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第四話 ありし日の想いをつないだギター

 俺は呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしたまま壊れたギターを見つめていた。夜になり辺りは闇につつまれた。


「こんな時間じゃ城門も閉まっているだろうな」


 俺は体力的にも精神的にも限界に達していたので、この場で野宿する事にした。


 辺りに散らばっていた枯れ木を集め火を起こし、ぼんやりと火を見つめていた。


「ごめん……。兄さん」



 ギターは、自分とありし日のレオーネ兄さんを、つなぐ架け橋のようなものだった。


「このギターと共にあることがレオーネ兄さんと共にある事だと考え、常に行動を共にして来た。俺の相棒として…… それなのに」


 思わず(つぶや)いた。



 たき火に照らされて壊れたギターを見ていると自然と涙が(あふ)れ出た。


 切れた弦が、俺と兄との、この世でのつながりを完全に断ち切ったかのように思えたからだ。


「このギターがなくなるとレオーネ兄さんのことを忘れてしまうのだろうか」


 そう考えると、兄を忘れてしまうことが、急に恐ろしくなり、絶望で胸が苦しくなった。


 そんなことを考えながら、たき火の()ぜる音や、揺れる炎を見ていると、昔の思い出がよみがえって来た。





 ギターの音があたたかく、そして懐かしく響く。それは、まだ戦争を知らなかった頃のレオーネ兄さんとの大切な思い出だ。


 子供だった頃の夏祭りの夜、兄は祖父から貰ったばかりのギターを得意げに弾いてくれた。


「どうだ、上手いだろう?」


 そう笑う兄の横顔が、今も焼き付いている。


 秋には、二人で近くの公園まで出かけた。落ち葉の絨毯の上で、兄はギターを奏でた。物悲しい音色が、夕焼け空に溶けていった。


「この曲は、悲しい時に弾くんだ」


 兄はそう言っていた。


 冬が来て雪が降ると、兄はギターを持って外に飛び出した。


 雪ダルマの試作中に、兄はギターを弾いた。白い息が音符と共に空に舞い上がった。


「寒いけどこの音を聞いていると、心が温まるんだ」


 兄はそう言って笑っていた。


 春が来て、菜の花が咲き乱れる頃、王国軍の近衛兵になった兄に召集令状が届いた。


「すぐ帰ってくるから」


 そう言って兄は笑顔で家を出た。しかし、二度と兄は帰ってこなかった。


 戦後、兄の戦死の知らせが届いた。

そして兄の遺品であるギターが、俺の手元に届けられた。


 兄が弾いてくれたギターの思い出が走馬灯のように蘇った。


 あれから何度もこのギターを弾いてみたが、あの頃の音色を奏でることは出来なかった。


 そして、兄との記憶を忘れないために、形見のギターを弾くことも、壊れて出来なくなってしまった。



 そんな事を考えていると夜明けになっていた。



「よし! 決めた!」



 俺は、色々考えた末に壊れたギター、いや違う! 兄の魂を、実家に持って帰ろうと決意した。



 その足で辺境伯領へ向かった。


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