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【フレデリックの夏休み〜草原を駆ける日々〜】

部屋に引きこもっていた夏から1年。

僕は10歳になった。


去年は王都へ戻ってすぐ、リラに会いに行った。

今年もそのつもりだ。

あの時久しぶりに会ったリラは、僕の姿を見ると駆け寄ってきて、僕に抱きついてくれた。

柔らかくて、良い香りで、久々にみる彼女の笑顔は物凄く可愛かった…。

ずっとそうしていたかったけれど、突然現れたローラン様に引き離されてしまった。

もしかして、僕にヤキモチ焼いているのか?まさかそんな事はないよな。

うん、あり得ない。


その数日後、また日常生活が始まった。

今までの科目に加えて、剣術と乗馬が加わった。

リラとアンヌはその2つが無く護身術だ。

リラは、乗馬がしたいと珍しく駄々をこねていたが、ローラン様に宥められ、諦めた様だ。

僕は、うまく乗れる様になったらリラを一緒に乗せたり、リラに乗馬を教える約束をした。その為にも頑張らなくては!

…しかし、乗馬の時間、ローラン様が連れて来たのは馬では無くポニーだった…。

「まずはこれに乗れる様にならなくてはね。」

確かにそうだ。

こども扱いされ悔しかったが、仕方がない。


そうして、1年間王城の馬場でポニーで乗馬の練習をし、僕はポニーならほぼ乗りこなせるまでになった。






去年までは憂鬱だった夏休み(バカンス)が、今年はとても楽しみだった。

過ごす場所は去年と変わらない。

しかし、今年は…馬に乗れるのだ。

ポニーでは無く、馬だ。

父が、上司から馬を借り、乗馬を教えてくれるそうなのだ。

もちろんエドも一緒だ。

出来れば今年はエドの幼馴染達との会は避けたいのだが…まぁ、それは今考えるのはやめよう。


今年も去年と同様課題が出たのだが、去年に比べるとかなり控えめだった為、僕は2日で片付けることが出来た。

エドは、今年も僕の算術のノートを書き写していて、2日終わった時点でだいたい6割写し終わっていた。

馬の負担を考えると、朝から晩まで乗馬するわけにもいかないので、午前中は乗馬をして、午後から部屋に引きこもってエドはノートを写し、僕はダンスの練習をすることにした。

去年は、ダンスの練習なんてすっかり忘れていて、リラに会った時に彼女に言われて思い出し、2人で一緒に練習をしたので事なきを得た。

休み明け、たまたまリラと組むことが出来て、彼女がリードしてくれたのも大きい。


さて、肝心の乗馬だが…思っていたほど甘く無かった。

やはりポニーとは勝手が違う。

まず、馬に跨がるのすら思う様に行かない。やっと乗れても、大きさも違うため感覚も違う。

目線も高いので、全く別物だ。

とは言え、バランスの取り方は何とかコツを掴み、何とか乗れる様になったものの、リラと一緒に乗るのはまだまだ無理そうだ。

教えるのだって、自分がまともに乗れなくては話にならない。

残り1週間である程度まで、せめて1人で乗りこなせる…のは無理でも、それなりに乗れる様になりたい。

因みに、エドは僕以上に苦戦していた。

彼は初めての乗馬がポニーではなく、今日この場で馬だからだ。

ポニーでも、1年間練習していてよかった…。


2日、3日と練習を重ねるごとに、どんどんコツが掴めてきて、ポニーと同程度まではいかないが、それなりに扱える様になった。

4日目、今までは並歩、速歩、だったが、今日は馬を走らせる。

駈歩だ。

軽く蹴る。

鞭を打つ。

スピードが上がる。

風を切って走るのはすごく気持ちいい。

『ソロソロ疲レタミタイダカラ休マセテアゲテ…』

きっと森の精霊だ。

馬は森の動物ではないけれど、馬と話せる様だ。

僕は減速し、馬から降りる。

そして、引いて厩舎へ戻る。

「今日もありがとう。走って疲れただろう?ゆっくり休んでくれ。」

『馬モ喜ンデイルヨ。気遣イガ嬉シイッテ…。』

それは良かった。

翌日も、前日と同じ馬に乗る。

「今日もよろしくね。」

精霊に通訳してもらうと、気持ちが通じるのか、随分上手く乗れる様になった。

「フレデリック、大分上達したね。」

父にも褒められる。

エドも初日に比べたら格段に上達していた。



部屋へ戻る途中、僕は予想外の人物に会った。

ここにいるなんて思っても見なかった。

だって彼は他に約束があったはずだ。


「久しぶりだね。フレデリック。」

「お久しぶりです。あの、なぜこちらに?リラと会うのでは無かったのですか?」

リラの父、シャルロワ伯爵だった。

「リラには会って来たよ。今年は私も直々にお誘いを頂いてね。息子達はまだリラのところにいるよ。私だけこちらに来たんだよ。」

「リラは元気ですか?」

「あぁ、とても元気だったよ。君にとても会いたがっていたよ。いつも仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ。」

軽くお辞儀をして別れる。


エドはそのやりとりを聞いていた様だ。

部屋に戻ると、ニヤニヤしてこちらに向かってくる。

「リラって誰?」

「………………」

「その反応の答えはただひとつ!」

「………………」

「例の、髪が長くて、優しくて、笑顔がすごく可愛くて、ちょっと不思議な子、それで決定だな。」

「………………」

「現在進行形で想いを寄せてるわけ?」

「………………」

「さっきの会話の様子だと両想い?」

「………………」

「まさか結婚の約束とかまでしてないよな?」

「………………」

顔が赤くなる。

「!?…マジか!?そしてまさかの親公認!?」

「………………」

「…その沈黙は肯定か!?」

「………………ノーコメントで。」

「この場合のノーコメントって肯定だから!!」

エドはそこまでとは思っていなかったらしく、突込みながら驚いていた。

「てっきりフレッドの片思いだと思ってたよ…寧ろ、そうであってほしかった…。」

置いてきぼり感満載だと嘆いていた。

その後、エドに根掘り葉掘り聞かれ、差し障りの無い程度話した。

母親同士が親友で、幼いころ一緒に過ごすうちに好きになってプロポーズしてしまい、今は一緒にダンスを習って(他の科目に関しては色々面倒なので具体例はダンスのみにした)いる事。

「まさか、フーシェ公爵邸も関係あったりする?」

鋭い、今日はいつものエドとは違うぞ…。

笑ってごまかそうとしたが意味はなかった。

諦めて白状することにする。

彼なら、きっと大丈夫。

「今までの話しも全部内緒にしといてくれよ。」

「もちろんだ…親友よ…。」

どちらかと言うと、悪友な気もするが?まぁ、せっかくだからそういうことにしておこう。

「リラは、フーシェ公爵と夫人の孫だよ。エルフの血を引いてる。」

「てことは王族かよ?」

「やっぱりそうなるのかな?」

「だってフーシェ公爵は現王の叔父なんだろ?ってことは彼女の母親は王のいとこなんだよ。つまり彼女、2代前の王のひ孫ってことじゃん?」

「うん…確かにそうなるよね。」

「でも何で話題に上がらないんだ?すげぇ可愛いんだろ?目立ちそうなものだけど?」

「それは、彼女の母親、体弱いんだよ。で、今は国王主催の祝賀会とかも含めて、リラも母親も貴族社会には全く顔出してないんだよ。そういうのはローラン様とか、彼女の父親、2番目の奥さんもいるんだよ。お付き合い関係はそっちがこなしてるらしいよ。」

因みにローラン様は有名人だ。

ものすごい美形で、すごく若く見えるし、優しいし、王の重臣で、頭脳明晰と評判で、奥様方から色気づきだした少女(こども)たちまでキャーキャー騒いでいる。

「なるほどね。ローラン様の姪っ子ならものすごく可愛いというのも嘘じゃなさそうだな。」

「彼女に迷惑かけたくないから、絶対秘密にしといてくれよ?それに彼女に何かあったら僕が殺される…。」

「もちろんだよ。逆に言えねぇよ。面倒くさそうだしな。僕も自分の身が大事だよ。」

「ありがとう、エド、君は僕の親友だ。」

「じゃあ、そのうち紹介しろよ。」

「う…うん。そ、そのうちな。」


翌日、エドの幼馴染御一行様に会ったが、挨拶を交わした程度で済んだ。

ただ、僕に向けられる視線がやたらと居心地悪くて、半ば逃げる様に厩舎へ向かったからお誘いを受けずに済んだのかもしれない。

あれはなんだったんだろう?


残念ながら、乗馬は今日が最終日だ。

ここを発つのは明日だが、明日は乗馬する時間がない。

今日は、僕の相棒になってくれた馬と、お互い楽しく過ごしたいと思う。

午前中、彼のペースで草原を走り、お昼前には厩舎に戻る。

今までのお礼の気持ちを込めて、念入りにブラッシングする。

すごく気持ち良さそうだ。

「本当にありがとうな。君のお陰で、自信が付いたよ。」

それに答えるかの様に、鼻を鳴らす。

今日は精霊の通訳が入らない。

つまり通訳不要ってことか?

『ソウダヨ!』

やっぱりそうなんだ。

更にブラッシングをして、満足そうな顔をしていたので、再度お礼を告げ部屋へ戻った。


部屋には、エドが寛いでいた。

「フレッド、今年は平穏無事にここで過ごせてよかったな…。今年も昼食会とかあったらどうしようとか思ったぜ。あの話聞いたら…好きな子がいるのに違う女の子たちに囲まれるのは嫌だろうなぁ…とか思って申し訳なかったしな。彼女たち、ちょっと怖かったしな。何が怖いとかわからないんだけれど、ただ漠然と怖いんだよな。」

「言いたいことはわかるよ。怖いのは僕も同感。」

少しの沈黙の後、エドが口を開いた。

「あのさぁ、やっぱりフレッドって使えるのか?魔術。あれってある程度遺伝するんだろ?」

エドには隠しても意味ないよな。

僕の母のことも祖母のことも知ってるし。

魔力は遺伝すると言われている。

だいたい50%確率だそうだ。

「あぁ、少しはね。まだまだだよ。」

「やっぱり、彼女もそうなんだよな?精霊術か?」

やっぱりそのくらい判るよな。

ローラン様も、フローレンス様も高位の精霊術師(実際は精霊魔術師だけど)なのは有名な話だ。

エルフの血を引いていれば、精霊術が使えるのも一般的な話だ。

これも、エルフの子供なら50%、孫なら25%程度の確立と言われている。

「あぁ、そうだよ。これも口外するなよ。」

「勿論だよ。自分が大事だしな。フレッドも結構大変だな…。」

なぜか同情された。

良くわからないけれど。

エドはいいやつだ。

顔を合わせる機会もリラたちほどではないがそこそこあるし、話も合うので会えば一緒に過ごすことが多い。

剣術も、ほぼ互角なので、練習相手としても最高だしよきライバルだ。

秘密も守るし、頭もいい。

それに、顔だってなかなかの美形だ。

きっと、幼馴染のミレーヌはエドのことが好きなのだろう。

でも、エドは…そうじゃないんだ。

彼は僕以上にあの昼食会やお茶会の居心地が悪かったのだろう。

もしかしたらエドにも好きな子が他にもいるのかもしれない。


翌日、僕らは無事帰路についた。


休み中、1度だけリラに会えた。

やっぱり久しぶりの再会は僕に駆け寄って抱きつき、ローラン様に引きはがされた。

なんか毎度このパターンだ。

リラに抱きつかれるのは数か月ぶりだ。

なんだか以前より小さく感じる。

その後リラとフローレンス様からダンスのレッスンを特別に受けた。

ハードだったが、去年のように慌てることはなかった。


その後、僕は乗馬の話や、リラの父に会った話をした。

リラも兄と過ごした話をしてくれた。

そして、休みの最終日に父と妹に会う約束をしていると教えてくれた。

リラの妹もあの別荘にいたのだろうか?

リラの兄たちもいなかったし、彼は1人で参加していたのかもしれない。

リラは会うのをすごく楽しみにしているようだった。

そりゃそうだよね。

話は聞いていたようだが、今まであったことのない妹だ。

仲良くなれるといいな、と思う。

誤字修正いたしました。

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