第三十五話 ギター初心者バズ、練習を始める
俺も寝るつもりでいたが、バズの練習のための準備等で寝るヒマがなかった。バズはというと寝息を立てて眠っている。
「レックス、お主もなかなか策士よのう」
あすかは人間の姿で現れるとシタリ顔で俺に語りかけた。
「何の事だ」
「とぼけおって、アヤツを実験台にしたクセに失敗したら心配する振りをして、ちょっといい話にしてしまうのじゃからな」
「おい、あすか、心外だぞ! 確かに実験の意味合いが強かった。だが、俺はあいつに演奏する楽しさを知って欲しくて、アイツに刻印魔法を施した道具を渡したんだ」
「本当か」
「本当だ。それにアイツがあんな事になって本気で心配したから助けた。それに嘘は無い…… なんたってアイツは俺の弟子だからな! あんまり知ったような事をぬかすな」
「スマヌ」
俺は肩を落とし、しゅんとするあすかを見て何だか可哀想になった。
「謝るな、あすかの言ったこともあながち間違ってはいない。反省すべきは俺の方だ」
あすかが顔をあげた。
「俺はティナの実務に関する研修期間が終わったらアイツを放り出して、ティナとあすかだけで気楽に冒険者稼業をしながら、自分の音楽を探求したりして楽しく過ごすつもりだったんだよ」
俺のふざけた考えにあすかとティナはシラケた目を俺に向けた。
「だけど、バズがあんな事になっちまって、気付いたら勝手に身体が動いてた。その時、俺はアイツに本気で向き合おうと思ったんだ。なんてったってアイツは俺の弟子だからな!」
「そうでしたの、旦那さまのバズを大切に思うお気持ちは大変素晴らしいですわ」
「そうじゃな」
俺の真意を理解してくれたのかあすかはリスに戻った。
「俺は別に、たいした人間でも無いが、アイツのために何とかしてやりたい」
「そう出来ると良いですわね」
準備を終えた俺は明日に備えて寝ることにした。
翌日、俺はバズと一緒に練習を始めた。
「バズ、今日からこれを使え」
俺は実家にあった祖父の作りかけのギターを自分のスペアにするために譲ってもらった物を手直ししてバズに渡した。
「師匠と同じもの…… いいんスか?」
「気にするな、それより練習だ」
「ある程度楽器を扱えりゃ、あれ位の道具に振り回されずにすんだはずだ」
神妙な顔で話を聞くバズが俺に質問をした。
「それでどんな練習するんスか?」
「取り敢えず、指の力を強くする事、指を自分の手足のように自在に動かすための基礎練習だ」
「ヤケに地味な練習っスね」
バズは不機嫌そうだった。
「お前はなっちゃいねぇな、基礎が一番大事なんだ。俺は今でも基礎は疎かにはしちゃいねえ」
「そんなもんスか」
俺はバズに手本を見せた。
「左手でフレットの上から一つずつ順番に弦を指で押さえる。一つのフレットが終わったら次のフレットでまた繰り返す」
「単調な作業っスね」
「レベル上げみたいな物だと思え! それと弦に指をのせる場所にも決まりがあるから俺のを見て覚えろ」
「ところでフレットってなんスか?」
「区切りのための金属の板だ」
「これっスね」
「そうだ」
バズが指さしたので俺は頷いた。
「それとストロークだ、右手で上から下に弾くのをダウン、逆がアップだ。これをアップ、ダウン、アップ、ダウンと弾く。右と左の手をあわせて練習する」
「難しそうッスね」
「まあそう言うな、これは全ての演奏の基礎だ。これが出来れば刻印魔法のあの道具を確実に制御出来るはずだ」
「はい頑張ります」
バズの顔が明るくなった。
「それと並行して別の練習がある」
俺はバズにコードダイヤグラムを渡した。
「なんスか、これ」
「コードダイヤグラムだ、これを覚えてもらう」
「前にも似たようなものを渡して貰ったんスけど」
「あれはリュート用のタブ譜だ」
「そうなんスか」
「指板の音さえ覚えれば、コードの押さえ方を無理に覚えなくても、とりあえずコードが弾けるようになる。ここまでを極めりゃ音楽を志す者として、本当のスタートラインに立つことが出来る、わかったか!」
「はい、師匠」
「まずはチューニングからだ。しっかりやるんだぞ」
俺とバズとの練習が始まった。




