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無能探偵と死者の館  作者: こよる
第二章 悪意の集う夜明け
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第二章―03

 書斎の状況は、まさに凄惨の一言に尽きた。

 入り口からちらっと中を覗くと、部屋の中央に大きな血溜まりが出来ているのが分かる。そして、血の海の中には、とある物体が横たわっており……。

 死体というものを初めて目にする僕は、その時点で吐き気を催してしまった。実際、「ゆぅくん、しっかりして」と霧乃が手を握ってくれなかったら、僕はその場で戻していただろう。霧乃だって死体を見るのなんか初めてのはずだが、それにしてはやけに落ち着いている気がした。

「中に入ろう」

 古橋さんも冷静だった。彼女は扉を押し開けると、一人で書斎の中へ入っていった。さすが自称「人間を解体した」医学者だけのことはある。守屋さんと霧乃、僕もそれぞれ目配せして、書斎の中へ足を踏み入れた。

「これは……」

 死体を間近で見て、守屋さんが唸った。野生生活には慣れているはずの彼までもが、表情を歪ませている。

 床に出来た大きな血溜まりのせいだけではない。

 隣にいた霧乃が、小さな声で「顔のない死体……」と呟くのが聞こえた。


 そう――霧山朽葉の死体は、首が斬られて、頭部が欠損していたのだ。


「ひどいもんだな……」

 守屋さんが呟きを零した。彼の視線は死体から、死体の脇に投げ捨てられている鉄斧へと転じられる。この斧には僕も見覚えがあった。この屋敷の玄関ホールで、回廊へと続く観音扉を守るように鎮座していた、石像の騎士が持っていたものだ。恐らく、これで死体から首を斬り取ったのだろう。

 首のない死体には、恐怖よりも異常さが際立っていた。

 あるべきものが欠損した人体。それは何だか滑稽な光景で、ともすれば一種の芸術作品のようにも見えてしまう。じっと見つめていると、僕という存在がその死体に吸い込まれてしまいそうな、そんな奇妙な感覚を覚えた。

「何でったって、首が斬り取られてるんだ……」

 僕の呟きに、霧乃が「それは、犯人に聞いてみないと」と声を潜める。

 犯人――。

 そう、これは殺人なのだ。そして、殺人には必ず犯人がいる。そんな当たり前のことに、今さらのように気付いた。

「変わっているのは、首が斬り取られていることだけじゃないみたいだよ」

 古橋さんの声に、はっとして顔を上げる。これ、と言って、彼女は床に落ちている何かを指差していた。

 彼女の手元を覗き込む。


 「第一の犠牲者」


 A4サイズのコピー用紙に、赤文字でそう書かれていた。恐らく定規を使って書かれたのだろう、ひどく角張った特徴的な文字だ。

 第一の犠牲者。

 それが一体、何を意味するのか……。背筋を通り抜けた悪寒に、僕は身を震わせた。

「悪趣味だな……」

 僕は呟いた。隣の霧乃がそれに応じるように、こくりと頷く。

「でも、それだけじゃないよ。単に悪趣味ってだけじゃない」

「うん、どういうこと?」

「ゆぅくんは分からないだろうけど、一緒なんだよ。孤島の洋館、書斎で見付かった小説家の死体、そして『第一の犠牲者』っていう紙まで、全部」

 まさか、と霧乃の顔を見やる。

 彼女は真剣な眼差しを死体に向けながら、その続きを口にした。

「霧山朽葉の『死者の館』上巻と、そっくり」

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