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第四十五話 魔族の音楽


 フェンリルのレリーフがある扉を開けると一層目のボス部屋同等の配置に見えた。しかしその中は温かみに欠け何か禍々しい雰囲気に見えた。


 ステージには見慣れない黒い箱が積み重ねられていて中央には俺がエルフの里で貰った魔導楽器が占めていた。観客席にはスケルトンやグール、ヴァンパイアと思しき観客たちがひしめいていた。


「何何スか? あの楽器」


「一応あれと同等のモノを所有しているんだがな」


「いいじゃないスか! 師匠。俺達も使いましょうよ」


「それがな、使い方もわからない所に経験値がたまらないと使い物にならないんだ」


「そうなんスか」


 そう言ってションボリするバズに声をかける。


「今出来る事を全てぶつけてやれる事をやるんだ! 次の事は、その後考えればいい」


「そうっスね師匠!」


 そんな中、ダークフェンリルに馬乗りになった男が現れた。


「し、師匠、あ、あれ!」


「あ、ああ」


 ダークフェンリルを見つめていると馬乗りになっていた男が飛び降りてステージ上に着地した。 


 他のメンバーを含め、その青白い男が現れると観客達の熱気は最高潮に達した。


「キャークラウス!」


「本物だ」


「クラウス最高だぜ!」


 そしてクラウスコールが起きた。クラウスという男を含めステージ上に立つ複数の男達の服装は統一感があるものの奇妙な衣装を(まと)っていた。


「師匠、あの黒革に(びょう)がたくさんついた上着、何かカッコいいスね」


「そうだな、男心をくすぐるというか、美学があるな」


「そうですか? 趣味が悪いですわ」


 ティナの一言に会話も途切れ、立ち尽くしていると演奏が始まった。ステージは暗闇に包まれたが、それと同時に天井からものすごい数の光が降り注いだ。


「なんだ! このけたたましい音は?」


 見慣れない黒い大きな箱から信じられないほどの音量が吐き出され、俺は思わず耳を(ふさ)いだが、何処(どこ)か心を(つか)むような音が響き渡った。


「師匠すごいっスね!」


 ステージを見ると光沢のある板状の魔導楽器を抱えた男達に目を奪われた。


「あの楽器、丸い穴もないのにどうやって音を出してるんスかねぇ?」


「今のところ、よくわからんが音はギターに似ているな」


 特に一番前に立つクラウスという男の演奏は衝撃的だった。


「あのギターなんともいえない表現力っスね!」


「俺も初めて聞く音だ」


 楽器を身体の一部のように操り、時に叙情(じょじょう)的に雷鳴のような音を響かせたと思えば、次の瞬間には心に深く染み入るようなメロディを奏でた。 


「うおおおぉ~!」


「クラウス〜ッ!」

 

 そしてその音に合わせて会場が熱狂的な渦に巻き込まれていった。


 俺はその光景から目を離せなかった。 


「これが音楽の新しい形なんスか?」


「そうみたいだな」


 俺の音楽観が根底から(くつがえ)された。


「一体、何が奴らを惹きつけるんだ」


 やがて俺の困惑は純粋な好奇心へと姿を変えた。


 奇抜な衣装を纏ったメンバーがギターと一体化して、指板を縦横無尽に駆け巡る指の動きは俺の知る技巧とは微妙に異なっていた。


「何だ、あの箱のようなものは」


「それにしてもすごい数だな」


 ギターの演奏者の足元には数え切れないほどの小さな金属製の箱が並べられていた。


「足元のランプ点滅しなかったか?」


「ピカッと光ったッス」


 演奏者がその突起を足で踏みつけるたびに小さなランプが点滅しその瞬間にギターの音が劇的に変化した。


「音が変わったっス!」


「あの箱か? あれで音色を変えているのか」


 俺は演奏を眺めながら箱を注視した。


 さらに別な箱を踏むと音が奇妙な響きで何回も繰り返されたり音が伸び縮みするような効果が得られた。


「あれを使えば、演奏者が意図的に残響や音の広がりをコントロール出来るな」


 俺は深い感銘を受けた。


「そうっスね」


 バズは相づちを打った。




 俺が最も衝撃だったのは音と同期して 狂乱する光の乱舞 だ。


「 光が踊っているのか」


 その強烈な光の点滅は 聴衆の興奮を(あお)り、熱狂の(うず)へと誘い込んでいった。


 「これはもはや 単なる演奏じゃないな、 光と音が織りなす 芸術だ」


 俺は光の(たば)を見つめた。



 そして俺の視覚と聴覚を同時に支配したのは ステージに鎮座(ちんざ)する 異様な形状の打楽器の集合体 だ。


  俺の知る ティンパニー やバスドラムとは全く異なる いくつもの 円盤と太鼓が組み合わさったまるで 要塞のような構造物 だった


 「 一体あれはどうやって叩くのだ」


 俺はその楽器を操る男の動きを見つめた。 


 彼は両手で細い木の棒を巧みに操り 右足と左足も使っていくつものペダルを踏み込んでいた。


 細い棒が金属製の円盤を叩くと 雷鳴のようなシャーンという 轟音が響き渡る。


 そして大小様々な 太鼓が叩かれるたびに地面を震わせるような重低音や 軽快な音が 寸分たがわぬリズムで繰り出された


  その音は地響きのように 聴衆の体の奥底まで響き渡らせ、観客を 踊りへと誘った。


「この複雑な打楽器がこの音楽の 心臓部みたいだな」


「そう思うっス」


「 こいつは、まるで リズムの創造主だよ」


 俺の言う事をバズは黙って聞いていた。


 会場を見渡すと観客は音の波に乗って、頭を激しく振り 全身を揺らし 特定のフレーズで一斉に 雄たけびを上げていて、その場で共に音楽を作っているかのようだった。


  俺はその光景に驚きを隠せなかった。


「これが魔族の音楽か…… 気取ってなくて奥が深いな」


 俺はステージ上で演奏するクラウス達を目で追った。


 


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