第三十七話 絶望するレックス2
俺は適量を一気に飲み干した。それからしばらくの時が経過した。
「何だよ、全然効きやしねぇ」
何の反応も起きなかった。
「騙された」
俺は希望を失ってうなだれていた。
『レックス、どうした、冴えない顔をして』
リスに憑依しているあすかが念話で話し掛けて来た。
「別に、何でもないよ」
『気になるではないか、申してみよ、我が解決してやるぞ』
「本当か?」
俺はわずかな期待をあすかに抱いた。コイツは俺の母の病気を治した実績もある。相談してみるか。
「どうやら俺は、賢者になったみたいだ」
『賢者に?』
「ああ、ギラギラとした欲望が全くわかなくなったんだよ」
『何だ、そんな事か』
「そんな事」
『簡単な事じゃ、我に任せておけ』
俺は希望を抱いてあすかの方を見た。あすかは少女の姿になってそこに立っていた。
「どうじゃ、欲情して来たじゃろ」
素っ裸に近い姿に面積の狭い布を身に纏って、いろんなポーズで謎のアピールを俺にした。
失望した俺はあすかを見る目を逸らしてうつむいた。
「うわああぁぁぁん!」
得意気にアピールしていたあすかは俺の様子にショックを受けたのか、叫ぶとリスに憑依してその場から逃げ出した。そして俺は一人その場に取り残された。
「俺は一生このままなのか」
俺はボソッとつぶやいた。すると久しぶりに俺の中の理性が話し掛けて来た。
『そうじゃ、お主は一生こっち側じゃ! おめでとう合格じゃ! お主は欲に左右されず、全てを見通す理性を得たのじゃ』
「ふざけるな」
『ふざけてはおらぬ、湧き立つ欲望から自由になったお主は、本物の理性を纏う賢者となったのだ』
賢者を求める者には最高の喜びだろうが、俺は絶望で言葉が出なかった。そんな時、バズが戻って来た。それと共に理性の気配は消えた。
「師匠、さっきはああ言いいましたが、練習を少しでもして上手くなりたくて戻ってきたっス!」
「そうか……」
俺は声を振り絞って言葉を発した。
「それ、酒っスか?」
「ああ」
俺は元気なく答えた。バズは精力剤の酒を手に取ると一気に飲み干した。
「カーッ効くっス! 蒸溜酒っスか?」
バズがのたまってしばらく経った。
「なんかムラムラするっス」
そう云うや否や
「ぐあああああぁぁ! 師匠、ヤッパリ、お泊りしてくるっス!」
そう言ってバズは去った。
玄関の方に気配があった。ティナが帰って来たのだろう。しかし俺はそれどころではなかった。
「俺には何の効果もなかったのにバズは欲望を手に入れやがった」
その事実が俺の焦燥感を駆り立て、俺を絶望の底へ突き落した。
「何時もならティナが帰宅したら声を掛けてくれるのにどうしたんだ」
俺は降りかかる絶望を紛らわすためにティナに声を掛けて欲しかったのだが、ティナは自分の部屋に籠もったまま出て来なかった。
食事の時間になっても出て来ないので心配になってティナの部屋を開けた。ティナは背を向けて佇んでいた。
俺はティナに声をかけるが何も言わないので近づいた。
「来ないで」
ティナは声を荒げた。
「心配になって」
「嘘よ」
そう言ってティナはこっちを振り向いた。その顔は神々しく美しいティナの素顔が稚拙なメイクで埋め尽くされて台無しになっていた。
俺は思わず目をそむけた。するとティナは手で顔を覆い、泣き出した。
俺はティナの肩にそっと手を置いた。
「触らないで! ワタシに魅力が無いからあんな、いかがわしい物に手を出すのよ!」
俺の手を振りほどいて喚いた。
「少しでもワタシが魅力的になれば、あんな物に頼らなくなると思ってメイクしてみたのよ!」
そう言って顔を上げたティナの顔は涙で化粧が崩れていた。
「メイク上手くいかなかったのか?」
ティナは俯きながら頷いた。今の俺はレベルマックスの欲望もなく賢者と化していたのでティナの行いが愛おしく思えてティナをそっと抱きしめた。
翌日、バズが帰って来た。
「師匠、あの酒、スゲエ効果っスね」
バズは興奮した様子で感想を口にした。
「そ、そうか、それは良かったな」
「俺のためにありがとうございます」
バズは俺に頭を下げた。
「弟子のためだからな」
バズは自分のために準備してくれたと何か勘違いしているようだった。
その様子を伺っていたティナは、何処か安堵していた。




