第一章―01
第一章 くるいびとの館
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殺人を計画することは、小説を書くことに似ている。
殺人も小説も、自分にとっては生産的な活動だが、他者からするとおよそ非生産的な活動だ。たとえそれが自分の心血を注ぎ込んだ傑作だろうと、他者から価値を認められることは稀である。そういう意味では、小説も死体も大差ない。違いがあるとしたら、せいぜい腐るか否かだろう。
彼(無論、彼女でも構わないが、ここでは便宜的に彼としよう)は、人の殺し方ばかり考えるのに疲れ果て、椅子に座ったまま背伸びした。部屋の窓から射し込む太陽光はぎらぎらと激しく、本格的な夏の到来を報せている。彼は凶悪に輝く太陽に目を細め、遮光カーテンを引いた。
光を遮断すると、部屋はたちまち夜のような暗闇に沈む。
彼は目を閉ざし、意識を集中させた。
海に浮かぶ孤島と、島の高台にそびえ立つ洋館。
今からおよそ二週間の、計画実行の日。
この手で作り出すことになるだろう、無数の死体。
殺人のことを思うと、神経は鎮まり、全身が氷のように冷えていく。およそ冷静沈着に殺人を遂行できそうな予感に、全身を震わせる。
他者の価値を失わせていく殺人という行為に、果たして新たな価値は作り出せるのか。
殺人者は、死体を作り出していくその過程で、一体何を得るというのか。
暗がりの道の向こうに、彼は確かに存在している目的を見据える。
息を吐き、意識を奮わせ、そして目を開く。
暗闇の中に、後ろ向きの決意だけが残った。
(霧山朽葉『死者の館(上)』より抜粋)
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