【フレッドを尾行してみた(※エドワール視点)】
まさかのエド視点です。
「おい、フレッドは今日リラ嬢とデートじゃなかったのか?隣にいるのおっさんじゃないか?いや、寧ろおじいさん?」
僕はエドワール。
友人にはエドと呼ばれている。
今日は友人ルイと一緒に親友のフレッドの尾行をしている。
事の始まりは昨日、指導教官にフレッドが呼び出されたことから始まる。
「フレッド、なに呼び出されているんだよ?何かまずいことでもしたのか?」
戻ってきたフレッドを茶化すと意外な答えが返ってきた。
「面会。リラの父上。明日誘われて出かけることになった。」
リラ嬢の父上は上級生の進路指導で訪れていたらしい。
フレッドは浮足立っている。
「相変わらず親公認なのかよ?いいよなー。リラ嬢に会いたいなー。」
「無理。」
「フレッドけち臭いぞー!」
「明日はリラのご両親も一緒だから…そのうち…2年後には紹介できるからそれまで待て。」
「そんなに待てるか!…仕方ないから今回は諦めてやるよ。」
相手のご両親がいるなら仕方ない、紹介してもらうのは諦めることにする。
「ルイ、明日なんか予定ある?」
「ああ、明日は休みだったな。特に無いが?」
「ちょっと面白そうな話があるんだけど…一緒に出掛けようぜ?」
紹介してもらうのは諦めるが…いい加減リラ嬢を拝みたい。
親友が5年以上も思いを寄せている少女がどんな子か興味がある。
こっそり尾行して、遠目でもいいので見てみたい。
そう思い、こっそりフレッドを尾行した結果、美術館の庭園に着き、彼は初老の男性と合流したわけで…。
「あの方に見覚えが…でもどこで見たのか思い出せない…。」
ルイは悩んでいたがそんなんどうでもいい。
暫くすると、建物から身なりの良いご夫婦と華奢な少女が出てきた。
遠目ではっきり顔が見えない。
どうやらリラ嬢とご両親のようだ。
リラ嬢はご両親らしきご夫婦と別れ、フレッドと庭園を散歩し始めた。
「まずい、こっちへ来るぞ。」
「こちらへは来ないだろう。彼女が一緒だ、きっと石畳の上を歩くさ。」
ルイは冷静だった。
そのおかげてすごく近くで2人を見ることが出来た。
「まじか!?」
「ああ、あれがリラ嬢だ。」
想像以上だった。
ルイは彼女に一度会っているので彼がそういうのなら彼女がリラ嬢で間違いない。
フレッドがもうベタ惚れでベタ褒めしているリラ嬢。
休みのたびに彼女に会いに行き(フレッド曰く魔術の修業も行っているらしいが…)、寮へ戻っては可愛い可愛いと連呼しているし、彼女の身内――父や伯父や祖父母はお会いしたことがあったり有名人だったりで顔は知っている――を見たって麗しい容姿であるのは想像するも容易かったのだが…実物は想像以上だった。
まず、肌の美しさに目を奪われた。
透き通るような白い肌に、絹糸のようなつややかな髪、深いグリーンの瞳…。
顔は小さいし、化粧っ気がほとんどないのにもかかわらずとても美しいのは素材の良さがあってこそだ。
フレッドよりも頭1つ分小柄な彼女はとても華奢だったが、出るところはそれなりに出て、引っ込むところはきっちり引っ込んでいて…フレッドに聞かれたら下世話だと怒られそうだが…彼がベタ惚れなのも頷ける。
もっとも、彼に言わせるとそれ以上に性格が可愛いそうなのだが…。
それも、彼が彼女と会うたびに持たせてくれる手作りの料理やそれに添えられた細かな気遣いから納得できる。
それに以前偶然見つけて読んでしまった手紙。
読んでしまったことはフレッドには内緒だ。
1文字1文字丁寧位につづられたそれは、フレッドへの気遣い、感謝、そしてこれでもかというくらい彼女は彼が好きなんだな、そんな思いが込められていた。
フレッドはその手紙を今でもすごく大切にしまっている。
申し訳なくて読んでしまっただなんてとても言えなかった。
それを綴った本人を陰ながら目にして、ため息が漏れる。
「本当にフレッドが羨ましいよ。」
「それには激しく同意だ。」
ルイも苦笑いしながら同意してくれた。
女に興味ない、そう言っている彼だったので意外だった。
「エドはどうなんだ?幼馴染に言い寄られているんじゃないのか?」
急にルイに話を振られた。
士官学校入学以来、彼には数回幼馴染との茶会に付き合ってもらっている。
僕としては全力で拒否をしたいところだが…実は実際に拒否をして自宅に帰らなかったりもしたのだが…母親によって阻止されていた。
僕の知らないところで幼馴染のミレーヌと彼女の母、それと僕の母が勝手に盛り上がっているらしい。
もともと母親同士が友人だったから幼いころから交流があったのだが、成長するたびに話がおかしな方へ向かっている。
僕とミレーヌを婚約させよう、そういった方へ…。
幸い、父親同士が僕の意向を聞いてくれているので何とかギリギリのところで食い止められているが、彼女の父親は入り婿なのでどこまで耐えられるかが不安なところである。
「そもそも彼女はタイプじゃないんだよな…。化粧がどんどん濃くなっているし、派手なのは苦手だ。それに尻に敷かれるのはね…。リラ嬢を実際に拝んでしまった今、そんな僕の気持ちを君なら察してくれると信じているよ…ルイ。」
リラ嬢みたいなのがタイプなんだよ、そう言いかけてやめた。
贅沢は言わない。
美人じゃなくてもいいんだ。
ナチュラルな感じのちょっと可愛いらしい、そんな子がいい。
出来たら慎ましやかな…ちょっと恥ずかしがり屋な子だったら最高だ。
残念ながらミレーヌも彼女の友人もその対極にあるようなタイプの子たちばかりだ。
「ルイだって言い寄られているんだろう?そっちこそどうなんだよ?」
茶会にはルイ以外の学校の友人も連れて行っているが、ダントツで彼がモテている。
「俺にも聞くのか?あの茶会のメンバーは俺も申し訳ないが…タイプじゃない。」
やっぱそうなのか。
それで『今は女性に興味がない』、そう言っていたわけだ。
「じゃあどういう女性がタイプなわけ?」
少し考えた後、ルイが口を開いた。
「強いて言えば…彼女だな。」
「それには同意をせざるを得ない。」
僕らは幸せそうな親友を見つめていた。
「おい、フレッド…エロいぞ。」
フレッドの左手がリラ嬢の腰にまわされる。
「あそこは足元が良くないからな。支えているんだろう。意外と紳士だな。」
やっぱりルイは冷静だった。
よく見たらその通りで、フレッドは彼女の右手を取り、彼女を気遣いながらゆっくり歩いている。
リラ嬢はというと、頬を少し赤らめて少しうつむきがちだ。
「ああいうのいいな、可愛いな…。」
横ではルイも頷いている。
ふと視線を2人に戻すと、リラ嬢が躓いて足を痛めたのだろうか?
急に立ち止まり、足元を気にしている。
次の瞬間、フレッドが…二人を包む空間が輝いて見えた。
リラ嬢をお姫様抱っこして、耳元で何か囁く。
顔を真っ赤にした彼女を見て微笑み、再度何かを囁くと、彼女は彼の首に腕を回す。
「あいつ、恰好良いな…すごく男前に見える。俺もフレッドに抱きしめられたい…。」
僕の口をついて出た言葉にルイが顔をしかめた。
「おい、気は確かか?例の病気かよ?なんでそうなるんだ…。」
彼の言う病気とは、おそらく士官候補生にありがちなあの病のことだろう…。
「いや、違う。何かの間違いだ。でもあいつあんなこと出来るんだな…。スマートでさ…僕の知らないあいつの一面見たっていうかさ、ちょっとリラ嬢に嫉妬してしまったよ。」
「言いたいことは分からなくもないが…その言い方じゃあお前がフレッドに恋をしているようだぞ?」
フレッドを追いかけて木立の中を音をたてないように進む。
彼は噴水のそばのベンチに彼女を座らせると彼女の前に跪いた。
「まさかプロポーズするのか!?」
「エド、落ち着け。彼女は足首を痛めているようだからそこを診ているんだろう。ほら、魔術で冷やしている。」
あ、本当だ。
「そういえばフレッドはリラ嬢にプロポーズ済みだった。確か8歳の時?」
思い出してつい口にしてしまう。
その時だった。
急に肩をつかまれる。
「ここで何をしている?」
冷たい低い声。
そのままルイと2人、連行される。
ガサガサと音を立ててしまったが…フレッドに気付かれていないことを願う。
それよりもこの強面の男は誰なんだろうか…僕は無事に寮へ帰ることが出来るのだろうか…。
しばらく歩いて人気のない場所で僕とルイは解放された。
「まったく、お嬢様の後をつける不審者がいると言われて来てみたら…いったい何をしていたんだ?」
「すみません。友人が恋人と会うので気になって後をつけてきただけです。それよりもなぜ父上がこちらに?」
…?
ルイの口調がいつもと違う…って父上?
「今日は非番で個人的な護衛を頼まれた。そんな事よりもこのまま帰りなさい、君もだ、いいね?」
強面の男はルイの父だった。
残念だがこれ以上フレッドを尾行するわけにもいかなくなったのでおとなしく帰路につく。
「おそらく父はフーシェ公爵に頼まれたんだろうな。」
まさか父がいるとは思わなかった、そう呟いてもいた。
寮へ戻るとフレッドはすでに帰っていた。
どうやら僕らがこっそり見ていたことに気付いていなかったようだ。
ルイと目配せして、今日のことは内緒にしよう、そう決めた。
フレッドがやたらと男前に見えた。
「大丈夫か…?」
どうやら僕はフレッドに見惚れていたらしい、ルイにやたら心配された。
「エド、顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
フレッドにまで心配された。
「フレッド、気をつけろ。こいつ今日少しおかしいんだ。もしかしたら例の病気かもしれない…。」
ルイ、なんてことを!
「は?どういうことだ?なんで気をつけろって…?」
フレッドは意味を理解できていなかったらしい、ほっとする。
「もしかしたらフレッドに惚れてしまったかもしれないぞ…。」
「…無理。」
まったくひどい話だ…。
「2人ともおかしな妄想はやめてくれ、そっちの気はないから!フレッド、リラ嬢の友達でいいから紹介してくれ!」
僕だって恋がしたい!相手は自分で決める!
「いやぁ…それはちょっと…。」
フレッドは歯切れが悪い。
「なんだよ、自分ばっかり。今日もイチャイチャしてきたくせに!」
ルイに睨まれる、おっと口が滑った…。
幸いフレッドには気付かれずに済んだ…。
「あのさ、リラの友達って言っても紹介できるような友達がいないんだよ。」
「なんだよ、僕に問題があるって言いたいのか?」
ちょっと腹が立つ。
「えっと、そうじゃなくてさ…基本的にリラって友達が少ないんだよ。僕以外だと…多分2人。」
「そういうことか。」
ルイがなぜか納得している。
「じゃあその2人を…。」
贅沢は言わない。
1人紹介してもらえればいいんだ。
「でも…アルとアンヌじゃ…ね?」
フレッドがルイに同意を求める。
「そうだな、さすがに難しいだろうな。」
ルイは笑いながら同意する。
「はっきり言ってくれないか?」
「リラの友達ってさ、僕のほかはアルベール殿下とアンヌ王女くらいなんだよ…。」
ま・じ・か!?
それはさすがに紹介されても困る。
おい、さっき殿下と王女のこと呼び捨てにしてなかったか?
「なぁ、もしかして殿下と王女ってフレッドとも面識あるわけ?」
「あ、ああ。親友だけど…。」
フレッドに僕以外の親友がいたとは…ショックだ。。。
「彼らも、2年後紹介できると思う。その時は必ずエドに紹介するから…。」
リラ嬢も殿下も王女も2年後に紹介って…
「ところで、なんで2年後なんだ?」
「ああ、エドも、ルイもだけど…卒業後は進学するんだろう?」
「「もちろんだ。」」
僕とルイの返答がハモる。
「多分コースは違うけれど、リラもアルもアンヌも進学予定なんだよ。もちろん僕も目指している。」
そうだったのか、それで2年後という事にも納得だ。
王女はリラ嬢とは少しタイプが違うものの、彼女もナチュラル系の美人だ。
お知り合いになれるならなってみたい。
「それで2年後か。じゃあ約束な。」
そのためにも進学できるよう頑張らなくては。
「そういえばさ、寮で3人で夕食に食べるようにっていただいたんだよ。ブランシャール副隊長に。そろそろ食べないか?」
そう言ってフレッドは魔術をかけたバッグから食べ物や飲み物を取り出した。
なんで3人分ってわかったんだろう?あ、きっとリラに聞いてたんだな、そんなことをフレッドが言っていた。
僕とルイの心臓がバックバクだったことはフレッドには内緒だ。




