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無能探偵と死者の館  作者: こよる
生きる者であるために
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第六章―04

 古橋さんが真犯人だった……?

 その事実は僕の頭を強烈にぶん殴ると同時に、無数の疑問をも提起してきた。

 古橋さんが霧山朽葉の首を斬り落とした理由は?

 古橋さんが御代川さんを毒殺した方法は?

 古橋さん=海に落ちた=泳げない=死亡という図式をどう崩すのか?

 古橋さんは一体どうやって、そして何のために僕たちの部屋に侵入したんだ?

「まぁ順番に考えていこうよ、ゆぅくん。

 まず、古橋さんの行動の裏には、すべて自分以外の誰かを犯人に仕立て上げようという意図があった。これを前提として考えていくんだよ。

 最初の謎は、第一の事件で霧山朽葉の首が斬られていた理由。一週間前ぼくは、これは御代川さんが蛇のような紐を握れなかったため、霧山朽葉を絞殺できず、殺害方法から自分が犯人だとばれるのを防ぐために、首を斬ったって説明したよね。でも実は、これは逆だったんだよ」

「逆だった……?」

「そう。古橋さんは間違って、霧山朽葉を『死者の館』の見立て通りに絞殺しちゃったんだよ。これはまずかった。何故なら、もし後で御代川さんを犯人に仕立てることになった場合、霧山朽葉が絞殺されていたら、御代川さんは絞殺できないという事実と食い違いが出てしまうから。だから古橋さんは、霧山朽葉は絞殺されたという事実を隠すために、霧山朽葉の首を斬り、頭部を隠したんだよ」

「そんな、騙し絵みたいな……」

 御代川さんが犯人だと仮定すれば、彼女は霧山朽葉を撲殺したという事実を隠すために首を斬ったという結論になる。

 古橋さんが犯人だと仮定すれば、彼女は霧山朽葉を絞殺したという事実を隠すために首を斬ったという結論になる。

 人間の心理とは、かくも不思議なるものか。  

「続いて、第二の事件。この事件で、古橋さんは誰を犯人役に仕立てるかを選別したんだよ。すなわち、当たりの食器を引いてしまった人が犯人役だってね」

「当たりの食器……。やっぱり、夕食時の食器には毒が塗られていたってことか?」

 でも、それではおかしい。

 あの時、僕たちは区別がつかない食器をランダムに交換したんだ。

 それだったら、犯人でさえも自分が毒を飲んでしまう可能性を回避できないじゃないか。

「ううん」

 霧乃は僕の考えを否定し、

「古橋さんには、自分で毒を飲む可能性なんてなかったんだよ。それでも彼女は、御代川さんを殺害することに成功した」

「そんな馬鹿な。だったら、あの人は一体どんな方法で……」

「毒、じゃなかったんだよ」

 霧乃の答えは簡潔明瞭だった。

「夕食の食器には確かに異物が塗られていた。でも、それは実は毒じゃなくて、ただの睡眠薬だったんだよ」

 睡眠薬……。

「古橋さんは確かに、自分で仕掛けた罠に自分で填ってしまう可能性を排除できなかった。区別できない食器が、しかもランダムに交換されたんだから。もしかすると、自分の使った食器こそが、自分が罠を仕掛けた食器なのかも知れなかった。

 でも、それが致命的な問題となるのは、仕掛けた罠が毒物だったらの話だよ。仕掛けたのが毒物じゃなくて睡眠薬だったら、もし自分が飲んでしまっても、ただ眠るだけで済む。だから古橋さんは、小さいリスクでこの計画を実行できたんだよ。もし自分が睡眠薬で眠ってしまった場合は、また何か別の方法を考えていたんだろうね。実際は、運悪く御代川さんが睡眠薬の食器を使ってしまったみたいだけど」

 僕はあの時の御代川さんの様子を思い出した。

 夕食の後、まだ午後七時だったにもかかわらず、休むと言って部屋に戻った御代川さん……。

 知らないうちに睡眠薬を飲まされていたんだとしたら、その行動にも説明はつく。

「でも、だったら、第二の事件が発覚して僕たちが御代川さんの部屋に入ったとき、彼女はやっぱり生きていたのか? ただ、眠っていただけで」

「そうだよ」

 霧乃はこくんと頷いた。

「もっとも、御代川さんは睡眠薬の作用で意識を失っていたけどね。睡眠薬ってのは色々種類があって、強力なものだと、ただ呼び掛けられたくらいじゃ起きなくなるんだ。まして、普段睡眠薬を使っていないような人が、いきなりそんなものを飲まされれば、睡眠どころか昏睡状態に陥る危険性だってある。御代川さんがぼくたちの呼びかけに答えなかったのは、そういう理由だよ。

 で、あのとき、眠っていた御代川さんに近づいたのが古橋さんだけだった、ってのは一週間前に説明した通りだよね。古橋さんは眠っているだけの御代川さんを検診して、死んでいるってぼくたちに告げ、早くこの部屋を出るように促した。結局、ぼくたちは御代川さんが実際に生きているかどうか確認しないまま、古橋さんの発言を信用してしまった。まぁ、部屋の中に『第二の犠牲者』っていう紙があったし、状況が状況だけに仕方ないけどね」

「うん? そういえば、その紙はどうなんだよ。あれも結局、古橋さんが用意したものだったんだろ?」

 でも、それじゃおかしい。

 『第二の犠牲者』の紙は、御代川さんの部屋の室内にあった。しかし、あの部屋には鍵が掛かっていて、御代川さん以外は中に入れなかったはずだ。古橋さんは一体どうやって、あの紙を室内に入れたのか。

 しかも、霧乃の説明によると、古橋さんは誰が睡眠薬入りの食器を使い、誰が眠るのかを断定できなかったはずじゃないか。それなのに、どうしてあの部屋には既に『第二の犠牲者』の紙が落ちていたのか。言い換えるなら、古橋さんはどうして二番目の犠牲者が誰なのかを予測できたのか。

「んーとね、そこらへんを説明しようとするとややこしくなるんだけど……」

 霧乃は少しだけ口ごもり、

「古橋さんはね、実はマスターキーを持っていたんだよ。あの屋敷の全部の部屋の扉を開けることが出来る、マスターキーを」

「そんな……」

 馬鹿な、と僕は続けた。

 マスターキーは、確かに大広間にあった。斧でも割れない超頑丈なボックスの中に、確かにあったんだ。ボックスは透明で中が見えていたし、マスターキーがそのボックスの中にあったのは間違いない。マスターキーが二つあったとでも言うのか。

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