バズ歌う
少しのインターバルがあってから俺達の演奏が始まった。それまで俺はバズと打ち合わせをしていた。
「俺達が奴等の音楽を知らなかった様に奴等も俺達人間の音楽を知らない」
「そうっスね、人間の底力を見せてやりましょう」
「そうだな、所でバズ、お前が作った曲で行くぞ!」
「えっ! いいんスか?」
「悪くない仕上がりだったからな」
「やってみたいっス」
「よし、ソイツをダウンストロークの高速テンポで演奏するんだ。とにかく間をふさげ! 歌詞はお前が即興で作って歌え」
「いいんスか、俺、奴等の音楽聞いているうちに奴等の魂の叫びみたいなあれをやってみたいと思ってたんス」
「とりあえずお前の魂の叫びを歌にしてぶつけてみろ! やれる事は全部やってやろうぜ、バズ!」
「はい」
俺が思うにバズはまだまだ初心者だ、こんなところで、ブッツケで歌わせるのも気が引けるが仕方ない。
技術で劣る俺達には、一方的にまくしたてるように怒涛の展開に持ち込んで、一気に決着をつけるしか、勝ち目はない。
俺達はステージの上に二人並んで立った。
演奏を始めると観客から猛烈なブーイングが浴びせられた。
バズの歌は、俺が聴く限りではどちらかと言えば、魂の叫びというよりかはメッセージ性の強い内容に聞こえた。
俺達は基本的にメジャーコード中心で演奏し手首を固定して弦をひっぱたくようなダウンストロークで一定のリズム をきざんでいく。
そして二本のギターの音が重なると逃れられないリズムのうねりを生み出した。
その朴訥としたシンクロが、ズレやタメを生み出し、生きる人間の生々しさを浮き彫りにさせた。
俺達は開放弦を多用し、ローコードを響かせていった。
低音域が重なり、地面から突き上げてくるような土着的な響きが、バズの歌の言葉に重みを与えた。
演奏が進んでしばらくすると観客達は聴いたこともない音楽にどう対処して良いのかわからず困惑しているようで会場はシーンとなった
それが幸いして観客達は人間の音楽を集中して聴いているようだった。
「ナンダ、コノ音楽ハナニカ、クセニナル」
「アイツミテミロヨ、歌ヲ歌ッテルゾ、ナニヲ言ッテルノカ理解デキナイガ、ナカナカ、ソソル歌声ダナ」
バズの演奏は俺がゴブリンの残したテキストを研究していた時に教えたのでなぜか変なクセがついていた。
そのせいで演奏自体に妙な違和感があってそれが曲のリズムと響きのアクセントとなりその醸し出す味は元々の曲を底上げしていた。
指先がフレットを擦るキュッというノイズさえも、物語の一部として聴き手の鼓膜に突き刺さっているようだった。
演奏を進めるうちに俺はバズに嫉妬していた。俺は子供の頃から学んで来た音楽の常識という呪縛に囚われていたがバズは違ったからだ。
バズは純粋に音楽を楽しんでいるかのように明るい笑顔でこっちに顔を向けた。
俺なんて型にハマった自分がイヤになって王都から離れたというのに。バズは自由だ。
偉そうにバズに音楽を語っていたが、俺は全然ダメだな。そんな事を考えながら演奏を進めた。
バズの感情をストレートに表現した歌に聞き覚えのない音楽、そこへゴブリンの音楽の理論を楽曲の中に組み込んでいった。
観客達は次第に引き込まれていき、その場の空気を一変させた。演奏が終わると辺りは静まり返ったが間があいて歓声が沸き起こった。
「スゲェジャナイカ人間! 最高ダヨ」
暫くして裁定が下された。
「勝者、人間!」
「ウオオオオォッ!!」
怒号とも称賛ともつかない歓声が響きわたった。
勝負は決したかのように思われたが、オークがコントラバスを抱えてステージに上がる。
「勝負はまだついちゃいねえ! まだまだこれからだ」
オークは図太く言った。
「いいだろう、勝負だ」
何か納得はいかないがそう答えた。
オークは何故かティナを睨みつけた。
「あの豚野郎、何様のつもり」
冷たい笑顔で呟いた後、笑顔で俺の方を見たが目が全く笑っていなかった。
「ティナも何か演奏したいのか?」
「はい」
そう言って笑うティナは心からの笑顔だった。俺は恐ろしくなった。




