【フレデリックの回想~その1~】
箸休め的なものを…と思ったのですが、長くなってしまいました。
僕はフレデリック・カミーユ・ガルニエ。
ガルニエ伯爵家の四男だ。
僕には3人の兄がいるが、僕とは母親が違う。
僕の母は王国所属の魔術師で、今は国立学校で教師をしている。
因みに母方の祖母は精霊魔術師で、今も王宮に仕えている。
魔術師の血を引く僕だが、6歳の時までは自分が使えるなんて全く思っていなかった。
父も兄達も使えなかったので、使えないことに対して特に何も思わなかったし、魔法に対してそんなに興味も無かったんだ。
リラに出会う前までは。
2年前の新緑の季節だった。
僕は、親友に会いに行くという母に連れられて馬車に揺られていた。
仕事を兼ねての旅で、道中立ち寄る所も沢山あったため、目的地に着くまで5日ほどかかったけれど、普段あまり一緒に居られない母の話は新鮮で、ちっとも退屈しなかった。
母の親友には、僕よりも1歳年下の女の子がいるそうで、その子に会うのがとても楽しみだった。
母の親友の娘、リラ・フローレンス・シャルロワは湖のほとりで遊んでいた。
背中の真ん中辺りまである髪はサラサラで美しく、父が特別な時に好んで飲む発泡性の葡萄酒を思わせるような、キラキラ輝く美しい髪色だった。
透き通るような白い肌、ふんわり柔らかそうなピンクの頬と唇、すうっと通った鼻筋、そして宝石を思わせるような深いグリーンの瞳は吸い込まれてしまいそうで、それらが絶妙なバランスで配置された彼女はとても美しく、天使とか妖精とかお姫様なんて言葉がピッタリな女の子のだった。
彼女はコーラルピンクのワンピースを着ていて、花の冠をかぶっていて、それらがとてもよく似合っていた。
本当に花の妖精のお姫様ではないかと密かに思ったほどだ。
そんなことを考えていたら、急な風にあおられて、彼女が手に持っていた白いつばの広い帽子が飛ばされた。
なぜか勝手に体が動いて、帽子を追いかけ手を伸ばすと、帽子はまるで僕の手に吸い寄せられるようだった。
そうやってつかんだ帽子をリラに渡す。
彼女は目をかがやかせて僕を見ていた。
お互い自己紹介したところで、ニコッと笑ってくれた彼女はあまりに可愛らしくて、僕は直視できず、握手するときなんて心臓が飛び出しそうだった。
「フレデリックも精霊さんたちと仲良しなのね。」
僕のまわりをじっと見ていた彼女がそう言った時、本当に驚いた。
時々、母や祖母に僕は精霊に守られていると言われるのだが、全く見えないし、何も感じないのでそう言われても実感がなく信じられなかった。
彼女には精霊が見えるのだろうか?
「フレッドもきっとすぐに見えるようになるって!」
彼女は精霊が見え、話も出来るらしく、僕にも見えるようになると教えてくれた。
精霊の話で打ち解けたせいか、リラの顔をちゃんと見られるようになった。
やっぱり、リラの何気ないしぐさや言葉でドキドキすることはその後も多々あったけれど…。
翌日から、エルフの郷である緑の森に連れて行ってもらった。
緑の森は、王国の管理する立ち入り禁止の森だったし、エルフの郷はエルフしか入れないというのが一般常識だった。
なのに、リラは毎日通ってるって言っていたし、僕が入れるとか意味が分からなかった。
大人たちは難しい話をしていたので、僕はリラに連れられて、お城の庭のようなところを探検した。
たくさん遊んで、のどが渇いた時、リラが精霊にお願いして分けてもらった水は特別美味しいと言うので、彼女の真似をしたら、今までに飲んだことないくらいまろやかで甘さを感じる美味しい水だった。
リラは本当に不思議な子だ。
数日一緒に過ごして、更にそう思った。
しかも眩しいくらいキラキラ輝いている。
「あのね、そのキラキラ、精霊さんなの!!」
そうリラに言われ、リラから精霊の見方のコツを教わって試していたら、急に世界が変わる。
なんて世界は美しいんだろう!
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
思わず叫んでしまった。
あまりに嬉しくて、初めは手をつないで飛び跳ねて喜んでいたんだけど、ふと気付くとリラが僕に抱きついていた。
もうドキドキを通り越して心臓がバクバクで顔が熱くてたまらなかった。
それ以来、僕にも当たり前のように精霊が見えるようになった。
まだ話は出来ないけれど、精霊はジェスチャーでいろんなことを僕に教えてくれた。
精霊に連れられて、いつも遊んでいたお城のようなところから出て、森にベリーを摘みに出掛けた。
ある時、僕とリラが摘んで帰った大粒の淡い光を放つベリーを見て大人たちがものすごく驚いた。
そのベリーはとても貴重なものだったからだ。
リンガルベリーというそれは、食べると知らない言語でも意味が分かり、なぜか喋ることまで出来る魔法みたいなベリーだった。
試しに1粒食べさせてもらうと、リラのお父さんらしき人(なぜかリラはおじ様って呼んでるけど)の話すエルフ語も食べた直後から聞き取れたし、時々リラが歌っている良くわからない歌もエルフ語だということが分かった。
エルフ語まで話せるなんてすごすぎる。
僕も話せるようになりたい、と思った。
それからたくさん摘んだリンガルベリーをシロップにするのを手伝った。
水の無いところで、いきなり洗えとか、訳の分からないこと言われたけれど、言われた通りやってみると手から水が溢れて樽を満たし、僕らはベリーを洗うことが出来た。
これってもしかして…。
やっぱり魔法だった!
自分が使えるなんて思っていなかった魔法が、しかも一般的な魔法だけではなく精霊魔法まで使えるなんて!
精霊魔法の方は、ほとんどリラに手伝ってもらったんだけど、発動は自分ですることが出来たというだけでも嬉しかった。
もっと勉強したい、もっといろいろできるようになりたい、今までやりたいこともほとんどなくて、将来の夢とかなかった僕にとっては、大げさかもしれないけれど魔法がかけられて人生が変わったと思わずにはいられない、本当に衝撃的な出来事だった。
その数日後、僕はリラと別れ王都へ帰った。
今まで通りの何の変哲もない、つまらない日々がまた始まるのか…と思っていた。
以前はつまらない毎日だなんて思ったことはなかったけれど、リラと過ごした半月が本当に充実した日々で、それと比べたらため息が出るようだった。
しかし、僕のそんな予想はいい意味で覆された。
「リラぁ!!久しぶり!!」
リラの家を発ってから1週間後、リラの祖母のフローレンス様に連れられてリラに会いに行ったら、リラはハトが豆鉄砲くらったような顔をしていた。
ちなみに、フローレンス様と僕の祖母は古くからの親しい友人だそうだ。
母の務める学校の近くに、大きなお屋敷があり、母が出勤するときにそこに連れて行ってもらう。
そのお屋敷は、リラの祖父母の家で、そこにはリラの家に繋がる魔法の扉があった。
その扉を使い僕は週に2~3回、リラのところへ行けることになった。
緑の森に行った日は、魔法や精霊魔法の練習はもちろんしたし、時々リラの伯父のローラン様や大伯父のアルフレッド様に新しい魔法や精霊魔法を教えてもらったり、薬草や薬の調合についても知識と技術の両方を教えてもらった。
ローラン様はリラとよく似ているので、僕はてっきり彼がリラの父で、アルフレッド様がローラン様の兄だと思っていたので、事実を聞いたときは信じられなかった。
どう見ても2人の年齢差は2〜3歳にしか見えないのだ。
そういえばここはエルフの郷だったし、そこに住むアルフレッド様がエルフなのは冷静に考えたら当たり前のことなんだけど、僕はそんなことすっかり忘れていたので、思い出してやっと腑に落ちた。
リラの家に行かない日は、読み書きの勉強をしたり、兄に剣術を教えてもらったり、母や祖母がいるときは簡単な魔法の練習をした。
そんな充実した日々はあっという間に過ぎ、僕が初めて魔法を使ったあの日から2年が過ぎた。
珍しく母も一緒だったその日、リラがとある本を読んでいた。
それは以前、僕も3番目の兄に勧められて読んだ事のある冒険もので、悪魔に捕らえられた妖精の姫を救うため、王子が魔法と剣でモンスターや悪魔に立ち向かう話だ。
読めば読むほど、物語に引き込まれ、まるで自分が主人公になったようなそんな気分になる本だった。
僕は王子ではないけれど、魔法も剣術も修行中だし、妖精の姫って、もうどう考えたってリラのことじゃないか。
本当に恥ずかしい話だけど、読んでいる間、僕が主人公、リラが悪魔に捕らえられた妖精の姫役で脳内再生されていた。
リラの脳内ではどのように再生されているのだろうか?
母に物語のような魔法を練習したいと言ったらものすごく怒られた話をリラにしたら、リラにも母と同じく反対されてしまった。
でもその理由が僕ならそんな魔法が使えると思ってくれているからみたいで、嬉しくて思わず興奮してしまった。。
でも当分は今まで通りの魔法の練習と剣術の練習を頑張ることにしよう。
それから、リラは不思議な話をしてくれた。
数日前、『悪魔が森にいる。気をつけろ。』そう忠告されたそうだ。
それなら、僕がお姫様を守らなくちゃいけないじゃないか。
感情が高ぶって、リラの手を握ってしまった。
なんだかリラのまわりがほんのり虹色に輝いている事に気付いた。
「彼女ガソンナニ大事ナラ、僕等ガフタリヲ守ッテアゲルヨ…」
頭の中に直接語りかけられるような感覚がした。
「キミタチノコト、イツモ見テテ気ニイッタンダ・・・僕等ガフタリヲ守ッテアゲル」
今度ははっきり聞こえた。
聞こえた、と言っても耳からじゃない。
「ずっとそばにいて幸せにするから!僕はリラが大好きだから、すごく大切な人だから、大人になったら僕とけっこんしてください!!」
もう前半は何を言っていたかわからない。
ただ、リラに僕の気持ちを伝えたくて、必死だった。
心臓の音がリラに聞こえるんじゃないかってくらい大きくて、顔も体も熱くてたまらない。
頬を赤く染めたリラは、じっと僕を見つめている。
可愛い、可愛すぎる、今まで見た中でも1番可愛い顔だ。
暫く黙っていた彼女がはっきりと頷いた。
すると、僕は後ろから何かの力で押された。
「キスシチャイナヨ!!」
気付くと僕はリラにキスしていた。
挨拶代りのキスはこの世界ではよくすることだけれど、せいぜい頬とか手だし、唇にするなんてやっぱり特別だ。
母親意外ではもちろん初めてだ。
そしたら急に目の前がキラキラ輝きだした。
さっきまでほんのり虹色に輝いていた光が、一気に濃く、強いものになり、僕らを包み込んだ。
ふわりと花の香りを感じると、リラの頭にはとても繊細で美しい花の冠が乗せられており、握った掌には2つの大きさの違う虹色に光る宝石のような石があった。
「ちょっと!フレデリック!あなたリラに何したの!?」
母にキスしたところを見られてしまった…みたいだ…。
あれ?それどころか、なんかものすごく周りにたくさん大人がいるんですけど・・・ここってそんなに人がいたんですね、というくらいの人に僕らは見られていた。
彼らに生温かい視線を向けられものすごく居心地が悪かった。
それに気づいたのか、アルフレッド様が僕らを誰もいない彼の部屋に連れて行ってくれた。
そこで、僕らが結の精霊という人と人とを結ぶ、本当に特別な精霊に祝福されたこと、そして加護を受けたことを教えてくれた。
そして、掌にあった宝石はお守りなので、肌身離さず身に着けるよう、装飾品に加工して渡してくれて、僕がリラに、リラが僕にお守りをつけた。
『我、アルフレッド・エムロードゥ・ヴェールは、フレデリック・カミーユ・ガルニエと、リラ・フローレンス・シャルロワが結の精霊に祝福され、加護を受けたことを見届け証人となる。』
そうエルフの言葉でアルフレッド様が宣言すると、再び僕らが虹色の光に包まれた。
「おめでとう。君たちは祝福されたのだよ。」
僕とリラは、結の精霊の祝福を受け、それを見届けたアルフレッド様が証人となりこれからも僕らを見守る、と言う内容の契約を精霊と交わす、そんな儀式だったらしい。
部屋を出ると皆に「おめでとう」と言われた。
母に見つかると、案の定いろいろ言われたが思っていたほどは怒られなかった。
「もう、リラにキスするとか…なんてことしてくれるのよ。マルグリットはなぜか喜んでくれたからよかったけれど、もう変なことしないでちょうだい?それと、精霊と契約した以上、精霊と約束したことは必ず守ること。守らなかったら本当に取り返しのつかないことになるんだからね。全くもう、先が思いやられるわ…。」
そんな内容がループして、やっと解放されてリラのところに戻ると、何も聞かずにいてくれた。
そういうところも大好きだ。
それから僕等はお昼を食べて、散歩することにした。
森の悪魔の話なんてこのときはすっかり忘れていた。




