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無能探偵と死者の館  作者: こよる
第四章 『死者』たちの夜
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第四章―01

 第四章 『死者』たちの夜

 

 *


 この館に集った人間は、誰も彼も死者ばかりだった。

 およそ他者と接触することのない、社会に忘れ去られた異端児たち。たとえ死んだところで、世界に爪の先ほどの影響すら与えない無価値の人間。

 この世に残すものが何もない連中にとって、生きていることと死んでいることは同義だ。その意味で、この館に集った死者たちは皆、一切の価値を持たない。

 すなわち、殺したところで何も変わらない。

 彼は故に、無価値の者を殺していく。そして、その殺戮の末に、唯一無二の価値を見出すことを望む。

 無価値の者を殺して、有価値を得る。

 無から、有を創り出す。

 殺人に正当性を認めてくれと頼む気はないが、それが彼なりの殺人の論理だった。

 三人目の犠牲者となる彼女は今、彼の足下に倒れていた。

 背後から近づいて、鈍器で一撃。鈍い音とともに、彼女は床に倒れ伏した。人間の気を失わせるというのは、案外容易いものだ。

 彼は自分の血が冷えていくのを感じながら、彼女を抱き起こした。両腕を彼女の腹に回して、後ろ歩きに気を失った彼女を運ぶ。

 二階の廊下から、館のバルコニーに出る。

 外は雨だった。鉛色の雲が、陰鬱に島全体を覆っている。雨に打たれた海には、ぼんやりと靄が掛かっていた。海原は黒々と粘りけを含み、動脈のように波打っている。

 彼は彼女の身体を担ぎ上げると、バルコニーの柵に歩み寄った。

 眼下で波立つ、海。飛沫を上げて、獲物が罠に掛かるのを待ちかまえているかのようだ。すべての状況が彼を祝福しているように感じられて、思わず片頬で笑む。

 後悔はなかった。

 無価値の殺戮の果てに、価値あるものを見出せるのなら、と。

 彼は彼女の身体を、眼下の海に投げ落とした。

 重力に引き摺り込まれる物体。海面の割れる音。黒々とした水飛沫。

 やがて波が収まり、海面に揺れる彼女の身体が明らかになる。

 沖へ、沖へと引き摺られていく。

 彼はその様子に目を細め、きびすを返して館内に戻った。

 バルコニーに通じる扉には、『第三の犠牲者』の紙が貼り付けられていた。

 

(霧山朽葉『死者の館(上)』より抜粋)

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