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空の精霊との契約と入学試験の準備

今後、リラ目線の話では「お母様」や「母」はフローレンス(おばあ様)を、「お父様」や「父」はテオドール(おじい様)を、「お兄様」はローラン(おじ様)を指すことになります。

母マルグリットは「実母」、父ジェラールは「実父」「実のお父様」、2人の兄は「ジャンお兄様」「ポールお兄様」との表記になる予定です。

ハードだった。

もう毎日クタクタだった。

朝起きて、朝食を済ませると、課題を片付ける。

その課題は、今まで勉強してきたことがランダムに選ばれ、問題になったものだった。

それが終わると、白衣を着て治療院へ行き、午前中の診察が終わるまで――午前と言いつつも、結局13時はすぎてしまうのだが――治療のお手伝いをする。

一度自宅へ戻り、着替えて、おばあ様、もとい母や兄、アルフレッドおじ様など、その日、私たちの教師になってくださる方の都合に合わせて王宮だったり、兄の執務室だったり、緑の森(フォレ・ヴェール)だったり、自宅だったりで授業を受ける。

そして、フレッドが休みの日は朝から夕方までみっちり入試対策の授業だった。

過去問を解いたり、小論文なども行った。


そして、その後、マナーの授業を兼ねての晩餐会、そしてダンスのレッスンで〆られた。

私やアンヌはまだよかったが、フレッドもアルも休日にそう言ったことを行うため、私たち以上にハードだったことだろう。

特にフレッドは、学校で戦闘訓練も行っていたため辛かったと思う。

毎回、帰り際にフレッドとアル、ついでにアンヌと自分自身にも血液の浄化と回復魔法をかけることがお決まりになっていた。

どうにか、用意してフレッドに以前の様に軽食を渡すように頑張っていたが、流石に手作りですべてをまかなうことが難しく、約半分をクレールにお願いしていた。

フレッドはそれでもすごく喜んでくれた。

友人にクレールの作ったものを渡して私が作ったものはフレッド自身が食べてくれるそうだ。

そう言う話を聞いていたので、少しでも私が作らないといけない気がして頑張った。

幸い、私には回復魔法という強い味方があるのだ。

どんなにクタクタでも、回復魔法と気合と、フレッドの笑顔で頑張った。

時々、ちょっとした事件も起こったが…。


「お兄様、ここに置いていたサンドイッチとタルトご存じではありませんか?」

「え?何のことかなぁ~知らないよぉ~。」

ローランお兄様の目が泳いでるし、声も上ずっている。

完全に黒だ。

お兄様は未だに『妹離れ』が出来ていないらしい。

私がフレッドにこうして作っているお菓子や軽食までつまみ食い…ではなく本気食い(まじぐい)してしまうのだ。

そして、相変わらず、私とフレッドが仲良くしているとちょっかいを出してくる。

そして、その度に母に怒られているのだった。


ちなみに、ローラン『おじ様』からローラン『お兄様』と私が呼ぶようになってから、その傾向が少し変わり、以前の説教スタイルより更に面倒な…明らかにやきもちを妬いて口を出してくるスタイルに変わってしまった。

とはいえ、休みの日の過ごし方もハードになってきているので、フレッドと仲良くお昼寝などはもはや過去の話で、そこまでひどいやきもちを妬いてうるさく言われるのもまだほんの数回程度なのだが、1回のしつこさを考え平均すると今までとほとんど変わらなかった。






必死で頑張っていた成果もあり、アンヌと私は母から空の精霊術についての授業を受けることが出来た。

しかし、実は一番これが難しくて大変だった。

空の精霊との契約に必要な精霊魔法陣の持つ意味を理解するのがとても難しかった。

2点間の距離に応じて魔法陣の大きさが変わる。

それに加えて、扉を設置する向きによっても線の引き方が変わってくるし、方角や距離を示す記号などの組み合わせ、配置の仕方が変わってくる。

まずは、既に出来上がっている魔法陣を見て、その意味を読み取ることから始め、それが出来るようになると、条件を提示され、その条件に合わせた魔法陣の作成をする。

そして、2点間のペアになる魔法陣を書き上げるのはもっと難しかった。

正確に書ければ、2つの魔法陣は鏡に映し合わせたような状態、つまり2枚並べると線対称の魔法陣となるのだが、なかなかぴったりとはいかなかった。

わずかなズレもあってはいけないので、図面を引くような繊細さが必要だった。

しかも、同じ人が2枚書くのではない。

私とアンヌが一枚ずつ書いてぴったり合わさらなくてはいけないのだ。

それに加え、2点間の方角や距離を正確に把握しなくてはいけなかった。

ただ、それは、その繋ぐ2点間の土地の気を濃く含む何かをインクに加えることで多少自動補正されること、それに加えて術者の血液の割合を上げたり、もしくは術者の血液に混ぜるものを聖なる動物の血にする事で多少のズレならば問題なくずいぶん強力につなぐことが出来るらしい。

偶然にも、私が幼いころ助けたユニコーンの血をアルフレッドおじ様は私のために大切に取っておいてくれたそうで、それを使うと、私たちが魔法陣さえきちんとかけるようになりさえすれば、空の精霊との契約も難しくはないだろうとのことだった。


とはいえ、その、『魔法陣をきちんと書く』というのが最も難しいのだが…。

アンヌは、とても器用で、美しく正確に魔法陣を書き上げていた。

問題なのは私だった。

元々、算術があまり得意ではなく、図形を描くことも『それなり』にはかけるが、美しく書くのが苦手だった。

苦手、で済まされたらどんなにいいだろうか。

それでは、私を誘ってくれたアンヌに申し訳ない。

アンヌも手伝ってくれて、図形を美しく書く練習を繰り返していた結果、どうにかアンヌほど美しくないが、それなりに美しい魔法陣を書けるようになった。


ここまで勉強を始めてから1年弱。

私は15歳になり、一応成人を迎え、数週間後には国立学校の入試を控えている。


国立学校には上級文官クラス、上級武官クラス、一般クラス、魔術師クラス、精霊術師クラスがある。

入学試験で特に成績優秀だと、特別クラスへ振り分けられることもあるそうで特別クラスは授業料が免除されるらしい。

特別クラスは毎年設けられるのではなく該当者がいた場合のみ設置されるものらしい。

しかも、学年関係なく、ある基準を満たせば良いらしい。

とはいえ人数に上限はあるそうだが。


それらとは別に、良家の子女が執事見習いまたは侍女見習いと2人1組で入学出来る貴族クラスがある。

こちらは特に、入学試験がないらしい。

一定の条件を満たせば入学が可能だ。


入学試験が必要な5つのクラスのペーパーの試験問題は共通で、第1希望から第3希望までクラスを選ぶことが出来るらしい。

その試験結果と、それぞれの実技試験の結果を合わせて、合否とクラス分けが決められるそうだ。


父母と兄と相談した結果、私は第1志望を精霊術師クラス、第2志望を魔術師クラスとすることにした。

アンヌは精霊術師1本に絞り、フレッドは第1志望が魔術師、第2志望が精霊術師、第3志望が文官クラス、アルは第1志望が精霊術師、第2志望が文官クラスだと言う。

皆が同じクラスになることは難しそうだ。

それ以前に、合格できるかどうかも怪しい。

毎年、倍率は10倍ではきかないと言うのだ。


そう言えば、私もアンヌも実技試験の練習を全くしていなかった。

そのことを、母に質問すると、意外な答えが返ってきた。

「リラもアンヌも何を寝ぼけたこと言っているの?あなた達が毎日しているそれが練習ですよ。」

「どれでしょうか?」

「あなた達は空の精霊との契約をするのでしょう?その契約を済ませ、報告書を書き上げ提出し、担当の試験官が不正がないかチェックをすれば実技試験を受けたものと同等にみなされるのですよ。

まぁ、おそらくほかにも当日何かするよう言われるでしょうけど、普段やっていることを見せたらいいのよ。」

私もアンヌも知らなかったので驚いた。

それで良いならば代行がまかりとおてしまうのではないかと質問すると、術者の血液を使っている以上、通常の精霊術以上に、術者個人の気配を強く残してしまううえ、契約した精霊への尋問も行われるため代行など100%不可能らしい。

「それに精霊術に限っては、精霊を見れば一目瞭然ですしね。実技の試験官は教員ではなく宮廷精霊術師や宮廷魔術師がが行うのよ。不正しようものなら即不合格です。」

ということは身内が試験官になりうるということなのだろうか。

母も兄も、宮廷精霊術師として籍を置いているのだ。

それにヴィクトリーヌ様もジュリエッタさんもだ。

ある意味不正し放題…いや、皆厳しい人たちなのでそれはないだろう。

それに、身内は当たらないような配慮くらいあるに違いない。





そしてついに、空の精霊との契約をすることとなった。

ユニコーンの血を皿に取り、そこへナイフで傷をつけた指から自分の血液を垂らす。

アンヌも同じように血液を垂らし、それを2つに分ける。


準備出来たら、治癒魔法で私とアンヌの傷口をふさぐ。

あらかじめ用意しておいたフーシェ公爵邸の土地の気を濃く含む、屋敷が立つ前から生えているという大きな、樹齢100年を超えるであろう月桂樹の葉をすりつぶした物を加える。

アンヌも同様に、王宮の庭に100年以上前に植えられたというブナの木の葉を同じようにすりつぶし加える。

そして、直径20cmほどの魔法陣を書き上げる。

今回はほど近いので、このサイズで済んでいるが遠くなれば遠くなるほど、大きく複雑になってくる。

アンヌはあっという間に書き上げてしまうが、私はまだ半分も終わっていない。

焦らず、急がず、丁寧に仕上げていく。

アンヌの倍以上の時間がかかってしまったが、何とか仕上がった。

少しおいて乾かして、乾いた2枚を重ね合わせる。


ずれもなくぴったりの、2枚並べると美しい線対称の魔法陣が出来上がった。


それを持って、私がアンヌの家に、アンヌが我が家へ行き、あらかじめ用意しておいた扉の中へ空の精霊の力を借りて封じ込める。

あらかじめ決めておいた時間きっかりに、私とアンヌ、2人同時にだ。

無事、扉の中に魔法陣を封じ込めることが出来た。

そして、扉が輝く。

「どうやらアンヌもうまく封じ込めたようね。では、いいわね。契約を結びなさい。」


『我、リラ・フローレンス・フーシェは、アンヌ・カトリーヌ・エムルードゥと共に、ここに自らの血を捧げ、空の精霊との契約を交わす。』


すると、私を加護している空の精霊が数体扉の中に吸い込まれていく。

「ありがとう。この扉を私の家とつないでね。よろしくお願いします。」

契約を結んだ精霊にお礼を言う。


ガチャリ。

たった今、契約を済ませた扉がゆっくり開かれる。

そこから覗いた顔はアンヌだ。

「リラ!」

「アンヌ!」

「私達やったのね!」

「無事つながったのね!」

「よくやりましたね。これで無事、空の精霊との契約を済ませたのですよ。さぁ、うちへ行って、提出用の書類に添付する魔法陣を書きますよ。先程の(インク)が残っているでしょう。あれを使って、今と同じだけ丁寧に書き上げなさい。もう1度契約を結ぶつもりでね。」

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