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第三十六話 絶望するレックス


「明日は辺境伯領に戻るから、練習は休みだ」


「えぇ~っ! せっかく練習が面白くなって来たのに!」


「たまには休暇も必要だ」


 俺はバズに告げた。


 バズが破壊した俺達の借りている寄宿舎の修理代金の支払いが迫っていたのでクランに行く必要があったのだ。


「転移魔法陣を俺達の住居の寄宿舎に設置すれば、楽出来るんじゃないっスか?」


「辺境伯領の周りには魔物よけに結界が施されているからそれは出来ないのよ」


「そうなんスか」


 辺境伯領の近くに設置した魔法陣に転移して来た俺達だったがバズは不満気だった。


「でも領内では魔法使えたっスよ」


「まぁ、領内と領外を隔てる結界だからだろうな」


「そんなもんスかねえ」


 イマイチ納得いっていないバズをよそに俺達はクランに到着した。


 ゴブリン討伐の代金を受け取り、その足で宿舎の修理代を支払った。


「とりあえず何とかなったな」


 俺はホッとして呟いた。


「師匠、これからどうするんスか?」


「弦をスチール製にするための相談をクランの工業ギルドの提携先に相談に行こうと思ってな」


「じゃあ、俺も一緒に行くッス」


「ワタシは寄宿舎に戻るわ、様子も気になるし」


「そうか、今日は久しぶりに宿舎でゆっくりするか」


 そんな会話を俺達は交わしてその場を立去った。


 俺とバズは用事を済ますと帰途についた。


「バズ、この後、何か用事あるのか」


「マッチングカフェに行こうと思うっス! 師匠もどうっスか?」


「そんな所があるのか」


 俺は興味本位でバズの後をついて行った。カフェの店内に入るといかがわしい雰囲気が充満していた。


「何だ、ここは」


「男と女が出会いを求める場っス」


「そ、そうか」


 バズは手慣れた様子で参加費を払うと店内のイスに腰掛けた。


「師匠も早くこっち来て下さい」


 バズの言葉に俺も参加費を払ってバズの隣に腰掛けた。


 するとセクシーな薄着の女性がやって来た。しばらく話をすると入れ替わりで別の女性がやって来た。


「どうっスか師匠、たまにはティナ姉さん以外の女性との出会いを楽しんで、日頃の憂さをはらしましょう」


「そうだな」


 俺はバズに言われるがまま、女性と話をした。しばらくして俺好みの巨乳メガネの女性がやって来た。


 今までの俺なら()き出しの欲望を本能のおもむくままにこの娘にぶつけていただろうと思うのだが、この時の俺はきわめて冷静だった。


「お嬢さん、こんな所に来ている事を親御さんが知ったら哀しむんじゃないかな」


 俺はそこら辺の欲望だらけのクセに善人ぶった腐りきったオッサンが吐くような言葉を口にした。


「師匠、出会いの場でそんな事言うのは無粋(ぶすい)っスよ」


 バズが言うので俺はあたりを見回すとその場にいた複数の男女がシラケた目を俺に向けていた。


「スマン、俺はどうかしていたようだ、バズ、お前はもっと楽しんでくれ」


 手持ちの金の幾らかをバズに渡し、メガネ娘に頭を下げた。


「師匠、俺、ここでお持ち帰りするんで、今日は別な所で泊まるっス」


「わかった」


 俺はマッチングカフェを後にした。


「陽射しが(まぶ)しいな」


 俺はそう(つぶや)いた。それから帰宅する道中、俺は俺好みの女を目の当たりにしてもいやらしい劣情が何も反応しない事に恐怖した。


「俺は一体どうしちまったんだ、賢者タイムにしてはあまりにも長過ぎる…… この歳にして俺は本物の賢者になっちまったんだろうか」


 俺は絶望した。そんな時、露店の親父に声を掛けられた。


「兄ちゃん、どうした、顔色悪いぞ!」


「いや、いい女を見ても何とも思わなくなって」


「そうか、俺に任せておけ!」


 そう言うと親父は店の商品をいじくり出した。店の商品は怪し気なものが並んでいた。


 マンドレイクの根を蒸留酒に漬けた物やポイズンダークスネーク、キラービー等の蒸留酒漬け等があった。


「ここは一体何の店だ」


 俺は親父に聞いた。


「見りゃわかるだろ! 滋養強壮に効く精力剤の店だ!」


 親父は手に何か持っていた。


「ソイツは何だ」


「よく聞いてくれた! コイツはありふれた日常に王国最強てぇ商品だ! んで、もう片方が、精力剤を手にした俺が辺境伯領を無双するってぇ商品だな」


「ヤケに怪しい名前だな」


「ソレくらい効果抜群の商品だ! 品質は俺が保証する!」


「追放された俺の欲望がレベルマックスになって戻って来るのか?」


「おっ! 兄ちゃん良いこと言うじゃないか! そのセリフいただきだ!」


 親父は俺の言った事に感心したように(うなづ)き、話を続けた。


「コイツを飲むと人類史上最強の欲望が手に入るんだよ」


「人類史上最強?」


「ああ、嘘は言わねぇ! 俺んとこには御忍(おしの)びでわざわざこの精力剤を求めて賢者になっちまった貴族どもが大勢来るんだぜ!」


「そうか、そこまで言うなら一つ(もら)おうかな」


「サービスしとくぜ! 兄ちゃん!」


 そう言って親父は紙袋に商品を詰めて、俺に渡してくれた。そんな矢先、ティナが偶然通りかかった。


 俺は商品を多少のやましさから後ろに隠した。ティナはこっちを見ると他人のフリをして目を()らした。


 俺は通り過ぎるティナを目で追った。


「兄ちゃん、ああいうのが好みか」


「えぇ、まぁ」


「そうかい」


「帰ったら早速コイツを試して見ます」


 俺は代金を渡すと帰途についた。


 宿舎に帰りついた俺はしばらく紙袋を眺めていた。


「コイツを飲んだら追放された俺の欲望が成り上がるんだな」


 俺は欲望に対する乾ききった渇望(かつぼう)を言葉にした。それと同時に紙袋から商品を取り出した。


 商品を手にする俺の胸はトクンと大きく高鳴った。


「コイツで俺は人類史上最強の欲望を手に入れる」



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