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精霊さんのいたずら

「すごい音がしたから何事かと思って来てみれば…。リラはもういい加減抱きつき癖をどうにかしなさい。」

そう言ってフレッドの方に視線を向け溜息をついたおじ様は、周りを見回した。

「ごめんなさい…。精霊術の練習をするのに、いつもより大きくて厚めの障壁(バリア)を張ったの。さっきの音はそれが崩れる音。外から攻撃を受けて崩れたわけじゃないから、私達は無事よ?」

「全く…無事じゃなかったら許さないよ。そんなことよりフレデリックに抱きつくのはやめなさい。」

ローランおじ様に改めて釘を刺される。

「ローラン、またフレデリックにヤキモチ妬いてるのかい?いい加減辞めたらどうだ?見苦しいぞ?」

笑いながらアルフレッドおじ様もアルと一緒にやって来た。

アルは疲れているのだろうか、暗い顔だ。

どうしたんだろう?

「だいたい、ローランが抱きつき癖をどうにかしろと言うのは筋違いだと思うが?もとはといえば、リラに抱きつき癖をつけたのはローランだしな。」

アルフレッドおじ様の連続での暴露に、いつの間にかそばにいたお母様だけが頷き同意していた。

「リラに抱きつき癖をつけたのは間違いなくローランよね、うふふ。」

「それに今日は本人達の意思だけじゃなくて、結の精霊のいたずらだろうな。朝からずっと精霊たちもソワソワしている様だったし、自分達の存在を理解者にアピールしたいのだろう。」

お母様と、アルフレッドおじ様は、そう言うと立ち去っていった。

バツが悪そうなローランおじ様は、

「それでももう少し控えるべきだ。」

とだけ言うと、2人の後を追いかける様に行ってしまった。


「……………………………………………………」

「…アンヌ?」

アンヌの様子がおかしい。

目を見開き、口は半開き。

いつも表情を崩さない彼女にしては珍しく、顔が崩れている。

フレッドとアルもその様子に気づいたようだ。

「もしかして、見えるのかい?」

「何の話だ?アンヌ、だらしのない顔をしてどうしたんだ?」

アルにはフレッドの問いの意味が分からないようだ。

「何これ…リラとフレッドのまわり…キラキラ…虹色…きれい…。」

「アンヌ、何を言っているんだい?」

「アルも、私のまわりも…もしかして、これが精霊?」

急に見える世界が変わったのだろう、驚くはずだ。

アンヌはたどたどしく、見えるままを言葉にし、それが精霊であることに気付いた。

アンヌが精霊が見えたことをやっと理解できたアルは、少し落ち込んでしまったようだ。

「アンヌ!!」

嬉しくなった私は、アンヌについ抱きついてしまった。

そういえばさっきおじ様に怒られたばかりだけど、いいわよね?

だってアンヌは女の子だもの。

「ねぇ、どんなふうに見えるの?」

「キラキラ輝いて…リラとフレッドのまわりはぼんやり虹色…。」

フレッドの時と一緒だ。

「え…………」

2・3度瞬きをしたアンヌは、さらに目を見開いた。

「小さい…羽の生えた…半透明の妖精がすごくたくさん…いろんな色に…輝いてる…。」

はっきり見えたみたい。

「アンヌ、すごいよ!僕ははっきり見えるまで、もっと時間がかかったよ!」

フレッドも興奮気味だ。

「アンヌ、おめでとう。精霊さんが見えるようになったのね。」

にっこり笑うと、アンヌも顔をくしゃくしゃにして笑ってくれた。

アンヌのこんな笑顔初めて見た…かわいい。

「アンヌ、おめでとう。良かったね。僕も頑張るよ。」

アルも声をかけるが、少し寂しそうだ。

アル、頑張って!

精霊さん、アルにもみえるようになるよね?

『うーん、あと少しなんだけどね。。。今日は彼、調子悪いみたい?』

精霊さんから返ってきた返事はちょっと心配だ。

「ねぇ、アル?今日は調子悪いの?」

聞いてみる。

同時におせっかいかもしれないけれど、軽めの回復魔法をかける。

頭から、両手ですくった水をかけるように優しく。

「ありがとう。もう大丈夫だから。」

少しニコリとしてくれたけれど…。

「そういえば話の途中だったんだ。アルフレッド様のところへ行ってくるよ。」

そう言って、アルは行ってしまった。


「この子が水の精霊、この子が風の精霊。この子が森の精霊で、土の精霊、花の精霊。フレッド、ちょっといいかしら?ありがとう。この子が火の精霊。この子たちが四精霊と言われる子たちよ。」

フレッドの火の精霊さんにも来てもらって、アンヌに精霊さん達を紹介する。

紹介すると、私の掌の上にちょこんとのって、丁寧にお辞儀していた。

「それからね、この子が光の精霊。この子が空の精霊よ。」

「もしかして、リラたちのまわりに一番たくさんいる虹色の精霊が結の精霊?」

アンヌがそう尋ねると、結の精霊さんたちはアンヌを囲み、まわりを飛び始めた。

「そうよ。この子たち、アンヌが好きみたい。何人かアンヌの子になりたがってるわよ?」

「本当に!?嬉しい、歓迎するわ。」

アンヌが心から喜んでいるのが伝わったのか、アンヌの精霊さんたちもハイタッチしたり、はしゃいだり、すごく嬉しそうだ。

「僕の精霊とも仲良くしてやってよ。」

フレッドが声をかけると、『もちろん!』とばかりに一緒に遊び始めた。

「ねぇ、私にも精霊術かけられるかしら?」

アンヌがそういうと、彼女の精霊さんたちが一斉に頷く。

「できるそうよ?」

「えぇ、私にも見えたし、とても嬉しいわ!今まで守ってくれていてありがとう、これからもよろしくね。」

アンヌには花の精霊さんと光の精霊さん、それから結の精霊さんと、数は少ないけれど空の精霊さんもいる。

私のそばにも空の精霊さんはいるけれど、どんな精霊術が使えるのかわからないし、結の精霊さんは精霊術を使うときは大概お手伝い要員だし、光の精霊さんの回復魔法とか防御魔法は結構難しいし、今は明るいから光を出しても分かりにくい。

というわけで、花の精霊さんの精霊術を試すことにする。

「ねぇ、アンヌ。掌に小さなお花を思い浮かべて。なるべく具体的にね。それでね、頭の中でもいいし、口に出してもいいんだけど、エルフ語でお願いするの。お花を思い浮かべたままよ。ほかのこと考えないようにして、集中して。」

そう言って、私は花の精霊さんにお願いして出してもらったお花をアンヌに渡す。

「すごい…私もやってみるわ。」

それから数十分、悪戦苦闘していたアンヌだが、掌に小さな白い花を1輪のせてまたくしゃくしゃの笑顔を見せてくれた。

「うふふ、これでアンヌも精霊術師ね?」

私とアンヌは抱き合って喜んだ。


それから、私とアンヌは花の精霊術の練習を、フレッドは精霊術の本を読みながら泉のほとりで過ごした。

いつまで経ってもアルは戻ってこなかった。

日が傾き、帰るころになって一度集まった時に会ったが、相変わらず疲れた顔だ。

「アンヌが見えるようになって焦ってるんじゃないかな?」

フレッドはそう言っていたけれど、今日はその前からなんだか様子がおかしかった気がする…。






それから4日たち、アンヌは花の精霊術がどんどん上達していったけれど、アルにはまだ精霊さんが見えないようだった。

今週は午前が授業、午後は自由学習(という名の自由時間)だったのだが、自由学習の時間、アルはずっと書庫へ行き本を読んでいた。

今日も、昼食をとるといつの間にかいなくなってしまっていた。

「アル、どうしたんだろう?今日も自由時間は一緒に過ごさないかって声かけたんだけどな…。」

フレッドが毎日声をかけているが断られたり、あいまいな答えしか返ってこないそうだ。

「やっぱり私が見えるようになったのを気にしているのかしら?」

アンヌは、自分のせいではないかとずっと気にしていた。

ねぇ、精霊さんはどう思う?アルは見えないこと気にしてるのかな?

『うん、すごく気にしてるよー、理由はそれだけじゃないけど。それで、空回り?逆効果?閉じこもっちゃってるよー。』

私は聞いたそのままを二人にも伝える。

「きっかけが必要?どういうこと?」

フレッドは精霊さんにきっかけが必要だと言われたらしい。

「ねぇ、どうやったら精霊とお話しできるの?私だけお話しできないんだけど…。」

アンヌはまだお話しできないそうだ。

「大丈夫だよ、まだジェスチャーだけど、そのうち頭の中に声が聞こえてくるから。」

フレッドが、自分の経験をもとにアドバイスする。

「そうね、焦らず気長に頑張るわ。それで、きっかけってなんなの?」

アンヌが聞く。

『キミが、彼のほっぺにちゅってしたらきっと見えるよーキャハハハ!』

どういうこと?

『だから、ほっぺにキスして驚かせちゃうの!!』

どうしてそうなるんだろう?

「リラが、アルの頬にキスしたら見えるって…。」

フレッドがボソリ、と言った。

フレッドも同じこと言われてたらしい。

「じゃあ、早速やっちゃって!」

アンヌは即賛成した。

「え…するの?」

フレッドは複雑な表情だ。

「ほっぺなら挨拶じゃない、普通よ、さっさとキスしてあげなさいよ、リラ。」

そうだよね、挨拶だよね。

フレッドの複雑な表情が気になるけど。

あれ、私がアルにキスするのが嫌なのかな?やきもち?え?そうなの?それなら嬉しいけど、キスしていいのかな?フレッドが嫌がることするのはあんまり気が進まないかも。

えっと、逆の立場で…もしフレッドが、アンヌのほっぺにちゅってしたら…うん、大丈夫、挨拶だもの、アンヌならいいや。

「そうね、アル見えなくて落ち込んでるみたいだし、ほっぺなら挨拶だもの。うん、いいわ。」

「う……リラ…。」

「フレッド、やきもち妬いてるの?見苦しいわよ。減るもんじゃないしいいじゃない。それにこのままアルが私たちのこと避けてていいの?我慢しなさい。リラ、アルが見えるようになったら、フレッドの頬にもキスしてあげたら?それでいいでしょう、フレッド?」

あれ、やっぱりやきもちだったの…。

「わかった…見えるようになったら…約束だよ?」

フレッドも渋々OKしてくれた。

ちょっとすねた顔も可愛いので、フレッドのほっぺにチュッてしちゃった。

あれ?なんでだろう?精霊さん、何かした?

『えへへ!ばれちゃった?』

最近、いたずら多くないですか?

「本当にわかりやすいわね。自分もしてもらいたかったわけね。」

アンヌが呆れ顔で、にやけてぼーっとしているフレッドを見ていた。


『僕たちが見える魔法だよ!って言ってチュッてするんだよ?』

書庫への移動中、精霊さんにそう言われる。

私たち3人は書庫につき、アルを探す。

アルを見つけると、フレッドとアンヌは少し離れて、私だけが二人の精霊も引き連れてアルのそばに行き、話しかける。

本を探していたアルはしゃがんでいたので、私も屈んだ。

「あのね、アルにも精霊さんが見えるように…精霊さんから教えてもらった、精霊さんたちが見えるようになる魔法。」

そう言って、少し首をかしげる。

「チュッ」

静かな書庫に音が響く。

挨拶だけど、ちょっと恥ずかしい。

え、フレッドにものすごく見られてた。

やだ、見ないでほしかった。恥ずかしさ倍増。

あ、約束、フレッドにもチュッてしなくっちゃ。

私は無言でフレッドとアンヌに駆け寄る。

フレッドだけ連れて、本棚の死角に入り、背伸びをしてほっぺに…のつもりが…。

「………。」

顔が熱い。

私はフレッドとキスしていた。

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