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ご褒美

「これまで皆さんよく頑張りましたね。ある程度エルフ語も話せるようになりましたので、今日は実際に会話してその成果を実感してもらおうと思います。では、行きますよ。ついていらっしゃい。」

ある日、いつものように授業が始まるのを待っていると、部屋に入ってきたおばあ様が突然そう宣言し、私達はおばあ様に連れられて王城を移動していた。

通るのは見慣れた通路ばかり。

そして、おじ様の執務室に着いた時、やっと私はどこに行くのか気づいたのだった。

「もしかして、森へ行くのですか?」

「そうですよ。やはりネイティブと話すのが一番上達しますからね。」

そう言っておばあ様はにっこり笑った。

「森とは、緑の森(フォレ・ヴェール)ですか!?僕が行っても良いのでしょうか?」

アルは興奮気味だ。

アンヌは、何も言わず目を輝かせている。

「もちろんですよ。さぁ、行きましょう。」

赤い扉と、虹色の扉を経由して森へ行く。途中、私の家だとアンヌに教えたら、今度遊びに来たいと言ったので、お母様にお願いすることを約束した。


森に着くと、すぐに自由行動であることが告げられ、12時に同じ場所に集まるように言われて解散した。

アンヌとアルが困っていたので、とりあえず、中庭を案内することにした。

時々、アンヌとアルがここで働くエルフに声を掛けられ、エルフ語で悪戦苦闘しながらも会話していた。

「おばあ様がおっしゃっていたのはこういうことだったのね。」

きっと、2人に声をかけるようにお願いしてくれているのだろう。

「リラ、もしかして、フローレンス様はアルとアンヌにも精霊が見えるようにって思ってるんじゃないかな。もし、そのつもりなら明日も明後日も、またここで授業すると思うんだ。」

アンヌとアルがエルフとエルフ語会話をしていて離れているとき、フレッドがこっそり私にそう言った。

確かに、そんな気もする。

約3年前、フレッドがここに来たのもおばあ様の勧めだったはずだ。

一通り案内した後、フレッドが精霊を見えるようになった泉のほとりで休憩した。

暫くすると、お母様がやってきた。

「お母様!」

お母様に抱きつく私。

「うふふ、リラ、苦しいわ。こんにちは。アンヌとアルベール、はじめまして。フレデリックも久しぶりね。いつもリラから色んなお話し聞いているわ。」

「はじめまして。アンヌと申します。リラとはとっても仲良くさせていただいております。」

アンヌの畏まった挨拶に、思わず笑ってしまう。

「アンヌったら、いつもと全然違うわ。」

「私だって、挨拶位ちゃんと出来るわよ!」

「うふふ、本当に仲良しなのね。これからもリラをよろしくね。それからアルベールも仲良くしてくれてありがとう。」

私達のやりとりに、挨拶するタイミングを逃したであろうアルに声をかけると、アルは

「こちらこそお世話になっています。」

とぺこりと頭を下げた。

お母様は少し顔色が悪かったので、念のため回復魔法をかける。

「ありがとう。そろそろ行くわね、お昼の用意をするわ。」

「お母様、私もお手伝いするわ。」

お母様と私のやりとりにアンヌとアルは驚いていた。

私が疑問に思っていると、

「普通、貴族とか身分の高い人は食事の支度を自分でしないんだよ。」

フレッドがこっそり教えてくれた。

知らなかった。

ここでは結構普通にみんなお料理とか手伝いしてたからなぁ。

「私も、お手伝いさせていただきます!」

「じゃあ僕もさせてください。城では絶対させてもらえないからね、良い経験だよ。」

結局、全員でお手伝いすることになった。


「自分の食事を自分で用意する、とても良い心がけですね。簡単な食事の準備位出来ておいたほうがいざという時にも役に立ちますからね。それに、感謝の気持ちも生まれます。特に上に立つものにとって、そういう気持ちを忘れないことが大切ですよ。」

おばあ様も、ご機嫌だ。

アンヌとアルはなんだか照れている。

「リラ、お野菜洗ったら、お鍋に火をつけてくれる?」

私が魔法で野菜を洗い、魔法でお鍋を煮込みはじめたら、アンヌもアルも感心していた。

「本当に魔法が使えるのね…。」


今日のメニューは、パンと、野菜とお豆のシチューと、たくさんのフルーツだった。

「そういえば、ずっと気になっていたんだけど、やっぱりリラはお肉とか食べないのかい?」

エルフが動物性の食品を食べないのは一般的に知られていることで、ごくたまに、エルフ向けのメニューをメインで出すビストロとかカフェもあるらしいし、そうでないお店でもそういうメニューを数品置いているお店も時々見かけるというのをお父様から聞いたことがある。

いつもの昼食はお肉はもちろん、普通の卵や牛や山羊の乳は使っていない様だったし、マナーの授業で出されるコース料理も、私だけメニューが違うこともあった。

「うん、絶対食べちゃいけないっていうわけでも無いんだけど…私はエルフではないしね。でも、あんまり得意じゃないって言うか、出来たら食べたくないかな。おばあ様が配慮して下さってるせいか、昼食とか、お茶の時にはそういうものを使っていないものを出してくださっているわ。」

「全然気づかなかったわ。でも、お菓子には卵やミルクを使っているんじゃなくて?」

「それはね、普通の卵じゃないの。それにミルクもそうよ。卵はね、エッグプラントってお野菜あるでしょう?あのお野菜、元々は(ここ)の物なのよ。王国のものは中が固形で詰まっているけれど、森の物は熟すと中身も液状で卵ソックリなのよ。」

「うんうん、本当にソックリなんだよ。茹でたらゆで卵みたいに固まるし、味は普通の卵よりあっさりかな。火を通した黄身のホクホク感は少ないし色も少し薄いけれど、よく似ているよ。それと、ミルクも豆から作られるソイミルクと、ナッツから作られるナッツミルクもあるんだ。ソイミルクはフレッシュチーズみたいな物も作られるし、ナッツミルクは独特の甘い香りがするよ。今日のシチューもソイミルク使ってるんじゃないかな?」

「そうだったのね。食べ物一つでもすごく勉強になるわね。」

「じゃあこのバターは?」

「それはね、森のバターって呼ばれる果物を精製して作るのですよ。またそのうち、授業で教えるつもりでしたが、明日から実習もしましょうかね。」

アルの質問に答えたのはおばあ様だった。

「明日から実習ですか?」

「ええ、良い機会ですし、今日の様に、実際に調理する過程からどの様な物か実際に触れるといいでしょう。収穫出来そうな物があれば、実際に収穫させてもらえないか交渉してみます。」

「と言うことは、明日もこちらで?」

アンヌが嬉しそうに、目を輝かせて聞く。

「そういうことになりますね。」





翌日、私は家お母様とから直接森へ行き、フレッドはおばあ様に連れられて、アンヌとアルはローランおじ様に連れられて森へやって来た。

アンヌはおじ様と手をつないでウットリ夢見心地だった。

まずは、食材を分けてもらいに、エルフの農家を訪ねる。

玉ねぎ、グリーンピース、キャベツを収穫させてもらった。

それから、エッグプラントの畑へ移動する。

王国のそれは夏野菜だが、森では年間を通して育てられ、1年中収穫されていた。

流石に、雪の降る季節は温室で育てられているそうだ。

「皮はすごく壊れやすいから、力を入れ過ぎてはいけないんですって。」

エルフ語で農家さんが話す内容を時々訳して伝える。

なんで時々なのかは、アンヌかアルに聞かれた時とか、首を傾げた時だけ教える様にしているから。

「あぁ、そういうことか。そういうところも卵と同じなんだな。」

アルは半分は理解していた様だが、知らない単語が多いので意味を把握しきれないと呟いていた。


私とアンヌは何とか割らずに収穫出来たけれど、フレッドとアルはヒビを入れてしまったみたいだった。

お世話になった農家さんにエルフ語でお礼を言って、お城に戻った。

お城でお母様が育てているハーブも収穫させてもらう。


お城には、料理人が働いているメインの厨房の他に、自分たちで調理する時に自由に使える小さな厨房がある。

今日も小さな厨房で食事の用意をする。

先生はお母様だ。

「フレッド、野菜を洗って頂戴。リラはアンヌとアルに玉ねぎの剥き方を教えて。皮を向いたら、グリーンピースを鞘から出すのも教えてね。」

「まず、根を落とすの。落としたところから、皮を剥くのよ。向けたら、頭も落として。包丁、気をつけてね。」

1人1つずつ玉ねぎを剥く。

「グリーンピースは、鞘を二つに割って、ここをこう押すと綺麗に割れるわ。それから、取り出した豆はこっちに、鞘はこっちに入れてね。」

「フレッド、サラダ用のハーブは風の精霊術で水切りしてね。魔術ではダメよ、あなたの魔術では力が強すぎるから。」

お母様が指示を出す。

「包丁を使う時は、左手で押さえてね。指を切らない様に軽く握って押さえるのよ。」

お母様はそう言ってアンヌとアルにお手本を見せて、残りを二人に切る様に指示した。

はじめて持つであろう包丁を手に、危なっかしい手つきで四苦八苦しながらカットしていた。

アンヌもアルも大抵のことを器用にこなすので、ちょっと意外だった。

「リラ、卵を湯がいてちょうだい。それから、フライパンでグリーンピースを炒めてね。

フレッドは水切りした野菜を冷やしてくれる?凍らせちゃダメだからね。」


アンヌとアルは悪戦苦闘していたけれど、何とか全てカットし終えた様で、盛り付けしたり、私が火にかけたお鍋をかき混ぜたり、楽しくお料理していた。

そうして出来上がった今日のランチは、すごく良い香りを周囲に振りまいていた。


「本当に卵にそっくりね!私、あっさりしていてこちらの方が好きだわ。」

「このスープも出汁が効いていてなんて美味しいんだ!動物性の食品を使わなくても、工夫次第で使っているものと遜色ない物が出来上がるのですね。」

アンヌとアルにとって、自分たちで調理した初めての料理は、満足の行く出来だった様だ。

パンに、乾燥キノコとドライトマトで出汁を取ったキャベツと玉ねぎのスープ、ソテーしただけのグリーンピースにハーブのサラダ、茹でたエッグプラント。

朝食のようなメニューだけれど、自分たちで作ったそれは今まで食べた中で一番美味しいと思えるご馳走だった。

「空腹は最高のスパイスですからね。それに自分で作ると、普段頂いているお食事にたくさんの人の手間暇と愛情がこもっているかわかるでしょう?今日感じたことは決して忘れてはいけませんよ。」

いつも間にかおばあ様も私達の後ろでニコニコ嬉しそうだった。


午後からは、遠くに行かなければ自由にしても良いと言われたので、ベリーを摘みに出かけた。

あっという間に大きな籠いっぱいになったベリーを摘まみながら、アンヌが呟く。

「いつも何気無く食べているけれど、作られる過程とか、材料の事とか全く考えたこと無かったわ。」

はぁ…と、溜息をつくとまたベリーを摘まんだ。


『明日、魔法のベリー摘みに行こうよ』

不意に声が聞こえる。

精霊さんだ。

「魔法のベリーってリンガルベリーのこと?」

『そうだよ』

「じゃあ、おばあ様に相談してみるわね。明日もここで授業するか分からないし…」

つい、口に出して答えてしまった。

「リラ、いきなりどうしたの?」

少し前を歩いていたアンヌが立ち止まり振り返る。

「ごめんごめん、ちょっと精霊さんとお話ししてたのよ。」

「リラー!」

フレッドも駆け寄って来た。

「今精霊に、明日リンガルベリー摘めって言われたんだけど…」

「え?フレッドも?私もなの。戻ったらおばあ様に相談してみましょう。」

アンヌがついていけない、という目でこちらを見ている。

後から来たアルも、訳がわからないという顔をしている。

「なんかもう、凄すぎてついていけないよ。一緒にいるのに、違う世界が見えているみたいだよ…。」

アルが、さみしそうに呟く。

「…『時間ハカカルケレド、2人トモ必ズ見エルヨ』って言ってる…。」

『もうすぐ同じ世界が見えるはずだよ』

フレッドが言うのと同時に、私の頭の中でもそう聞こえた。

「2人にもそのうちわかるわ、私にも、フレッドにも精霊さんがそう言ってくれているもの。」

アンヌもアルも半信半疑といった様子で顔を見合わせた。

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