堕落した英雄
この物語は私が以前投稿した短編小説(といっても構想中の長編小説の一部分切り取った物なのですが……)の『レラシムの再誕』、『イシュールの変貌』、『灰色の世界の中で』の続きにあたる話です。上記の3つの物語をご覧になりたい方は、お手数ですが、私のマイページからよろしくお願いします。
『私は幾多の戦いで勝利してきた。それは、これからも変わらない。
変わったのは、私が仕える主、それだけだ。――堕落した英雄、オーランド』
―堕落した英雄―
灰色の濃霧に覆われ、一時は静寂に包まれていたイシュールだったが、しだいに、さざめき立ってきた。
濃霧に侵され、一時は意識を失っていた者、濃霧によって、死から蘇った者、彼らは再び動き始めた。狂気の心を持つ者として……。
彼もまたその中の一人である。かつて、幾多の戦いを勝利に導いてきた、ノーザレアの英雄、オーランド=ヴォルト。いま、彼は二つの心の間で揺れていた……。
彼が再び目覚めた時、薄暗い濃霧の中は彼にとって心地の良い空間となっていた。しかし、彼は自分が誰であったか忘却していた。
「ここはどこだ……?私はだれだ……?」
彼の声が虚空に響く。
すると、もう半分の心が彼に囁いた。
(英雄、オーランドだった男さ。そして、これからもな。)
「そうだった……な」
もう一つの心が思い出させてくれた。
「私はオーランド=ヴォルト……ここはどこだ……?」
再び、彼の声が虚空に響いた。
(お前がさっきまで戦っていたイシュールだった場所さ)
「イシュールだった……?」
(そう、イシュールだったよ、さっきまではな……。だが、今は我々の神である、レラシム様の聖域となった)
「レラ……シム……?」
レラシムとは一体誰なのか、オーランドの心に疑問が浮かんだが、すぐに解決した。彼は思い出したのだ、彼が濃霧によって倒れる直前の光景を。
彼女は彼の目の前に立っていた。彼女は漆黒の翼、額に六芒星の紋様がある、とても美しい顔立ちをした天使だった。
そして、彼女はその美しい顔で彼に微笑みかけた。その時、オーランドはレラシムに底知れぬ恐ろしさを感じていたが、今となってはその恐怖という感覚すら無くなっていた。
「あの方がレラシム……」
(そうさ、あの方が我々の神、レラシム様だ)
その時、オーランドはレラシムに無性に会いたくなった。彼女に会えば、自分が何をすべきか分かるような気がした。
「彼女はどこにいる……?」
(くっくっく、レラシム様に会いたくなったか……、さすがは英雄、オーランドだ。)
「彼女はどこだ?答えろ!」
彼の吠えるような声があたりに響いた。
(まあ、そう焦るな。お前は感じないか?レラシム様の心を)
「心……」
彼は確かに何かを感じていた。今の彼とって、とても大きく、心落ち着く存在。
「これが彼女の心……」
(そうだ。レラシム様の心を感じる方に赴けばいいんだ)
彼は歩きだした。そして、彼の望む先には、濃霧の中にイシュール王城の巨大な影が浮かびあがっていた。
彼が王城に着く間、彼は何人もの人々を見た。皆、灰色の目をして、何かを求めるようにさまよい歩いていた。
「やつらはなんだ……?」
オーランドはもう一人の自分に問う。
(お前の仲間さ……)
「仲間……だと……?」
(そうさ、お前も灰色の目をして、何かを求めてさまよっているんだ。彼らと違うのは、お前が今はレラシム様を求めているってことだけだ)
「ならば、やつらは何を求めている?」
(くっくっく、お前の心の中にもあるだろう?満たされぬものが……)
「満たされぬもの……」
彼にとってこの灰色の濃霧の中は居心地が良かった。しかし、それと同時になにか渇きのようなものを感じていた。
「確かに私はなにかに飢えている……これはいったい……」
(じきに分かるさ……ほら、見えてきたぜ、イシュール王城の門が)
オーランドの目前には巨大な門が立ちはだかっていた。そして、屈強な衛兵が二人。
「城の中に入れてほしい」
オーランドは衛兵に問う。
「なんだ貴様は……今、レラシム様は客人と話されている。誰も門を通すなとのご命令だ。貴様のような輩をこの城に入れることはできん」
衛兵はそう言って、オーランドを睨みつけた。
(くっくっく、門番に話しても無駄なようだぜ……どうする?)
「ならば、力ずくで通るほかあるまいな」
そう言い放つと、オーランドは剣を抜き、二人の衛兵に剣を振るった。二人の衛兵も即座に反応して剣を振るったが、一閃の煌めきのあと、二人は倒れた。二人の衛兵の頑強な鎧は砕かれ、腹部に傷が深く刻まれた。
(さすがは英雄、オーランドだ。だが、これで門は開かなくなったな)
しかし、次の瞬間、轟音を立てながら巨大な門は開いていった。そして、開いた門の先には漆黒の美しい天使の姿があった。
「レラ……シム……?」
オーランドは思わず声を発した……。
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