編み込まれた髪だが、今日はそれを片側に纏めてそこにパールの飾りを差し込んでいく。

華やかと言うよりシンプルで、スッキリしていいかも…と思ったら、その分メイクを濃くされたのが残念。

ネックレスは今日はドレスに合わせてエメラルドに見える様にしてもらった。

最後に靴を履き、手袋をつけて支度は完了。

今日は、扉を使ってアンヌの部屋へ行く。

母は夜会前に仕事が有るそうで、別行動だった。



約束の時間になったので、精霊の扉を開ける。

そして、すぐ現れる普通の扉をノックするとアンヌが開けてくれた。

防犯上の問題で、部屋と部屋を直接繋ぐのは反対され、精霊の扉の他に、それぞれの部屋の中に入る為の鍵付きの扉を作ってもらっていたのだ。


「いらっしゃい、リラ!」

「アンヌ、お待たせ!」

アンヌはロイヤルブルーのドレス。

私同様、先日よりは落ち着いたデザインになっている。

髪は全てを纏めず、ハーフアップにして複雑に編み込まれている。

「アンヌ、今日も素敵ね。はっきりした色のドレスが凄く似合うのね。羨ましいわ。」

アンヌは赤とか、青とか、はっきりした色がとてもよく似合う。

この前の真っ赤なドレスも素敵だったが、今日はとても大人っぽくて綺麗だ。

「リラだって素敵じゃない?私は逆にリラが似合う色が似合わないのよ。そう言えば設定の話聞いた?」

アンヌも聞いた様だった。

「ええ、フレッドとのことだけ気をつければあとはアルに任せたら良いって。

よかったわ。嘘ついたりする必要なくって。」

「そうね、ほぼ事実でホッとしてるわ。私とフレッドをどうにかされなくて本当に良かったわ。堂々とローラン様に近づけるもの。」

アンヌは今日のエスコートも兄にお願いしているそうだ。

とは言え、仕事も有るそうで、ずっとべったりと言うわけにはいかないのが残念だと嘆いていたけれど、とても嬉しそうだった。






しばらくすると、アルと兄がアンヌの部屋まで迎えに来てくれた。

「リラ、今日も可愛いよ…。」

案の定兄に抱きしめられる。

「ローランお兄様…苦しいです…それに相手を間違ってます…。」

アンヌ、ごめん!…アンヌは苦笑していた。

もちろん、アンヌは妹離れ出来ていない事も含めてもローランお兄様が好きらしい。

幼い頃から見慣れているのも有るのだろうが、それでもすごいと思う。

私がアンヌならドン引きしているはずだ。


ふとアルを見ると、アルも苦笑していた。

兄からやっと解放され、アルに手を引かれて会場に向かう。

今夜は、この前よりもふたまわり程小さな広間が会場だ。

まだ人もまばらだったが、ジャンお兄様とポールお兄様がいたので、アルにお願いしてお話しさせてもらう。

ついついハグしてしまったけれど、実の兄だし差し支えないよね?と思っていたら、ローランお兄様に注意されてしまった。

多分ヤキモチによる注意なので気にしないことにする。

実父は、来賓のお客様のお迎えに行っているそうだ。




いつの間にか、広間にもたくさんの人が集まり、賑やかになってきた。

アルに連れられ、外国のお客様を中心にご挨拶をして回る。

言語は、ほぼ同じなので、丁寧に話せば特に問題ない。

語尾やイントネーション、綴りが微妙に違うだけなのだ。


グラナート王国の国王陛下第1王子と第2王子、リュビ帝国の女帝ローザ様、アダマース共和国の大統領夫妻、ザフィーア皇国の皇太子ご夫婦と第2皇女カトリーヌ様にご挨拶をする。

噂のグラナート王国の第3王子は、体調不良で寝ているらしい。


個性の強い方が多くて、結構タジタジだったけれど、なかなか面白い話も聞けて楽しかった。

アルはやっぱり本物の王子様なんだなぁと感心してしまった。

身のこなしも、会話もスマートで、各国の要人とも堂々と渡り合っていて、私の知っているいつものアルとはまるで別人だった。

実は、それ以上に別人でびっくりしたのはローランお兄様だったりするのだが、それは内緒にしておこう。

この姿しか知らないのであれば、兄がとてもモテるのも納得できる。


ご挨拶をした中で、ザフィーア皇国のカトリーヌ様が気になった。

なんだろう、私と同じ匂いがすると言うか、彼女もエルフの血が混じっているのではないだろうか?

でも、皇太子殿下も皇太子妃殿下もそんな感じはしなかった…。

後で機会があったらお話しさせてもらおう。


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