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フーシェ公爵令嬢の夜会デビュー(前編)

ブックマーク登録ありがとうございます。

大変励みになります。

国王陛下及び今日の夜会の主役のアルとアンヌに挨拶する為の列はどんどん短くなっていって、階段の中程まで進んだ頃、私とフレッドに気付いたアンヌとアルが手を振ってくれた。

私は兄の隣で兄と一緒に(と言うか兄にも強要して)無邪気に手を振り返していたけれど、私の2段上で父と話しながら並んでいたフレッドはすごく居心地悪そうな顔をしていた。

「周りの目が気になるんだろう。少しばかり注目されているからね。」

こっそり兄が教えてくれた。

「そうよね、通常であればフレッドのお父様であるガルニエ伯爵とご挨拶に伺うはずですものね。」

それは居心地が悪いはずだわ、私が勝手に納得していると隣から盛大な溜息が漏れる。

「リラ、父はフレッドの後見人だから、別におかしくはないよ。」

「じゃあお兄様がご令嬢方の視線を集めていらっしゃるとか?」

私は今日、ここに着いてからずっと、敵意に満ちた視線を感じ続けていた。

その視線の主をさがすと、例外なく独身らしき女性たちのものだった。

中には、面と向かってそんな視線をぶつけてくるご令嬢も少なくなかったけれど、私が妹で、事実上の姪で有ることが分かると皆少しホッとした様な顔になり、明確な敵意はなくなる。

まぁ私は思いっきりライバル視されてたと言うか、憧れの貴公子様と腕を組んで歩く目障りな女として認識されてた訳だ。

アンヌから話は兄のモテっぷりは聞いていたけれどまさかここまでとは思わなかった…。


「僕がご令嬢の熱い視線を集めてしまっているのは否定できないけれどね、今日注目されているのはリラ、君だ。フーシェ公爵令嬢として初めてこういった席に顔を出すんだからね。」

どうやら、貴族社会では私が養女になった話は有名らしい。

父の立場とか母の個性の強さとか、兄のモテっぷりを考えたら、フーシェ公爵家は結構有名だろうし、そこへ養女に入ったなら話題になるのも仕方ないだろう。

私自身、リアル孫で一応貴族だったとはいえ、人前(貴族として)に姿を現すのは初めてだったし、こんなに注目されているってつまり、珍獣扱いされてるって事ですね。

妙に納得してしまって、兄がモテる事を肯定したのを突っ込むタイミングを失ってしまった。


そうこうしているうちに、挨拶の順番が回って来た。

「アンヌ、お誕生日おめでとう!」

「リラ、ありがとう!」

私とアンヌは抱き合って挨拶した。

今日はアンヌは真っ赤なドレス。

「アンヌ、すごく綺麗!赤いドレスとても似合っているわ!」

「リラも素敵よ!普段からお化粧すればいいのに!」

2人で顔を見合わせて笑った。

「初めまして。あなたがリラなのね。」

「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。リラ・フローレンス・フーシェと申します。」

「そんなに畏まらないで。いつも2人から話は聞いているわ。これからも仲良くしてね。」

「綺麗なお嬢さんだね。私からも宜しく頼むよ。」

アンヌとアルの両親と会うのは初めてだった。

今は、エムルードゥ王国の大使として、王太子妃殿下の母国であるサフィールに駐在していらっしゃるそうだ。


「リラ、今日は君も主役の1人だからね。そういえば、国立学校合格おめでとう。」

「ありがとうございます。マティユ陛下。」

いつも通り、ニコニコ顏の陛下に話しかけられる。

でもやっぱり王様なんだなぁと実感する。

私のよく知るマティユ陛下は、祖父(今は父だけど)の友人の優しいおじいさんで、王様としての姿を拝見するのは初めてだった。


「リラ…すごく綺麗だよ…。」

「ひゃっ…。」

アルに急にハグされ、私はもの凄く間抜けな声をあげていた。

「ごめん…つい…。」

顔を真っ赤にしたアルに謝られた。

アンヌが『あちゃー』という顔で、フレッドと兄が明らかに不機嫌そうな顔でこっちを見ているが、私の両親とアルとアンヌの両親、マティユ陛下は妙に生温かい目で微笑んでいた。

すると急に、アルが私の前で跪き、私を見上げて手を差し伸べる。

「リラ、後で僕と踊ってくれるかい?」


えっと…こう言った場合はどうしたら良いんでしょうか…。

「全く…気が早いわよ…。」

アンヌの盛大な溜息が聞こえる。

私の両親とマティユ陛下はは少し驚いていた様だが、アルとアンヌの両親…特に王太子殿下はしたり顔だ。


戸惑う私を助けてくれたのは私の隣にいた兄だった。

「アルベールの手を取って返事しなさい。このままじゃアルベールに恥をかかせるだけだよ。」

耳元で小声でこっそり教えてくれた兄にお礼を言って、私はアルの手を取り小さく頷いた。


気づけば先ほどまでガヤガヤと騒がしかった大広間が静まり返っていた。

しかし、あっという間に再び喧騒に包まれる。


アルは立ち上がり、にっこり笑うと、私を隣に引き寄せた。

嫌じゃないけれど複雑だった。

アルは好きだけど、フレッドに対する好きとは違う…。


気になってフレッドを見ると、暗く沈んだ顔をしていた。

私から目を逸らしている。


この前と一緒だ…フレッドはきっと感情を押し殺しているんだ。

視線を感じてアルの方を見ると、アルもまた複雑そうな顔をしている。

きっと私も同じ様な顔をしているのだろう。

「ほら、まだご挨拶は終わっていないわよ。」

アンヌの言葉にハッとする。

私と両親、兄もそのまま一緒にご挨拶をすることになり、フレッドは家族のところへ戻っていった。






私達が遅めの到着だったということもあり、ご挨拶はあっという間に終わって、大広間には陛下の合図とともに宮廷音楽隊の奏でる曲調が変わる。


「ほら、主役が踊らなくては誰も踊れないぞ。」

王太子殿下に背中を押されたアルは、私の手を取り、階段を下る。

私達と一緒に、兄と満足そうな笑顔のアンヌも階段を下る。

広間の中央へ出るべく、アルのエスコートで進んでいく。

たくさんの人に見られて恥ずかしい。

動物園で見世物にされている、南国の珍しい動物はこんな気分なのだろうな…と想像して、ついつい俯いてしまった。

きっと耳まで赤いのだろう…。


あちらこちらから聞こえてくるのは羨望と嫉妬の溜息だろうか…。

そういえば、アルはリアル王子様だった。

ついでに兄もご令嬢の憧れの貴公子様だ。

私みたいな珍獣扱いの、一部の魔術と精霊術にしか取り柄の無い、一応肩書きは公爵令嬢とは言え実子じゃないし、ポッと出の田舎育ちの小娘がいきなり王子様の隣に立ってたら面白くないだろうな…なんて想像は容易くて、一気に胃の辺りが重たくなった。

周りの視線も痛い。


そんな私にアルが気付いたらしい。

「大丈夫だよ。いつも通り踊れば良いだけ。自信持って…みんな綺麗なリラに見惚れているんだよ。どうしても緊張が解れないなら、みんなカボチャだと思えばいい。」

想像して少し可笑しくなって思わずクスリと笑う。

あれ?凄く気が楽になった。


フロアの中央まで来ると、音楽が止まった。

それからアルと目配せをした指揮者の指揮で演奏が始まる。

この間練習したばかりの曲。

「知っている曲だと安心ね。」

ホッとして思わず笑顔がこぼれる。

アルも微笑み返してくれる。

そつなく1曲踊り終え、アンヌと兄と合流する。

あっという間に周りを囲まれる。

私は引き寄せられ、さりげなくアルの手が腰にまわされた事に少し驚く。

しかしその理由に私はすぐ気付く事となった。


「さすがアルベール殿下、素晴らしいダンス、同性ながら見惚れてしまいました。」

「お褒め頂き嬉しいよ、デュラン侯爵。」

アルは表面上は笑っているが、目が笑っていなかった。

デュラン侯爵…要注意人物の筆頭として名が記されていた人物。

「これは随分お美しいご令嬢だ…こちらが噂のフーシェ侯爵令嬢ですね?」

デュラン侯爵は私を値踏みする様に、足元から視線を上に徐々にあげながら私を眺めた。

背筋が寒い。

思わずアルの腕に回した手に力が入る。

すると、アルが私の腰に回した手にも力が入る。

「初めてお目にかかります。リラと申します…。」

どうにかスカートを少しつまんでご挨拶をする。

「後ほど私の息子ともぜひ踊って頂きたいものだ。」

ハハハと笑うと、皆さんお待ちの様だから王子殿下を独占してはいけませんなぁ、そう言って立ち去ったのだが、何だかとても気分が悪かった。


他の貴族とも歓談し、その度に好奇の目に晒され、気疲れしていたのにも関わらず、今度はアルと私にダンスの相手の申し込みが殺到していた。

陛下の気遣いなのか、そういうものなのかわからないが、アルと踊った時ほど長くはない、むしろ短い曲が何曲も何曲も続く。

1曲毎に交代して、何人ほどと踊っただろうか。

とても全員の顔と名前なんて覚えていられなかった。

時々足を踏まれ、ドレスの裾も踏まれ、それでも何とかサマになる様に、お相手に恥を欠かせない様に、我ながら良く頑張っていたと思う。

アルもフレッドも、父も兄もダンスがとても上手なのだということを嫌というほど実感した。


いつ終わるんだろう…気が遠くなりかけたところで、アルがお迎えに来てくれて、私はやっとダンスから解放された。

アルにお願いして、一度裏に下がり、回復魔法を私とアルにかけた。

私達が裏へ下がったのを見て何をするのかわかったらしいアンヌもすかさずやって来たので彼女にも術をかける。

「あぁ…生き返る…。全くやってられないわ…。」

アンヌも同じ状況だったらしい。


「アル、私、実父(ちち)実兄達(あにたち)にまだご挨拶してないの…して来てもいいかしら?それに、せっかくだからフレッドとも踊りたいし…。」

アルは安定の王子様スマイルだ。

「もちろんだよ。僕もシャルロワ伯爵やお兄さん達、フレッドと話がしたいしね。」

「私も一緒に連れていって。ローラン様がご令嬢達に捕まって戻ってこないのよ。ローラン様もどうにか解放してもらうと頑張っているんだけど見事に裏目に出てるのよ。あの優しさが仇になってるっていうか…そういうところも含めて素敵なんだけど…ご令嬢方を見てると腹立たしいし…明らかに私、バカにされてるわ。それだけじゃなくて私目当ての面倒なのも寄ってくるから逃げてきたのよ。」

どうやら兄目当てのご令嬢はかなりタフな方が多いらしい。

結構年上の方も多いから、きっと王女とはいえアンヌの事子どもだと思ってるんだろうな…。

兄の実年齢を考えたら自然なことかもしれないが、中にはアンヌの母とそう年齢も変わらなそうなご令嬢も少なくない。

実年齢はもう40近いんだけどね…見た目は20代前半だからなぁ…アンヌと並んでも違和感ないどころか、かなりいい感じなんだけど…。

兄は切れ長の目のクール系の美中年、アンヌもクール系の美人なので、まさにお似合いの美男美女カップルなのだ。


私も母方の血が濃いようでよくそっくりだと言われるが、残念ながらタヌキ顔というか、よく言えば愛嬌のある、悪く言えば間抜けな顔だと思う。

私に向けられる可愛いとはつまり、愛玩動物に向けられるそれと同じという自覚がある。

それでも、大好きな(フレッド)に言われれば嬉しい。

今日のパートナーはアルだけど、ダンスを踊るくらいいいよね?

今まで散々どこぞの貴族…同世代から父よりも年上らしき方々までお相手をしたわけだし、フレッドはアルの親友でクラスメイトになるんだから全然不自然じゃないはず。


私達は、私の実父と実兄達、そしてフレッドを探しに大広間へ繰り出した。

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