好みが真逆
アンヌに相談してすっきりした。
ノエミと仲良くなりたかったけれど、この間だけでは仲良くなった感じはない。
あの日、私はお気に入りのサマードレスを着て、おしゃれをしていったつもりだった。
でも、ノエミと話して、私は自分を否定されたような気がしてもやもやして、大人っぽい彼女と幼い私を比べて悲しくなっていた。
私は流行にはものすごく疎い。
私は流行遅れでおしゃれとは程遠い。
でも、それは、私の被害妄想だ、そうアンヌは教えてくれた。
そして、自分が好きなものを着て、自分のやりたいよう自由にすればいい。
勿論ルールやマナー、状況に応じて守るべきものはたくさんあるけれど、流行を追いかける必要なんてない、人によって考えは違うんだから、無理に合わせる必要はないし、自分に自信を持て。
でも、自分の考えを押し付けてはダメだと。
私は外の世界を知らな過ぎた。
流行のおしゃれがすべてではない。
流行とかおしゃれ以外の面でもすべてにおいて世間とはかけ離れていると。
それから言われたことを真に受けすぎる、誰かの意見がすべてではないんだと。
「勿論、私の意見もそうよ?それから、世間知らず過ぎることも自覚しておいた方がいいわよ?そうすれば多少傷つかずに済むかもね。」
最後にそうアドバイスしてくれた。
私はノエミと仲良くなりたい。
世間のこと、ノエミにいろいろ教えてもらおう。
「話題に困ったら知らないこと教えてもらうのも一つの手だよ。」
アルのアドバイスだ。
お父様が来た時に、お願いしたらまたノエミと会えることになった。
今度はお兄様たちも一緒だ。
次のお休みの日、おじい様の家で待っていると、お父様とお兄様たちとノエミが馬車で来た。
今日は、おじい様のおうちで遊ぶのだ。
「いいかい、扉のことはみんなには内緒だからね。」
みんなが来る前、おじい様にそう言われた。
あの扉は普通の扉じゃないから、悪い人に知られると困るんだって。
それをノエミ達が知ってしまうと、悪い人に誘拐されてひどいことをされるかもしれないから言っちゃだめなのだそうだ。
そういうことなら内緒にしなくちゃいけない。
おじい様のおうちは、とっても広くて私は時々迷子になってしまう。
今日は、中庭と、サロンだけを行き来することを約束する。
私だって迷子になりたくない。
「こんにちは!ノエミ、会えて嬉しいわ。それからジャンお兄様とポールお兄様も来てくれてありがとう。」
ノエミは今日もヒラヒラ、フリフリの派手なひまわり色のドレスを着ていた。
この前のすみれ色よりも、こういうはっきりした色の方が似合う気がする。
「こちらこそありがとう。素敵なお屋敷ね。」
「中庭がとてもきれいなのよ、行きましょう。」
私はノエミの手を引いて中庭へ行く。
お兄様達も私たちについて中庭へ来た。
お父様はおじい様とおばあ様とサロンへ行ったようだ。
中庭には四阿があって、そこにお菓子やお茶を用意してもらっていたので、4人で腰掛けた。
「あのね、私、親友に世間知らずだから自覚しなさいって時々言われるのよ。だから、王都のこといろいろ教えてもらいたいの。お願い、いろいろ教えてもらえないかしら?」
ジャンお兄様とポールお兄様が笑ってる。
「世間知らずでもいいんじゃないの?その方がリラらしいよ?」
「ジャンお兄様、それはちょっと傷つきます。」
少し膨れた私を見て、
「それは言いすぎだと僕も思うよ?」
ポールお兄様が同意して慰めてくれた。
そんな様子を見て、ノエミが少し驚いていた。
「お兄様たちとリラって仲良かったのね…。」
「何言ってるんだい?今まで何度もリラの話をしてあげたのに、ちゃんと聞いてなかったのかい?」
いたずらっぽくジャンお兄様が言った。
ジャンお兄様とポールお兄様は学校のことを教えてくれた。
貴族の子たちは、だいたい家庭教師をつけてお勉強して、ほとんどの男子が士官学校に進学するらしい。
3年間通った後、卒業して就職する人が半分、国立学校に進学する人が半分だそうだ。
国立学校に通う人のうち、2割が文官クラス、2割が武官クラス、残りの大半が一般クラスへ進むそうだが、一部、魔術師クラスとか、精霊術師クラスに進む人、入学試験で特に成績優秀だと特別クラスへ振り分けられるそうで特別クラスは授業料が免除されるらしい。
そのほか、国立学校には良家の子女が執事見習いまたは侍女見習いと2人1組で入学出来る貴族クラスがあるそうだ。
国立学校はスムーズにいけば3年間で卒業できるが、クラスによっては卒業試験がとても難しく3年間で卒業するのが難しいクラスや、希望して別のクラスに進む人もいるそうで、年齢層が広いらしい。
貴族以外の子はどうなのか聞いてみたら、お金持ちの子は貴族と大体同じだがごく一部で、大多数の子は無料で初等教育が受けらる場所があり、そこへ通うそうだった。
そこで学び読み書き計算ができるようになると、男子は10~12歳くらいで職に就くのがほとんどで、就職しない人は士官学校に進学するそうだ。
ごく一部、自分で勉強して15歳で国立学校へ進む人もいるそうだが、子どもの労働力を頼りにしている家ではそれはほぼ不可能で、ほんの一握りだそうだ。
女子だと、家の手伝いをしながら相手が見つかれば結婚したり(早い子だと成人前13歳くらいで結婚するらしい)、貴族の家に使用人見習いとして就職したり、その他仕事を見つけて家を出るのが一般的らしい。
最後に、もっとひどい生活の人もいるらしいけど…と歯切れ悪く付け足してた。
私は恵まれた環境に生まれ、生活をしていることを知らなかった。
あんなにいろいろ勉強できることはとても幸せなことだったのだ。
今まで以上に頑張ろう。
以前アンヌに『温室育ち』と言われたのも今になってやっと理解できた。
ノエミにはいつもどうやって流行を把握して、ドレスや靴などを調達しているのか聞いた。
仲良くなりたいなら、相手の興味のあることにも質問してみたら?とアルにアドバイスをもらったのだ。
アルには私とアンヌの話が聞こえていたらしい。
私のことをすごく心配してくれていた。
ノエミの興味のあることはおしゃれとかファッションのことしか思いつかなかったし、私が疑問に思っていたことだ。
「流行は、お友達とのお茶会とか、時々連れて行ってもらうパーティで情報収集するの。お気に入りのブティックの新作はチェックしてるし、マダムの話も大切ね。買ってもらうのは既製のドレスが多いわ。オートクチュールだと、人気の店は時間がかかるから出来上がったころには流行遅れになっていたら嫌だもの。たまに仕立ててもらうときは、信頼できる人にデザインをお任せしているわ。うちに出入りしていて、お母様のお気に入りのデザイナーがいるのよ。」
「へぇ、色々なほうほうがあるのね。ノエミはドレスを選ぶときに、こういうのが好き!とかはないの?どうやって選んでるの?」
「そうね、おすすめを買ってもらうことが多いかしら?好みは、ゴージャスなものが好きよ。色は、はっきりした色かしら?リラは?」
「私はどうしてもシンプルなものを選んじゃう。でもね、刺繍とかビーズとかパールとかラインストーンがさりげなくあしらわれているのは好き。色は優しい色合いが多いかな?はっきりした色は似合わなくって。大体、お母様が用意してくれるんだけど、私の好みの物ばかりなの。」
「ノエミとリラは好みが真逆なんだね。」
ポールお兄様がそう言うと、ジャンお兄様も笑いながら同意していた。
「そうね、私の好みとは全く逆だわ。でも、あなたにはとっても似合っているわ。今日の装いも素敵だし、この間会った時のグリーンのサマードレスもとても似合っていたわ。」
ノエミがそういってくれて嬉しかった。
やっぱりアンヌの言うとおり被害妄想でした。
「ノエミも、シンプルなものよりもフリルとかレースのゴージャスなものの方が似合うと思う。この間のすみれ色のドレスもかっこよかったけれど、今日のひまわり色の方が似合っていて素敵よ。髪にも合っているし。」
「やっぱりそう思う?私の髪だとはっきりした色の方が似合うのよね。淡い色の似合うあなたがうらやましいわ。」
「私も、はっきりした色が似合わないのよ?」
そういって、私とノエミは顔を見合わせて笑いあった。
それから、ノエミの習い事の話になった。
ノエミも、マナーとダンスを習っているそうだ。
「マナーはテーブルマナーはもう終わって、今は素敵な手紙の書き方を習っているのよ。いろいろ決まりがあって難しいわ。でも、淑女になるためには大切なんですって。今度、上手に書けるようになったらあなたにも書いてあげるわね。」
「ありがとう、楽しみにしているわ。私もお返事書くわね。」
お手紙交換、嬉しいな。
私もおばあ様に素敵な手紙の書き方を教えてもらえるようにお願いしてみよう。
「ダンスは、習い始めて半年かしら?最近はお兄様達やお父様と時々一緒に踊っているのよ。」
「いいなぁ、私もお兄様達と踊ってみたいわ…。そうだわ、おじい様にお願いしてみるわ。」
おじい様にお願いすると、快く許してくれて、ダンスホールにみんなを連れて行ってくれた。
おばあ様がピアノを弾いてくれて、ノエミがジャンお兄様と、私がポールお兄様とペアになって踊った。
それから、ジャンお兄様とも踊ったし、お父様とも、おじい様とも踊った。
「私よりもリラの方がずっと上手だわ。」
「ありがとう。でも私はおばあ様に2年前から習っているもの…半年でこんなに上手に踊れるノエミの方がすごいと思うわ。私が習って半年の頃なんて、ステップに精一杯でガチガチだったもの。」
それに、ジャンお兄様もポールお兄様もすごく上手にリードしてくれたのだ。
「アンヌ、ありがとう!それからアルも、ありがとう!2人のおかげで、ノエミとずいぶん楽しく過ごせたわ。以前より打ち解けられたし。」
翌日、私は2人にお礼を言った。
それから、アンヌにいろいろ報告をした。
私とノエミの好みが真逆だった事とか、私のドレスも似合っていると褒められたこと。
それから手紙の交換の約束のことや、お兄様達とダンスを踊ったこと。
「やっぱり私の被害妄想だったわ。アンヌの言うとおりね。」
アンヌはにこにこ話を聞いてくれた。
「よかったじゃない?仲良くなれたみたいだし。また会う約束したんでしょう?」
「うん、来月、お休みの日にまたおじい様のおうちで会うのよ。」
「楽しみね。」
「うん、だからお休みがつぶれないように頑張らなくっちゃ。」
最近、授業中に出された課題が時間内に終わらないとそれが宿題になるのだ。
そうならないためにも、授業に集中しなくっちゃ、そう私は気合を入れた。




