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フレデリックとの出会い

眩しい。

もう起きる時間?

そう思った瞬間、優しい声がした。

大好きなお母様の声。

「リラ、そろそろ起きなさい。」

目を開ける。

今日もいいお天気だ。

ふわっといい香りが鼻をくすぐる。

甘くて、香ばしくて、なんだか嬉しくなる香り。

朝ご飯はきっとパンケーキだ。

お母様は私を見て笑っている。

あれ?いつもよりも体調がいいのかな?お母様何かいいことあったのかしら?なんて思っていると、クスクス笑われた。

「今日は私のお友達が遊びに来るのよ。フレデリックも一緒にね。きっとリラのお友達になってくれるわ。さぁ、朝ご飯を食べましょう。支度なさいな。」

そう言うと、部屋を出て行った。


私は着替えながら考えた。

フレデリックってだれだろう?

おともだち…私にはお友達いるのかな?

お友達という存在は知っている。

絵本とか、大人たちのお話聞いてるとよく出てくるもの。

お友達って、一緒に遊んだり、困ったときは助けてくれたり助けたり、お手紙のやり取りしたりする人だよね?

そういう人、いないわけじゃないけど、いるかと聞かれると困るなぁ。

いつも一緒に遊んでる人…私一人で遊んでる?ううん、私を守ってくれてる精霊さんたちと遊んでるし、お花の精霊とか、森の精霊とか、風の精霊とかと遊んでるよ、一人じゃないよ、ときどき大人も遊んでくれるし。

…でも、精霊って人じゃないよね?大人たちは遊んでるっていうより、お世話されてる感じだし、お友達って呼べるのかな?


そんなことを考えていたら、ワクワクしてきた。

初めてのお友達…どんな子だろう?仲良くなれるかな?


ダイニングへ行くと、テーブルには朝食が用意されていた。

「リラ、おはよう。」

「ローランおじ様、おはようございます。」

「今日ジュリエッタが息子を連れて遊びに来るんだって?仲良くなれるといいね。」

私はにこっと笑って頷き、席についた。

朝ご飯はやっぱりパンケーキだった。






ここはエムロードゥ王国の北部にある緑の丘(コリンヌ・ヴェール)

緑の森(フォレ・ヴェール) ―エルフの王国であり、現在は建前上は王国の一部で保護地区となっているが、今でもエルフの王が治めている森林地帯― に隣接した丘陵地帯である。

現在のエムロードゥ王国において、人間とエルフとの関係は非常に友好的なものであり、人間・エルフ・そしてハーフエルフを含め種族間の差別というものはない。

かつての王族 ―現在は王位継承権を放棄し公爵を名乗っている重臣― もエルフと結婚し、二人の子供を設けていることも大きいだろう。

しかしながら、いくら友好的な関係であるといっても、人間の欲のせいで幾度となく侵略や略奪を受けているため、(一部の人間を除いては)緑の森(フォレ・ベール)に人間が立ち入ることは出来なくなっている。

リラの家は、緑の丘(コリンヌ・ヴェール)でも特に緑の森(フォレ・ヴェール)に近い場所に建っており、リラは緑の森(フォレ・ヴェール)に入ることのできる数少ない人間なのである。






私はお母様とローランおじ様と執事のシャルル、メイドのアンとクレールで暮らしている。

シャルルとアン、クレールはエルフだ。

お母様とローランおじ様は双子でハーフエルフ。

ローランおじ様の方がエルフにより近いって言われている。

私のお父様は人間で、普段は王都のおうちで暮らしていて、お休みの日にはここに遊びに来てくれる。

お仕事が忙しいし、普段は他の家族と過ごすんだって。

私にはお兄様が2人と妹 ―といっても同じ年なんだけど― がいるらしい。

いるらしい、というのもおかしな話だけど、一緒に暮らしてないのはもちろんだし、ほとんど会ったことがないから実感がないのも仕方ないと思う。

お母様とちがう方が産んでるらしいし。

一応、私のお母様が『せいさい』らしいんだけど、体が弱くて『きぞく』としてのお付き合いをこなすのが大変なんだって。

だから、ここー緑の丘(コリンヌ・ヴェール)で私たちは暮らしている。

空気がきれいだし、お母様の治療ができる人たちが近くに住んでるし、お母様が子どものころすんでたおうちだし、困ったときに私でもおばあ様を呼びに行けるから勝手がいいんだって。

私がお母様の治療できるようになったらお父様の暮らしてるおうちで暮らせるのかな?

そしたらお兄様と妹とも仲良くなれるんじゃないかな?と思う。


朝食を終えていつものように出かける用意をしていると、お母様とシャルルがやってきた。

普段はかぶらない帽子を渡されたのでかぶった。

「そろそろ出かけるわよ。」

そう言うと、いつも出かけるときに使うドアではなく、エントランスへ向かう。

「今日は緑の森(フォレ・ヴェール)へは行かないの?」

緑の森に行くにはエントランスのドアからじゃ行けない。

精霊の魔法のかかった虹色に光るドアから出かけなくちゃなの。

「今日は森へは行かないわ。お友達が来ると言ったでしょう?湖の近くでピクニックしましょう。」

「はい!」

「じゃあ馬車に乗ってでかけましょう。」

緑の森も好きだけど、湖の近くも好きだ。

緑の丘は名前の通り緑の丘陵地帯で、丘を下ったところに小さいけれど水のきれいな湖がある。

湖の近くには野原があって、お花がたくさん咲いている。

きっとそこでピクニックするのだろう。

私の大好きな場所。

緑の森ではないのに、そこには精霊たちがたくさんいる。

みんな私と遊んでくれるし、景色もお花もきれいだし、風だって気持ちいい。

今はまだ5月だから、きっと他の人に邪魔されることもないはず。

私のおうちの辺りは、お屋敷がたくさん建っている。

でも、普段は人気がないところが多いし、今もそうだ。

みんな夏になるとやってきてとても賑やかだ。

王都は暑いから『ひしょ』しに来るんだって。

そんな時期になると湖のほとりの野原には人が増えるし、お馬も増える。

特にあまり上手にお馬に乗れない人に邪魔されちゃうのよね。


そんなことを考えていたら馬車が止まった。

もう着いたみたいだ。

馬車から降りると、シャルルがピクニックの準備を始めていた。

私はお母様の手を引いて歩く。

お母様と久しぶりにお散歩する。

5月の日差しはまだそんなに強くないが、ぽかぽか暖かい。

そこに気持ちの良い風が吹いている。

お花―小さな野の花がたくさん咲いている。

湖も、風も、お花もキラキラ輝いている。

よく見ると、キラキラ輝いているのは精霊たち。

今日もみんな元気でご機嫌だ。

いつもわたしのそばにいて守ってくれてる子たちも、そんな仲間を見て嬉しそうな顔をして一緒に遊びはじめた。

私はお母様とお花の冠を作ることにした。

出来上がった冠を2人でかぶり、またお散歩していると馬車の音がした。

近くまで来ると止まり、中からきれいな女の人と私より少しだけ背の高い男の子が降りてきた。


「マルグリット!ひさしぶり。体調はどう?顔色はよさそうね。」

「ジュリエッタ、ようこそ。ここまでいらっしゃるのは大変だったでしょう?わざわざありがとう。」

「リラ、大きくなったわね。以前に増してマルグリットに似てきたわね!久しぶり!といっても、この前会ったのがまだ1歳になる前だったから覚えてるわけないわよね。初めまして。のほうがしっくりくるかしら?」

うふふ、と笑いながら手をさし出してきたジュリエッタ ―このとってもきれいな人― がお母様のお友達らしい。

私も手をさし出して挨拶をすると、彼女は思い出したように男の子のことを紹介してくれた。

「フレデリック、こっちへいらっしゃい。」

「あら、フレデリックも大きくなったわね。お久しぶりね、といっても覚えてないわよね。私はマルグリット、あなたのお母様のお友達よ。そして、この子がリラ。あなたよりひとつ年下かしら?仲良くしてね。」

お母様に促されて、私は目の前の男の子―フレデリックと握手をした。

フレデリックの手は私よりも少し大きかった。

その時、急に強い風が吹いて、私は手に持っていた帽子を飛ばされてしまった。

次の瞬間、さっと軽やかにフレデリックは走り出し、帽子を取って渡してくれた。

「ありがとう、私はリラ。よろしくね。」

「僕はフレデリック。フレッドでいいよ。」

嬉しくてにこっと笑って、フレデリックを見たら目をそらされた。

あれ…ちょっとショック。

でも、手をさし出したら握手してくれたから嫌われているわけじゃないと…思う、たぶん。


ふと顔を上げると、フレデリックのまわりがなんだかキラキラしている気がした。

よく見ると、精霊だった。

私を守ってくれてる子たちと、お互いの様子をみていたけれど、すぐに打ち解けたのか遊び始めた。

ここに住んでる子たちも加わって、とても楽しそう。

私がにこにこ笑っていたらフレデリックが不思議そうな顔をしたので、精霊のこと聞いてみた。

「フレデリックも精霊さんたちと仲良しなのね。」

「フレッドでいいってば。君は精霊が見えるの?母上もそういうんだけど、僕にはわからないんだよね。」

「じゃあ私のことも君じゃなくてリラって呼んでよ。フレッドは見えないの?こんなにたくさんの子たちが守ってくれてるのに?私を守ってくれてる子たちと、ここに住んでる子たちととっても楽しそうに遊んでるのよ?」

フレッドは目を丸くして、私の顔を見つめた。

フレッドの瞳は青みがかったグレーでとってもきれいだった。

アッシュブロンドの髪によく似合っている。

「リラには見えるんだね。それにリラも精霊の加護を受けているの?」

「精霊の加護?私は精霊さんたちといつも一緒遊んでもらってるの。お母様は遊んでくれてるだけじゃなくて守ってくれてるのよって言うのだけど。」

「そういうのをいうんじゃないかな?でも僕は遊んだこともないし、見えたこともないし、よくわからないんだ。」

フレッドは残念そうに言った。

フレッドの精霊さんたちはとっても元気だし、私の精霊さんたちととっても仲良くなったみたい。

きっとすぐ見えるようになるよ―そう聞こえた気がした。

耳からじゃない。

草が揺れるサワサワという音しか聞こえないもの。

精霊さんが教えてくれた気がする、いいえ、きっと精霊さんが教えてくれたんだ。

「フレッドもきっとすぐ見えるようになるって!」

「リラはお話しもできるの?」

「えーっとね、今が初めてなんだけど、頭の中で声がしたの。」

「そうなんだ…僕もそうなりたいな。」

「うん、きっとなれるよ!」

フレッドと私はすっかり仲良くなった。

それから2人でかけっこしたり、お花を摘んだりたくさん遊んだ。


のどが渇いたねと話していたらお母様たちに呼ばれたので行ってみると、さっきまで何もなかったところに食事の用意が整っていた。

「お昼にしましょう。」

簡易のテーブルにはクロスがかけられて、美味しそうなランチが並んでいた。

シャルルが用意してくれたのだろう。

いろんな種類のサンドイッチや、たくさんのフルーツ、クッキー、それからジュースにお茶。

「お口に合うといいんだけど…それにちょっと男の子には物足りないメニューかもしれないけれど、たくさん食べてね。」

お母様は心配していたみたいだけど、フレッドはランチが気に入ったみたいで美味しそうに食べていた。

お友達と食べる初めての食事はとってもおいしかった。

こんなに楽しい食事は初めてだ。

いつも食べているサンドイッチなのに、まるで違う食べ物を食べているようだったし、フルーツはいつもよりずっと甘かった。

ジュリエッタさんはお母様の親友で、子どもの頃から一緒に『しゅぎょう』していたそうで、私のおばあ様とフレッドのおばあ様が二人の先生だったのよ、と教えてくれた。

はじめ、私が『ジュリエッタ様』って呼んだら『ジュリエッタでいいから』って言われたんだけど、なんだか落ち着かないから『ジュリエッタさん』って呼ぶことになった。

フレッドはしばらく私のおうちに泊まるらしい。

もちろんジュリエッタさんも一緒に。

嬉しい、すごく嬉しい!


お昼をいただいた後は少しお昼寝をした。

目が覚めたらもうおうちについていた。

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