第六章―01
第六章 生きる者であるために
犯人である御代川姫子が死亡したため、天上島の三日目、四日目は何事もなく過ぎていった。心穏やかとは間違っても言えないが、これ以上は何も起こらないという確信が、僕たちの間に静かな安心感を与えてくれているようだった。
四日目の昼、予定通りにやって来た帰りの船に乗り、僕たち四人は無事本土へと戻った。そして、それと同時に、天上島での惨劇が世に知られることとなったのだ。
いや、世に知られるという言い方には語弊がある。
実際のところ、天上島での惨劇は、その異常に高い猟奇性のあまり報道規制が敷かれ、広く一般に公開されることはなかったのだ。ただの噂として、霧のようにインターネット世界に拡散するのが限界だった。故に、僕たちのプロフィールが世に出回ることもなく、妙な噂が立つこともなかった。
本土に戻ってからは連日、取り調べとカウンセリングの嵐だった。
事件の詳細を飽きるほどに語らされ、かと思ったらよく分からない心理療法(その実態は何だか洗脳じみていた)を受けさせられる、そんな毎日。僕と霧乃と守屋さんは比較的心理的ダメージが小さいということだったが、伊勢崎さんはPTSDがどうのということで、しばらく入院することになったらしい。かくいう僕も、家のような閉じ篭められた空間に一人でいると、胃の底がざわめいて気持ち悪くなるという後遺症に悩まされる羽目になったのだけれど。
また、これは取り調べの最中に聞いた話だが、僕たちが本土に戻った後、天上島の屋敷は大規模な火災に見舞われたらしい。御代川さんの放った火がどこかで燻っていて、再び燃え出したのだろうということだった。
結局、屋敷は全焼。
焼け跡からは、二人分の女性の遺体が見付かった。そのうち一つは、地下室にあったため燃えずに済んだ、御代川姫子の死体。そしてもう一つの死体は、完全に焼けて骨だけになってしまったため本人確認が困難だったが、僕たちの証言や、その死体に首から上がないことなどから、霧山朽葉の死体であると断定された。海に突き落とされて溺死したとみられる古橋さんの死体は、いまだ捜索中だが、見付かる可能性は低いとのことだった。
二人の死者と一人の行方不明者を出した天上島の事件は、火災による屋敷の焼失をもって幕を閉じた――。
それはひょっとすると、それはこの事件の終わり方として最も相応しかったのかも知れない。御代川姫子の遺書にあった通り、この事件は屋敷の焼失とともに闇に葬り去られ、しかし同時に僕たちの心に深く刻み込まれたのだから。
僕は不思議と、御代川姫子に対して怒りのような感情を抱くことはなかった。
僕の心に残ったのは、御代川姫子という人間の存在であり、その生に対する哀しみだった。
とにかく、これで事件は終わったのだ。
本土に戻ってから一週間後、ようやく拘束を解かれた僕は、同じマンションに住む東大寺霧乃の部屋を訪れていた。