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無能探偵と死者の館  作者: こよる
第三章 晩餐に眠る
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第三章―01

 第三章 晩餐に眠る 

 

 * 

 

 一般的に言って、無から有を創り出すのは困難であり、有から無を創り出すのは容易である。それ故に、無から有を創り出すことは善とされがちだし、逆に有から無を創り出すことは悪とされがちだ。殺人などは後者の典型的な例だろう。

 だがしかし、とここで彼は考える。

 殺人が悪である根拠は、「殺人=有から無を創り出す行為」という前提条件に立っているからだ。ならば、その前提条件が狂っていたらどうだろう。

 たとえば、殺される人間がおよそ無価値な存在であるとしたら。そして、殺人者が行為の果てに唯一無二の価値を見出すことが出来るのだとしたら。果たして、それでも殺人は悪であると言えるのか。

 ふん、と彼は鼻を鳴らした。

 くだらない考えだ。殺人者の見出す価値など、価値と認められないのが世の常である。たとえそれが、本人にとって唯一無二の絶対的価値であったとしても。

 だから、言い訳など要らない。する気もない。彼は彼のために、信じた道を進んで行くまでだ。

 先程の晩餐では、一人が毒を飲んで死んだ。

 顔を引きつらせ、その場で嘔吐し、喉を掻きむしって。吐瀉物の中に倒れ込み、白目を剥いたまま戻らない死体の様子は、まさに醜悪としか言いようがなかった。広間には今も、胃酸の饐えたような臭いが充満している。 

 自分が自分のために失わせたものを前にして、しかし決意は揺るがない。

 この暗がりの道の果てに、確かに価値あるものを見据えていられるのなら。

 彼は、『第二の犠牲者』と書かれた紙を持って、彼女の部屋に向かった。


(霧山朽葉『死者の館(上)』より抜粋)

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