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2年の日々と2人の成長

両手に思いを集める。

お母様が楽になりますように、元気になりますように、一緒に遊べますように。

だんだん掌が温かく、重たくなってくる。

もっと笑っていてほしい、優しく抱きしめてほしい、お母様が大好きだから。

両手の掌の上には優しく光る、球状の光がどんどん大きくなる。

もう支えきれない、そう思ったところでお母様の体の中に押し込む。

すると、すぅーっと音もなくお母様の体に入っていき、お母様の顔色がよくなる。

頬はうっすらとピンクになり、唇は赤く艶を取り戻し、濃い緑の瞳に光が戻る。

回復魔法がうまくいった、いつもよりも魔力(ちから)を込められたからだろうか?

光の球がいつもよりもずっとずっと大きかった。

「ありがとう、リラ。とっても楽になったわ。ずいぶん上達したのね。今のってもしかして大回復だったんじゃないかしら?」

そういってにこっと微笑み、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

私の気持ちが伝わったのが嬉しい。

もっと練習して上手になりたい。

「すごいね、びっくりしたよ。今のが大回復だよ。いつもの回復魔法よりも高位のもので、いつもよりもずっと楽にしてくれるんだからね。リラも疲れただろう?一気に魔力(ちから)を放出したのだからね。」

ローランおじ様に褒められる。

「私もっと、上手になりたいの。それでお母様を治してあげて、もっといろんなこと教えてもらったり、一緒に遊んだりしたいの。」

「でも無理をしてはいけないからね。練習もほどほどにするんだよ。」

「わかっているわ。『無理はしません、無茶もしません』でしょ?」

「そうだよ、みんなリラが大好きで大事なんだからね。」


私があの日、フレッドと初めて魔法を使った時から2年が過ぎた。

あの後、数日してフレッドは王都エメラルダにある家に帰ってしまった。

王都からここまで馬車で5日かかったと言っていたし、ジュリエッタさん ―フレッドのお母様は普段はお仕事しているから次はいつ遊びに来れるかわからないとフレッドはさみしそうに言っていた。

ジュリエッタさんは学校の先生で、仕事で必要な、学校で使う薬草や薬を仕入れにこちらへ来ていたそうだ。

必要な量の薬草を集め、薬をアルフレッドおじ様に譲ってもらい、足りない分は薬を調合するため半月ほど私の家で過ごしていたのだ。

半月であったけれど、まるで何年も一緒にいたみたいだった。

フレッドが帰ってしまってからそんな風に思っていた。

さみしかったし、ずっと会えなくてフレッドが私のこと忘れっちゃったらどうしようとすごく不安だったけれど、そんな不安は1週間もしないうちに吹っ飛んだ。


「リラぁ!!久しぶり!!」

急に聞きなれた声がした。

「!?…フレッド!?」

たった数日会わなかっただけなのに、ずうっと会ってなかったみたいだ。

フレッドは私のおばあ様に連れられて緑の扉からやってきた。

それから、毎日ではないけれど、3日に1回はフレッドが遊びに来て、一緒に森に出かけた。

森では、薬草を摘んだり、果物や木の実を集めたり、魔法の練習もした。

魔法の練習をしてもいい代わりに、私たちは『無理はしません、無茶もしません』ということを約束させられた。

「頑張りすぎてもいけない、あぶないことは絶対してはいけない、困ったことや心配なことがあったら大人たちにすぐに報告すること」

と、ローランおじ様とアルフレッドおじ様に何度も何度も言われた。

約束さえ守っていたら、特に何も言われなかったし、質問したりお願いしたら丁寧に教えてくれたし、私たち自身でどうにかしなくてはいけないことはヒントをくれた。

魔法を覚えるのはとても楽しかった。

精霊さんたちともずっとずっと仲良くなって、彼らの力を借りる精霊魔法もたくさん覚えた。


魔法は私よりもフレッドの方がずっと上手だったけれど、フレッドは回復・治癒系の魔法は全然使えなかった。おじ様達には適性がないと言われて凹んでいた。

もちろん、魔法だけではなくて精霊魔法も使えるようになっていたし、精霊さんにお願いするときはエルフ語でお願いするようになった。

「その方がうまくいくんだ。」

そうフレッドも言っていた。

私は回復・治癒系の魔法と精霊魔法はフレッドよりも上手に使える自信がある。

けれど、その他の魔法はそれなりにはできるけれど、フレッドには全然かなわなかった。

特に、『攻撃系』と言われる部類は全然ダメで、適性がないと言われ凹んだ。

そんな私を見て、

「リラのことは僕が守ってあげるから大丈夫だよ。魔法だけじゃなくて、父上と兄上に剣術も習っているから、もっともっと強くなるから。」

とにこっと笑いながらフレッドが言ってくれた。

すごく嬉しかった。

なんかすごくかっこよかった。

ドキドキして顔が熱くなった。

恥ずかしかった。

こんな気持ち初めてだった。


魔法と精霊魔法だけじゃなくて、お薬のこともローランおじ様とアルフレッドおじ様にたくさん教えてもらった。

ローランおじ様とアルフレッドおじ様は兄弟みたいだ。

アルフレッドおじ様がお兄さんで、ローランおじ様が弟だ。

でも本当は、アルフレッドおじ様が伯父で、ローランおじ様が甥という関係らしい。

そもそも私のお母様がローランおじ様と双子で、フローレンスおばあ様が二人の母で、アルフレッドおじ様がおばあ様の兄だといったらフレッドは混乱していた。

それも仕方ないと思う。

アルフレッドおじ様もおばあ様も20歳くらいに見えるし、ローランおじ様は二人より少し年下くらいにしか見えない。

私のお母様とフレッドのお母様のジュリエッタさんの方が年上に見える。

実際は2人とも実年齢よりも10歳以上若く見えるのにそうなるのは、アルフレッドおじ様とおばあ様がエルフだから仕方がないし、ローランおじ様もハーフエルフなんだけれど、体質がとてもエルフに近いハーフエルフだそうだ。

お母様とおじ様は双子だし顔とか雰囲気は似ている。

お母様も一応ハーフエルフではあるけれど、体質がとても人間に近いらしく、二人を足して2で割ると一般的なハーフエルフの体質になるんじゃないかって言ってた。

さらにお母様は生まれた時から体が弱いらしい。

だから、いつもなんだか苦しそうなんだ。

そんなお母様よりも私の方が、ハーフエルフっぽいみたいで、エルフの血が濃いとか、隔世遺伝だとか言われることがある。

そんなこともあるせいか、フレッドは、アルフレッドおじ様が私のお父様だと思っていたようで、初めて魔法を使ったあの日、夕食で私のお父様を紹介すると驚いていた。

そして、私の顔とお父様の顔を見比べてそのあとアルフレッドおじ様の顔をじーっと見ていたので、お父様とおじ様は苦笑いをしていた。

実際、私はお父様よりもアルフレッドおじ様に似ている。

髪の色とか、目の色も一緒だし。


私とフレッドは字も習った。

字を覚えると本当に便利だ。

こんなに便利ならもっと早くに教えてもらえばよかったと後悔した。

今では絵本じゃない本だって自分で読めるし、おじ様達に習っているお薬のこと、薬草等の材料や調合の方法、コツなどをノートに取っている。

ノートさえ見れば、簡単なものなら1人でも調合できるようになっていた。

ちょっと難しいものでも、フレッドとならば上手く調合できると思う。

薬の調合はお料理、特にお菓子を作るのにとても似ている。

きちんと量って、きちんと処理して、時間を守る。

そして適切なタイミングで混ぜる。

見極めは難しいけれど、きちんとすれば、ちゃんと出来上がる。

このノートは宝物だ。


この2年間を思い返した私は、あることに気付いた。

2年前、フレッドと出会って、私の生活が変わった。

それまでも楽しかったけれど、より楽しくなった。

何か勉強したり、練習したりするにしても、私だけでするより、フレッドと一緒に勉強したり練習したりすると早く覚えられるし、今までできなかったこともできるようになっている。

びっくりするくらい、スムーズにできるのだから。

フレッドが私に魔法をかけているんじゃないかと本気で思ってお母様に相談してみたら、

「切磋琢磨するっていうのよ。貴方たちを見てると、昔の私とジュリエッタみたい。」

と言われた。

お母様とジュリエッタさんがそうであるように、私とフレッドも間違いなく親友だ。

少なくとも私はそう思っている。

フレッドもきっとそう思ってくれているはずだ。






そんなことを考えながら森を散歩していたら、怪我をした鹿の親子を見つけた。

小鹿は後ろ足を引きずっていて、骨折でもしているのだろうか、不自然に曲がっていた。

親鹿は腿の辺りに浅くえぐられたような跡があった。

もう血は固まっていたが、かなり出血したようで赤黒く体は染まり、ぐったりしていた。

私を見て、警戒していたがもう逃げる体力も残っていなかったのだろう、逃げることはしなかった。

森の精霊に頼んで、鹿の親子をなだめてもらう。

ゆっくり近づく、もう警戒はしていないようだ。

まずは小鹿の引きずった後ろ足に治癒魔法をかける。

右手に光をまとわせる。

この子の足が治りますように、痛みも取れて、また走り回れますようにと思いを込めて、右手をかざす。

小鹿の足は光に包まれ、不自然な曲がり方も治っていたけれど、まだぐったりしていたので、回復魔法もかける。

両手に集めた光を小鹿の中に押し込むと、すんなり受け入れてもらえたようで見違えるように元気になった。

今度は親鹿に治癒魔法をかける。

傷口が閉じたのを確認し、水の魔法で固まった血を洗い流し、風の魔法で乾かす。

あれだけの出血があったので、回復魔法もしっかりかける必要がある。

覚えたばかりの大回復。

両手に、掌に神経を集中させる。

私にできることをしたい、こんなに出血していたんだ、ふらふらに違いないし、早く楽にしてあげたい 

―そんなことを考えていたら、私が思っていた以上に早く光が球状に集まった。

重い…今までで一番の重さだ…それを親鹿の体に押し込む。

どうやら受け入れてもらえたようで、一瞬光に包まれたと思ったら、親鹿は立ち上がっていた。

鹿の親子は一礼すると森の奥に去っていった。

ふと、声が聞こえた気がした。


「悪魔が森にいる。気をつけろ。」






帰ってこのことを大人たちに伝える。

「きっとその鹿が教えてくれたことを森の精霊が伝えてくれたんだよ。」

「悪魔が森にいる。ってどういうこと?」

「私たちにもわからないんだ。調べてみるよ。だから、リラは無茶はしないこと。いつも以上に気を付けるんだよ。リラ、教えてくれてありがとう。また何かあったらちゃんと報告するんだよ。」


それから、回復魔法の練習を兼ねて、大回復をお母様にかける。

さっきよりもさらに光が早く集まった。

覚えたばかりで本日3回目。

なんだか少し眩暈がする、ふらふらする、すごく眠い。

案の定、睡魔に勝てず眠ってしまった。

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