第八話 足掻くセドック迫るワイルドボア
深い森の中、早朝の霧が木々の間を漂う中、三人の男達は肩を並べ、静かに息を潜めていた。
魔法使いであるグロアはまたしても完璧に木の影に同化していた。
目の前には再び獲物として現れるワイルドボアの影があった。
「おい、ボアの野郎が現れた! 慎重に行くぞ!!」
セドックは皆に声をかける。
しかし前回の成功が彼らを高揚させ、慎重さは影を潜めていた。
「大した事ありませんぜ、カシラ!! 前回だって楽勝だったんですぜ!」
バルサムが笑い声を抑えながら囁く。
「新入り、いなくても全く問題ないでゲス!」
サミーもうなずき武器を構えた。
しかし、獲物は彼らの思惑を嘲笑うかのように動き回った。
「おい、コイツこんなに足速かったか?」
「ヤケに素早いぞ! 気をつけろ!!」
「う、うわあぁァァッ!」
「サミーが吹き飛ばされた!」
「だ、大丈夫か!」
彼らの計算の甘さは次第に明らかになった。
「ヤツの後ろに回り込め!!」
「無、無理でゲス! 回り込めないでゲス!」
「クソッ! 一体どうなっていやがんだ!」
「ぐあぁぁっ!!」
「どうした! バルサム!」
「何でもありやせん! ちょいとボアに身体を持ってかれそうになっただけでさぁ!!」
「ヤツはこんなに強かったか?」
セドックは首をひねった。
そしてボアの鋭い目と力強い体は次第に三人を圧倒していった。
「おい! どこにいるんだ、新入り!! 強化魔法だ!! はやく俺達に、強化魔法をかけろ!!」
セドックはそこにいるはずのない男の名を叫んだ。
「た、助けてくれ! 頼む!! 強化魔法を掛けてくれ!」
気が動転したバルサムも無意識に助けを口にした。
前回の狩りでアシストしてくれていたあの男の役割の重要さを、痛感する瞬間が何度も訪れた。
だがその度に、彼らはどうにか自力で解決しようと無駄に時間を費やしていった。
突如、ボアが勢いよく突進してきた。
「うわあぁぁっ! に、逃げろおぉぉっ!!」
三人は慌てて逃げるが、連携が取れず、次第に焦りと混乱が広がった。
「ハァハァッ! もう動けねぇ!!」
バルサムはボアに牙でつらぬかれ、倒れ込んだ。
「ここまででゲス……」
ボアによって深手を負ったサミーの武器を落とす音が森に響いた。
「お、おい、皆んな大丈夫か!!」
必死に呼びかけるセドックに返事は返って来なかった。
「どうしちまったんだ、皆んな」
不安になったセドックのもとへワイルドボアが再び姿を現した。
「クッ! あのヤロウ!!」
そう呟くセドックもボアとの戦闘で体力がほとんど残っていなかった。
「クソッ! 何でこんな回復魔法が必要な時に、あの新入りの野郎は居ないんだ!」
そんな捨て台詞を吐いてるうちに、ボアはセドックに向かわず、木の影に同化していたグロアに狙いを定め突進した。
「いやあぁァァッ!!」
グロアは叫んだ。
「グロアあぁぁぁっ!!」
最後の気力を振り絞りグロアを助けるために、ボアに立ち向かった。
「グアァァッ!!」
グロアを庇って咄嗟に出した右手の人差し指と薬指が、ボアの突進によって持って行かれた。
「グロアああぁぁっ!!」
それでもボアの勢いは止まらず、牙がグロアの身体をつらぬいた。
木の幹に寄りかかるような姿勢で倒れ込んだグロアは口から血を吐きだすとピクリとも動かなくなった。
「お、おい!! グロア、しっかりしろ!! 頼むから目を覚ましてくれ!!」
セドックは取り乱した。
「おい! 新入り! 回復魔法をはやく掛けろ!!」
しかし、レックスはここにはいない。
「頼む!! 頼むからお願いだ。!! グロアを助けてやってくれ!!」
すがる思いで叫び続けるが、無駄な足掻きであった。
最終的に、ボアは悠々と森の奥深くへと姿を消した。
ボアの影が完全に消えた後、セドックは疲れ果てた息を吐きながら、その場に座り込んだ。
「どこで間違えたんだ……」
セドックはそう口にするも明確な答えを出せなかった。
霧が少しずつ晴れ、朝日が森を照らし始める中、自らの驕りと失敗の記憶が深く刻まれていった。
読者の方々、駄文で申しわけありません。 第一章終わりです。




