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無能探偵と死者の館  作者: こよる
第五章 嘘に包まれた真実
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第五章―03

 御代川姫子――。

 まさか、彼女が?

「迂闊だったよね。守屋さんがせっかく、ヒントになるようなことを言ってくれたのに。『犯人が自分は死んだと見せかけて姿を隠し、影で犯行を重ねていた、なんて話は腐るほどある』って。古橋さんに目が向くあまり、ぼくたちはもう一つの可能性に気付けなかったんだよ」

「御代川さんは――御代川姫子は、実は生きていた?」

「そうだよ。思い出してみて、第二の事件があったときのことを。状況が状況だけに、ぼくたちはつい騙されてしまったんだけど、あの時、ぼくたちは実際に御代川さんが死んでいることを確かめていないんだよ」

 思い出す。

 第二の事件の現場。御代川姫子の部屋。

 僕と守屋さんで体当たりして鍵の掛かった扉を開け、倒れ込み、手元に『第二の犠牲者』という紙が落ちていることに気付いた。

 あの時、真っ先に倒れていた御代川さんに駆け寄ったのは――古橋さんだ。

 古橋さんは御代川さんの身体にあちこち触れ、僕たちに「死亡している。処置なしだ……」と告げた。そしてその後、この部屋には御代川さんを毒殺した仕掛けがあるかも知れないと言って、「とにかく、この部屋は危険だ。すぐに出た方がいい」と僕たちを部屋から出るように促した……。

 考えてみれば、僕たちは御代川さんが死んでいることを、実際に確かめてはいないのだ。

 でも、だったら古橋さんはどうして――。

「多分、御代川さんは古橋さんを抱き込んだか何かしたんじゃないかな。『この中に犯人がいるに決まっているんだ。犯人を見抜くために、ここは一つ芝居を打とう』とでも言ってね。古橋さんは医学者でもあったし、リーダーシップを取ってもいたから、その役には打ってつけだったんだよ。結局、古橋さんはその話に乗せられ、結果としてぼくたちに嘘をつく形になったんだ。 あらかじめ打ち合わせしていた通り、御代川さんは夕食後に自分の部屋に戻った。その後、古橋さんはぼくたちを連れて彼女の部屋に向かい、御代川さんは死んでいると嘘をついた。御代川さんが自分の部屋に戻らないといけなかった理由は、言うまでもなく、大広間で倒れたら演技だと気付かれちゃうからだよ。

 第三の事件で、休憩時間のときに古橋さんが二階に行ったのも、それが理由。なかなか降りてこない御代川さんが、もしかしたら本当の犯人に襲われたんじゃないかと心配になったんだろうね。実は生きていた御代川さんは、逆に古橋さんを襲って気絶させ、中央バルコニーから突き落としたんだ。そして彼女は、古橋さんの悲鳴を聞いたぼくたちが、四人で中央バルコニーに駆けつけた隙を狙って、階段を降り、一階のどこかに身を潜めた。ぼくたちがその後で二階を捜索したとき、御代川さんの死体がなくなったと思ったのは、そういうわけ。

 あと、これは余談だけど、ぼくがこの着想を得たきっかけは、実は第三の事件じゃなくて第二の事件だったんだよ。ゆぅくんと守屋さんは覚えてるでしょ? 鍵の掛かった扉を体当たりで破って、室内に倒れ込んだ――。その時、自分たちの手元に『第二の犠牲者』という紙が落ちていたことを。でも、よく考えたらそれは変なんだよ。あの部屋の鍵は御代川さんしか持っていないし、マスターキーはこの大広間のボックスの中にあって誰も手出しできない――。それなのに何故、『第二の犠牲者』の紙は、鍵の掛かった部屋の中にあったのか。となると、これはもう、御代川さんが自分でその紙を作って、自分で部屋の中に置いた以外に考えられないんだ。すなわち、少なくとも第二の事件は、御代川さんの自作自演によるもの――。だから、もしかして御代川さんは死んだふりをしているだけで、実は生きているんじゃないかって思ったんだよ。多分、あれを部屋の中に置いちゃったのは御代川さんのミスだろうね」

 そういえば、確かに……。

 そもそも、部屋の中に『第二の犠牲者』の紙がある時点でおかしいのだ。客室には鍵が掛かっていて、その部屋の使用者以外は、誰も中に入ることが出来なかった。それはもちろんのこととして、たとえ犯人が中に入れたとしても、犯人はそんな紙を置くことが出来たはずがないのだ。

 何故なら、夕食の食器類はランダムに交換されたのだから。

 たとえ夕食に毒を盛ったとしても、犯人はあらかじめ誰が死ぬのかを予測することなんて出来なかった。それなのに、何故か御代川さんの部屋には『第二の犠牲者』という紙があった――。

 その時点で、僕たちは気付くべきだったのだ。

 これは、おかしいと。

「しかし、じゃあ結局、昨日の夕食には毒なんて入ってなかったってことか……」

 守屋さんが脱力したように呟く。霧乃は頷いてみせた。

「そういうことになるね。すべては御代川さんの自作自演だったんだから。そもそも、普通に考えれば不可能なんだよ。区別が付かない毒入りの食器をランダムに交換して、それでも自分は安全圏にいるなんて。不可能なら、問題設定の方が間違ってる。そう考えるべきなんだよ」

 ね、ゆぅくん? そう言って霧乃は僕に横目を流し、かすかに微笑んだ。

 ――図式が崩せないなら、問題設定を崩せばいいんだ!

 それは僕が昨夜、火事に見舞われた部屋で叫んだ言葉だった。

 この事件もそうだ。与えられた問題設定を崩さなければ、絶対に解けない。

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