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温室育ち?

丸1日がかりで写した教材(テキスト)は、おばあ様の魔法で防水加工が施され、臙脂色のハードカバーが付けられて私たちに返された。

授業の度に、広く行間を開けて書かれたそれに説明や訳を書き込み、それぞれのオリジナルの参考書になっていった。

また、単語は子どもの掌に収まるサイズの紙の片面にエルフ語、その裏面に意味や熟語の表現の解説を書き、それを文字毎にリングで束ねていった。

半年も経つと、簡単な辞書替わりにも使える程立派な単語帳になった。

頭文字別にまとめられているのが良いような悪いような、やたらとかさばるのが難点だけれど…。

以前から多少エルフ語に触れていたフレッドはもう簡単な日常会話程度なら話せる様になっていたし、アンヌとアルも、多少のコミュニケーションを取れるであろう位のエルフ語を習得していた。


年の終わりと年の始めは、王宮で様々な行事があり、忙しいということで10日程お休みがあったけれど、当初は週3回だったおばあ様の授業は週4回になり、半年を過ぎた頃から週5回に増やされていた。

やはり、授業のメインはエルフ語で、ほぼ毎回エルフ語の授業はあった。

エルフ語の授業のメインが会話になってくると、私も時々アシスタントとして手伝うことも多くなった。

マナーのレッスンも、テーブルマナーに関しては、皆がもう殆ど注意されること無くコース料理も食べ終えられるまで身についていたし、所作だとか、挨拶なども徹底的に叩き込まれていった。

ダンスのレッスンも、ステップはもちろん、簡単なワルツであればペアになってなんとか踊れるようになった。

やはり、ローランおじ様とペアになった時が1番踊りやすく、フレッドやアルと組んだ時は、『本当になんとか』踊れる程度だったので、まだまだ練習しなくてはいけなかったが、7歳の子どもにしては充分だと言える程度でまでは上手になったと思う。

算術は、加・減は習得して、今は乗算を習っている。

おばあ様の授業はハイペースとか、スパルタとも言うのがぴったりの厳しいものだったが、皆ああだこうだと文句を言いつつも授業は楽しみにしていたし、結局のところ毎回楽しんでいた。

「はぁ…やっぱり鬼だわ…。もうクタクタよ…リラ…お願い、回復魔法かけて…。」

そして、疲れたアンヌに回復魔法をかけるのもお約束になっていた。

私は目立たない様に、ごく弱いものしかかけなかったせいか、おばあ様もおじ様も気付いている様だったけれど、何も言わず黙認してくれていた。


私とフレッドがここに通う様になって半年。

休みの日は私は今までの様に森に行っていたし、フレッドも時々遊びに来ていて、その度に私達の周りには精霊さん達が増えていって、その子達はなぜかおばあ様の授業を受けにここへ来る時まで私達について来て、そのまま王宮の中庭に住んだり、中にはアンヌやアルを気に入って2人を守る様になった子達までいた。

元々、数は少ないながらも王宮の中庭には精霊が住んでいたみたいだったけれど、今は緑の森(フォレ・ヴェール)ほどはいないながらも、緑の丘(コリンヌ・ヴェール)の湖のほとりと殆ど同じ位の数の精霊さん達が住み着いていた。

残念ながら、アンヌもアルも精霊さんに気付いていない様だったけれど。

気付いたのに教えないのも隠しているみたいですこし心苦しかったけれど、連れて来たことが良い事だったのかどうかよく分からなかったし(とはいえこちらが連れて来たというよりも勝手についてきたと言う方が正解な気もするが…)、どの程度精霊について知っているのか、信じているのかわからなかったので、しばらく黙って様子を見ようとフレッドと私の意見が一致したので2人に教えるのは先延ばしにしていた。






寒さも和らぎ、春の気配が感じられる頃、授業には新しい科目が加えられた。

「本日より『精霊学』を勉強します。本当は教える予定(つもり)が無かったんですけれどね。誰かさん達がここにいつの間にやら結構な数の精霊を移住させてしまった様ですしね。それにアルベールとアンヌもいつの間にやら精霊の加護を受けている様ですから教える事にしました。」

私をチラリと見ながらおばあ様が言った。

おばあ様が気づかないわけないですよね、当たり前ですよね。

「精霊の加護ですか?」

「受けた覚えはありませんわ?」

アンヌやアルが驚くのも無理はない。

王都には殆ど精霊がいないと言われている、そう以前にフレッドに聞いていたからだ。

「そうですよ、数はそんなに多くはありませんが少なくもありませんね。あなた達を守ってくれていますよ。」

そう言ってまたチラリと私を見る。

最近、私のまわりにもやたらと精霊さんの数が増えているのだ…どうやら虹色の結の精霊が色々な子達を呼んでくるらしい。

私を守ってくれている結の精霊の数自体もすごく増えている。

「ですが、僕には何も見えません。本当なのでしょうか?」

「もちろんいますよ、そうでしょう?リラ。」

おばあ様はまだ何か言いたそうだ。

省略していなかったら、きっとこの後には「あなたが連れてきたのですから。」という言葉が続くのだろう。

「えっと…はい、います。アルには水と風の精霊さんが、アンヌには花と光の精霊さんがそれぞれ数人ずつ一緒にいて守ってくれています。」

私の発言に、フレッドもローランおじ様もうんうんと頷く。

「なんですの?リラだけでなくってフレッドにも見えていましたの?」

アンヌが驚く。

「ごめんね。伝えるべきか迷ったんだけど、少し様子を見てからにしようと思っていたの。」

「正直あなた達が精霊の加護を受けるのは想定外でした。ですが受けたのは事実ですから、精霊学を学び、習得出来るかは適性次第ですが、精霊術やそれに伴う薬学も今後カリキュラムに取り込む予定です。」

そういって、おばあ様は帳面(ノート)と例のインクを取り出して配る。

「精霊と言われるものにはは大きく分けて2種類います。

1つ目は、長い年月を経て、古くなった物や長く生きた植物や動物に宿ったものです。

2つ目は、水、火、風、大地、光、闇などを操る実体を持たない小さな魂です。精霊術に関わる精霊もこちらです。精霊学では、主に2つ目について学びます。」

おばあ様が黒板に精霊の種類を書き、説明を始めた。


「まずは、水の精霊です。水の精霊、氷の精霊、雨の精霊、雪の精霊などと4つに分けられることもありますが、もともとは同じ水の精霊が変化したものです。気候や、その精霊の意思で水の精霊が氷を操ると氷の精霊と呼ばれます。精霊の姿、光り方や色が少し違うので違うものとして認識されてしまう様ですね。

水の精霊の中でも、特に高位の精霊が稀に肉体を得て転生するとウンディーネになるという説もあります。証明されていませんので仮説の段階ですけれどね。

それから火の精霊です。火の精霊はその名の通り火を操ります。

火の精霊の中でも特に高位の精霊が稀に肉体を持って転生したものがサラマンダーだと言われています。こちらも仮説ですけれどね。

それから風を操る風の精霊。

大地の精霊は、3種類います。

まず、地の精霊。主に土や岩なんかを操ります。鉱脈などを知っています。

それと森の精霊。森の植物を操ったり、森に住む動物との意思疎通が出来、その力を借りることも有る様ですね。

そして花の精霊。この精霊は主植物が花を咲かせたり、実を結ぶのをお手伝いしている精霊です。この精霊がいないと花が咲かないわけではありませんが、いるところの方がより美しい花になります。

3種を合わせて大地の精霊と呼んでいます。

この水・日・風・大地、4系統の精霊を四精霊と言います。

この四精霊が一般的な精霊術で力を借りる精霊ですね。

その他特殊なものとして、聖なる光を操る光の精霊、闇と不安を操る闇の精霊、それから時空を操る空の精霊、人と人の縁を結ぶ結の精霊がいます。

これらの特殊な精霊については後々教えますから、まずは四精霊について学びましょうね。」






「ねぇ、リラとフレッドはいつから精霊が見えるの?」

昼食をとりながら、アンヌに質問される。

昼食は時々、マナーの授業を兼ねて正餐のスタイルで出されたが、殆どが軽食だった。

今日も軽食で、アフタヌーンティに近いスタイルのものだった。

「私はいつからかなんて覚えていないわ。当たり前にそばにいてくれたもの。」

「僕は、見えるようになってもうすぐ3年。リラのおかげで見えるようになったんだ。」

アンヌはふーん、といった感じで聞いている。

「2人とも精霊術は使えるのかい?」

今度はアルに聞かれる。

「まぁ、一応は使えるのかな?僕よりもリラの方がずっと上手だけどね。」

フレッドが答える。

「もしかして、いつものアレも精霊術なの?」

アンヌが言っているのは回復魔法のことかしら?

「いつものって、回復魔法のこと?1度だけ、力を借りたこともあるけれど、普段のは違うわ。」

アンヌはびっくりしてる。

「もしかしてだけど、リラって精霊術と魔術両方使えたりするわけ?」

「うん、あんまり上手じゃないけど一応。魔術はフレッドの方がずっとずっと上手よ?」

アンヌとアルは更に驚いたようだった。

「じゃあ、フレッドもリラも精霊魔術師ってこと??」

アルは信じられないと言った顔だ。

「でも、よく考えたらリラはフローレンス様の孫だし、フレッドはヴィクトリーヌ様の孫よ?別に不思議じゃないわよね…。」

アンヌは自分に言い聞かせるようだった。


「なんでそんなに驚いてるの?別に珍しいことじゃないんでしょう?皆普通にどちらかは使えてたし、両方使える人も結構いたけどなぁ…。」

「やっぱりリラってものすごい世間知らずだったのね…。」

「いや、普通は両方使えないから。どちらか使えるだけで貴重だし、両方使えるなんて王宮に仕えてる魔術師とか精霊術師でも1割もいないんじゃないか?いったいどういう環境ならそうなるんだい?」

アンヌもアルも驚くを通り越して呆れた…と言っていた。

「最近、魔術も精霊術も外で使わないように、使えることはむやみに言わないようにしつこく母に言われているのってやっぱり関係あるのか?」

フレッド、そんな事言われていたんだ…。

「そりゃそうだろう。子どもが両方使えるなんて妬まれるだろうし、良く思わない奴も多いだろうな。悪い奴に利用されたり、最悪誘拐とか拉致されるとかじゃないか?」

アル、ものすごく怖いこと言っているけれど本当かしら?

「今までどんなふうに育ったのよ?」

「ここにお勉強に来る前は、毎日緑の森のお城に行ってたわ。」

「確かに出入り出来る人考えたら使えるのが当たり前だな…。エルフは基本精霊術使えるらしいし。」

「とんだ温室育ちじゃない!?」

アンヌもアルも、笑っているが目が笑っていない。

「リラ、君もそういうの使えることは言わない方がいいと思うよ。ここで使うのも、僕ら以外の人がいるときは控えるべきだよ。

君の育った環境は普通じゃないんだ。君の能力を知って君のこと悪く利用する人も出てくるだろうし、君自身が危険な目に遭うことになるしね。なんて、僕もアンヌも人のこと言えた立場じゃないけれど…。」

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