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初めて会う妹、そしておしゃれとは何か…

9歳の夏の終わり。

私は初めて妹に会った。


私のお父様は2人の女性と結婚している。

私のお母様と、私の初めて会った妹、そして2人のお兄様のお母様だ。

お父様が私のお母様との結婚が決まったとき、別の女性とも結婚することを周囲に勧められたそうだ。

お父様の家族にも、友人にも、お仕事関係の方にも、そしてお母様の家族…私から見たおじい様、おばあ様、おじ様にもだ。


私のお母様は子どもの頃から体が弱く、熱を出すのはしょっちゅうで、風邪をこじらせて寝込んだりすることも多く、激しい運動はもちろん出来ず、長時間の外出もお医者様に禁止されていたそうだ。

しかし成長し、お母様は精霊術、特に治癒・回復系の精霊魔法が使えるようになると、自分で自分に回復の術をかけて過ごすことを覚え、外出もできるようになり、国立学校へ進学した。

そこで、ジュリエッタさんと出会い、共に学び、精霊術だけでなく魔術も習得したらしい。

大人になって、お父様と出会って恋に落ち、お父様にプロポーズされて結婚を決めたそうだが、周囲にはなかなか認めてもらえず、結婚を反対されたそうだ。

まず、お父様の知らないところで結婚の話が持ち上がっていたこと。

それから、お母様は子どもを産んではいけないと言われていたこと。

体に負担がかかりすぎて、お母様と子どものどちらか、最悪両方が助からないのだから、子どもを産むべきでないし、それならば結婚すべきでないとまで言われたそうだ。

お父様は伯爵家の跡取りだったので、子どもを産めない相手と結婚するという事は論外だったのだ。

しかし、2人の決意はとても固く、結局反対していた皆が折れ、条件付きで結婚が許された。

1つ目はお母様は子どもを産まないこと。

そして2つ目はお父様はもう1人の女性とも結婚すること。

そのもう1人の女性が、お父様の知らないところで話が持ち上がっていた女性で、ほかの兄妹のお母様なのだ。


私が今、ここにいるということは、1つ目の約束はどうなっちゃったの?と思ったけれど、結婚して5年を過ぎたころ、どうしても子どもが欲しかったお母様が、おじい様とおばあ様に必死に、何度も何度もお願いをして条件付きで許可をもらったそうだ。

緑の森(フォレ・ベール)で出産し、その後も緑の丘(コリンヌ・ヴェール)でお母様と生まれた子ども、つまり私が暮らすことを条件で、子育てにもおばあ様が口を出すというものだった。

出産前は毎日、治癒魔法や回復魔法を何度も誰かにかけてもらい、きめ細かなケアのもと、出来る限りのことをみんながしてくれて、何とか命を落とすことなくお母様は私を出産した。

命は落とさなかったとはいえ、体への負担はとても大きかったそうで、魔術や精霊術がほとんど使えなくなっていたし、体力も落ち、病気にかかりやすくもなっていた。

そのため、外出は森か、自宅近くのみに限られ、治癒・回復系の魔術か精霊術の使える人の同行があるときだけ許され、今もそんな感じだ。

私が今、治癒・回復系の魔法が得意なのはお母様を楽にさせてあげたい、一緒に出掛けたい、その思いがきっかけだった。


私が今回会う妹は、お父様が結婚したもう1人の女性との間に生まれた子どもで、ジャンお兄様とポールお兄様の妹のノエミだ。

妹、と言っても、私とはお誕生日が1か月しか違わない。

私は5月生まれ、ノエミは6月生まれだそうなので、妹というのもおかしいかもしれない。

今まで、お父様やお兄様達から彼女の話を聞いていたけれど、王城以外の王都から離れていた私は1度も会ったことがない。






9歳の夏休みの最終日、私はおじい様に連れられて、王都を歩いていた。

実は王都の街を歩くのも初めてだ。

お父様と、ノエミと、私の予定がなかなか合わず、妹の存在を知ってから2年以上たっての念願のご対面。

どんな子だろう?話は合うのかな?

お兄様たちはカールしたオレンジブロンドの髪、明るい茶色の瞳の鋭い目、高い鼻で可愛いって言ってたし、あの魔法使いが妖精のお姫様を助ける本が好きって言ってた。

王都で流行っているというサロン・ド・テにつくと、店のテラス席でお父様と少女が待っていた。

私はおじい様と別れ、お父様と少女と同じテーブルに着く。

おじい様は、また後で私を迎えに来てくれるそうだ。


「リラ、よく来たね。この子がノエミだよ。ノエミ、この子が話していた君の1か月だけお姉さんのリラだよ。」

ノエミは、お兄様達に聞いていた通り、オレンジっぽいブロンドの長いカールした髪で、茶色い瞳は明るく綺麗だった。

鋭い、と言われていた目も、高い鼻もきりりとしていてかっこいい。

「初めまして。リラです。よろしくね。」

「こちらこそ。私はノエミよ。」

ノエミは、私が来たことのないような華やかなドレスを着ていた。

スミレ色、黄色、白、たくさんのフリルやレースがあしらわれていて、髪にもおそろいの飾りをつけていた。

何を話したらいいのかよくわからなくって、困っていたら、お父様がいろいろ話してくれた。

ノエミは、おしゃれが大好きで、いろんなドレスを持っていること。

今いるこのお店も、ノエミのお気に入りだそうだ。

幸い、エルフ向けのものも置いていたので、お父様がそれを注文してくれた。

「ノエミって、すごいのね。私、おしゃれとか全然わからなくって。」

「今は、スミレ色と黄色の組み合わせが流行っているのよ。それから、ボリュームがあって華やかなデザインが人気よ。」

私は、シンプルなAラインのひざ下丈のエメラルドグリーンのワンピースだ。

裾にビーズが縫い付けられているけれど、これじゃあ華やかじゃないのかな?

私は気に入っているからいいけど…。

他にもいろいろオシャレについて教えてくれたけれど、半分もわからなかった。

「おしゃれってとっても難しいのね。」

「あまり王都の街には来れないのなら仕方ないわよ、流行りはあっという間に変わるし、常にここから新しい流行が生まれているんですもの。」

「それじゃあ仕方ないかも。私、王都の街を歩くのは今日が初めてなの。」

ノエミがびっくりする。

「そうなの?ドレスや靴はどこで買うの?もしかしてオーダーメイド?」

「ううん、これもお母様が子どものときに着ていたんですって。そういうのが多いかな?刺繍したり、ビーズで刺繍してもらったり、私が好きな風にちょっとアレンジしてもらってるけれど。」

ノエミはさらに驚く。

「え…そうなの?私ならあり得ないわ…。」

あり得ない?なんでだろう?

「おしゃれって大変なのが良くわかったわ。いろいろ教えてくれてありがとう。」


それから、前にもらった本のこと話してみたけれど、反応がいまいちだったので、どうしようかと思っていたら、おじい様が迎えに来たので、ノエミに今度また会おうね、と約束して別れた。

椅子から立ち上がると、彼女は私よりも10cmも身長が高くてびっくりした。

良く見たら私の座っている椅子には高さを調節するためか分厚いクッションが敷かれていた。

座り心地良かったからいいけど、これって私が子どもっぽいせいなのかな…と少し悲しかった。

ノエミの椅子にはそんなクッションなかったし。

ノエミは想像していたよりも、見た目も中身もすごく大人っぽくて、どう見ても妹は私の方だ。

そんなこと考えてたからクッションくらいでそんな風に思っちゃったのかもしれない。


おじい様に連れられて、王都を歩く。

何人か、スミレ色と黄色の組み合わせの華やかなボリュームのあるデザインのドレスの人を見かけたし、ショーウィンドウに飾られているものも大概華やかでボリュームのあるデザインのドレスばかりだった。

流行とかおしゃれってなんだろう?






翌日から、3年目の授業が始まる。

久しぶりに王宮へ行く。

4人で会えるのが嬉しい。

おばあ様がやってきて、夏休みの課題を回収した後、今年度の授業について説明を始めた。

去年とほぼ変わらない科目だ。

王宮では算術、ダンス、マナー、護身術。

私とアンヌにも乗馬が加わり、ポニーに乗せてもらえることになった。

フレッドとアルは、科目が乗馬から馬術に変わり、ポニーが馬になった。

そして剣術のほかに弓も習い始めるらしい。

森での授業は、薬草学と精霊学とエルフ学と科目は去年と同じだが、授業中の説明や受け答えのすべてがエルフ語になった。

森での授業中はエルフ語以外禁止、そう説明があった。


「相変わらずフローレンス様は鬼ね。」

アンヌの口調も相変わらずだ。

そんな口調を聞いてなぜかホッとした。

「ところで、妹と会ったんでしょ?どうだった?」

「私の方が一応お姉さんって聞いていたんだけど、私よりも10cmは背が高いし、流行とかおしゃれにも詳しくてすごく大人っぽかったわ。どう見ても妹は私のほうよ。」

「リラとは話が合わなそうね。」

「でも楽しかったわよ。知らないこといろいろ教えてもらったし。ねぇ、アンヌ、おしゃれってどういうことかしらね?」

昨日から考えていたことだ。

これが流行りです、と言われそれを身に着けることがおしゃれなのかな?あまり好きじゃないドレスも着なくちゃいけないのかな

「は?何か言われたの?」

アンヌ、鋭い。

「ねぇ、お母様の子供の時の服着ているってあり得ないこと?」

「なるほどね。流行りを追いかけることがおしゃれだと思っている人にはあり得ないでしょうね。でも、流行りを追いかけるのは本当のおしゃれじゃないわよ、本当におしゃれなのは流行りを作る方よ。それに、私は流行りに流されず自分の好きな服着てる方がおしゃれだと思うけど?リラはお母様の服でも気に入ってきてるんでしょ?それに刺繍したり自分好みにリメイクしてもらってるじゃない?私はそういう方がおしゃれだとおもうけど?」

「アンヌもぶれないよね。服装もそうだし、いつも自分の意見を持っているでしょう?私、そんなアンヌがすごく素敵だと思う。」

「そう?ありがとう。それでいいのよ、自分が好きなものを着てればいいの。私はリラの服装好きよ。自分の似合うものを知っていて、好きなものを着ているでしょう?

まぁ、いくら好きな格好でもTPOには合わせないといけないけれどね。いくら流行でも時と場所と場合にふさわしくない格好をしていたらおしゃれどころかただの恥ずかしい人よ。」

「すごく勉強になったわ、アンヌ、ありがとう!」

私の心からもやもやしていたものがすっと消えていき、まるでくもり空から日がさして、次第に青空が広がっていくようだ。

なんだかすごく元気が出た。

アンヌ、ありがとう。


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