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天の月  作者: 有終文
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月に2~3回の頻度で更新頑張っていこうと思います。お願いします。

榊美緒さかき みおは、カルテから書き写した患者の経過を淡々とに研究ノートに記載し、必要であれば論文を開いていた。

腰ほどまである緩やかなウェーブを描いた黒髪を一つにくくり、黒縁のメガネをかけて、カットソーの上からのKCを着て、更に防寒対策で白衣を羽織っている姿は医療従事者のようだが、彼女はこの付属病院の医療従事者ではない。

彼女は、その隣にある大学の薬学部の臨床研究の部屋で研究に勤しむ博士課程後期を学ぶ学生だった。

しかし、その姿は学生にも見ることは難しい。中学生が、理科の研究のために白衣を着ているようだった。今年で24歳になった成人女性だというのに。



美緒は、今日の結果は、以前の報告と比べてどうだったのか、また試験からの離脱が必要なのか、を検討し、データの漏れがないか、臨床研究を行うドクターと打ち合わせをする下準備をしていた。

今のところ、大きく研究を外れる被験者はいない。離脱条件に該当する者がおらず、また仮説から大きなハズレを示すような、大きな「個人差」という名の外れ値を引くこともなかったので安心している。

このまま順調に行けば、論文の草案は半年後に、また学会の発表はその直後に、順調に行えそうだった。

あとは、もうひとつ、並行で進めている、臨床試験のデータをまとめようと思って、もう一つの研究ノートを開こうとして、彼女は自分の失態に気づいた。

そのノートを大学のラボに置いてきてしまっていた。

昨日、研究室で行われたゼミでの中間報告を行った時に使い、そのままラボの机の上においたままだった。

面倒だな、と正直に思う。

病院内にある薬剤部内の自分の研究スペースは、病院の6階の多目的研究スペース。

しかも、今は4時だ。今の時間は、夕方からの患者の外来が激しい時間のため、エレベータは使えない。

面倒でもなんでも、ノートがないと研究にならないので、階段での移動しかないかと肩を落とす。

資料の本をまとめてトートバッグに入れて持つとそれだけでも重くてうんざりした。基礎疾患についてももっとスクリーニングしたいからと、病態の本を家から持ってきたのが裏目に出たのだろう。

階段を降りていると、見知った顔とすれ違う。


結樹ゆうき

「あ、美緒。ちょーどよかった、メール入れたんだけど気づいてなかっただろ?」


美緒は頷く。さっきまで、お手伝いと名ばかりの薬剤部での調剤業務という無償奉仕をしていたから、携帯電話の電源は落としていたことに気づく。

そもそも、携帯に連絡を入れるのは結樹か、担当教員の准教授か、面談前の教授くらいだから、朝に一度確認したら放置することが多い。

結樹はそれも知ってるので格段怒りはしない。

結樹は赤いUSBを美緒に渡す。


「化学療法のインターバルを患者病態にあわせて表にするソフトと、試験のインターバルを表にできるエクセルのプログラム作ったから」

「助かる」

「お前なぁ、もうちょっとはプログラムわかるようになれよなぁ。そうすれば、結果まとめるのも少しは楽になるだろ」

「だって、結樹に頼めばいいんだもの。そう思うとあんまり覚える気がしなくて」

「まあ、いいや。そこは。お前、今からどこ行くの?」

「大学のラボ。ノート忘れちゃって。そのあとはいくつか論文、流し読みしてから帰る予定」

「なら、俺も大学行くから、俺の用事にも付き合え。カルテのやつの使い勝手、試してみてくれ」

「分かった」


結樹はくるりと踵を返す。

二人が同時に、階段を下りようとしたとき、すごい揺れを感じた。

一歩を振り出したときだったので、二人とも体勢を崩し、階段から転がったはずだった。


けれど、美緒は何一つ、体に衝撃を受けることはなかった。

そのかわり、目を開けたときに目に入った光景は信じられないものだった。


大学の中に作られた環境整備の一環の森林公園だったらいいかと、どれだけ思ったか。

青々とした緑を通過した光が連日徹夜している目には痛く感じた。

自分が降り立った場所は、木々が生い茂り、向こうには山脈が連ねているのが見える。

アルプスの中に迷い込んでしまったかのような、ありえない、というよりも、美緒にとっては信じたくない光景。


「……ここ、どこよ」


呟いても何も変わらない。のどかな鳥の囀りに飲み込まれていくだけだった。

一時間ほどぼおっとしていた。何もかもわからなくて、身動きが取れなくなっていた美緒は、人を見つけた。

性格には遠目に二頭の馬が見え、西洋風の二人が乗馬しており、こちらに近づいていた。

一人は栗色に少しくせっ毛の髪をしていて、うぐいす色の洋服に白色のズボンを履いている。

もう一人は、さらさらな金色の髪に、青色の洋服。ふたりとも遠くから見ても上等そうな服を身に着けている。

まるで、というよりも、大迫力の画面で見るようなファンタジー映画のようだった。

けれど、見ているだけでは終わらなかった…二人が、美緒の存在に気づき、近づいてきたからだ。


『……っ…、……!』

『…?』


二人が言っている言語が全くわからない美緒は、眉をひそめた。

美緒は恐る恐る自分の格好を見る。

KCに白衣を羽織ったメガネの女。……怪しまれているのではないか。いや、十分怪しい。ここが自分の常識から離れている世界なら尚更!

どうしよう、と困った顔を見せると、栗色の髪の青年が美緒の方に手を伸ばした。

乗れ、ということのようだ。

でも、美緒は乗り方がわからないので困惑していると、金色の青年が馬から飛び乗り、美緒を抱きかかえる。


「き、ぃ、ぁ…」


喉の奥からとっさの悲鳴が飛び出た美緒は、金色の青年に担がれたまま、馬に乗る。

美緒の持っていたトートバッグは落としてしまったが、栗色の髪の青年が何かを言いながら馬から降りて拾ってくれた。

そうして、美緒は訳もわからないうちに、言葉も通じない、しかも近くで見るとかなりの美青年二人とともにどこかに出発したのだった。





お久しぶりです。そうでない方は、はじめまして。

紙一重の点数で国家試験合格し、新米薬剤師になることができました。おかげで月の王国の改訂版の「天のそらのつき」を連載開始できるようになりました。設定変わってますがご愛嬌でおねがいします。


この作品では、かぜや糖尿病など一般的な疾患に加え、がんやうつ、SCなどのデリケートな疾患とかも扱っていこうと考えています。多くの研究者が尽力している領域でもあり、また多くの学説が定まっていない領域でもあります。多くの学説をしらべてから取り扱う予定ですが、私の医療感にしたがってかこうと思ってます。偏りすぎていて医学から外れているようでしたら指摘お願いします。


ファンタジーの舞台で必死に戦う美緒たちを見守って下さい。

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