第三十四話 刻印魔法の代償
バズは刻印魔法を施したリュートを早く試したくて俺とティナをせかした。
「急ぎましょう! 師匠」
まるで新しいおもちゃを手にしてはしゃぐ子どものようだった。
「楽しそうですね」
「はしゃぎ過ぎだよ」
そんな事を言いながらバズの後をついて行った。
城門を抜けて転移魔法陣のある場所まで来たので先を行くバズを呼び戻した。
「バズ、こっちだ!」
「そこに何かあるんスか、師匠」
「ここに魔法陣があるからその上に乗れ」
「この魔法陣どうしたんスか?」
「ティナが用意した」
俺はそういう設定でバズに話した。
「スゲェっスね」
「ティナ頼む」
ティナは頷くと詠唱らしきものを唱えた。すると俺達の野営地のあるケツァーナ村付近に転移した。
「ゴブリンどもがわいてるな」
「ワタシ達の思い出の場所なのに」
「そう怒るなティナ、取り敢えずゴブリン討伐の作戦をたてよう」
「そうですわね」
俺とティナがそんな話をしていたらバズが勝手に飛び出した。
「おい、バズ、ちょっと待て」
俺が声を掛けるも聞こえていないようで慌ててバズの後を追い掛けた。
計画も無しにバズはいきなりリュートを掻き鳴らした。空間から炎が沸き立ち、辺りにいたゴブリンどもを焼き尽くした。
「どうですか、師匠!」
バズは得意気に俺の方を見てアピールしたが、
「リュートの弦が次々に切れて行きやがる」
バズのリュートの弦が次々に切れていき、終いには音が鳴らなくなった。
「ナンナンスカ、これは!」
それでも手袋をした左手とピックを持つ右手はバズの意思に反して勝手に曲を弾くために動いていた。
「うわあぁぁっ」
バズが苦しそうな叫び声を出した。
「どうしたバズ! 手が痙攣してるじゃないか!」
「手、手が勝手に動く! 止まらねえ!」
「バズ! 手袋とピックを離せ!」
「手がつっちまってどうにもならねェ!」
「嘘だろ」
炎の出なくなったバズに、残党のゴブリンが襲いかかって来た。それをティナが後方から風魔法で押し返した。
「ティナ、バズを頼む」
俺がそう言うとティナは頷き、バズの所へ行き近寄るゴブリンを短剣で屠っていった。
「サンダーボルト!」
俺は雷魔法で、残党を殲滅した。
一息つくとティナはバズを介抱していた。
「そこをどけ!」
俺はティナを押しのけるとバズの胸ぐらをつかみ立ち上がらせた。
「お前、ふざけんじゃねぇ! 何様のつもりだ!」
俺はそう叫ぶとバズの顔を殴った。
「何するんですか! 旦那さま」
ティナはバズの身を庇うように前に出た。
「下がってろ!」
俺は庇うティナを退かした。
「テメェの勝手な行動のせいで誰かが死んだらどうするんだよ! 責任取れんのかよ!」
俺は怒声をあびせてケリを入れた。バズはうずくまった。
「もしテメェが死んだりしたら俺達はどうすればいいんだよ! 寝食を共にして、もう家族みたいなもんだろ、だから勝手な行動は取るなよ」
俺は目頭に込み上げるものをおさえた。
「旦那さま」
ティナは俺の方を見ると満面の笑みを俺に向けた。
「後は任せた」
「はい!」
ティナは弾む声で返事を返した。
俺は討伐したゴブリンの確認をしに行った。
「バズ、ケガはない」
ティナの声がするので、俺が振り返るとティナがマジックバッグからポーションを取り出して治療していた。
俺がゴブリンを片付けてしばらくたった頃だった。
「師匠、すみません、勝手な行動を取ってしまって」
バズは地面に頭をこすりつけた。
「わかった、道具があっても使いこなせないしトラブルがあっても対処も出来ない。しばらくソイツはお預けだな」
そう言って刻印を刻んだ手袋とピックをバズから取り上げた。
「しばらくこの道具なしで基本から練習だ」
「スミマセン、ありがとうございます」
バズは涙を流した。
「よし、明日からしばらく練習だな。じゃあ今日はここに泊まるか」
「ここって森と近くに川があるだけで泊まるような所、何処にも無いっスよ!」
「ティナ、頼む」
ティナは何かしら唱えるフリをするとあすか作の邸宅が現れた。認識阻害を解除したのはリスに憑依したあすかだった。
「すげぇ! なんすか、この邸宅は?」
「ティナの魔法だ」
「すげぇっス! ティナの姉さん」
「そ、そうかな」
ティナは自分が何もしていない事をほめられて何だか気恥ずかしくなった様に見えた。
俺達は邸宅の中に入った。
「何だよ、またゴブリン達が荒らし回ったみたいだぞ」
「そうですわね」
そう言って、俺とティナは邸宅の中を片付けた。
「何だよ、この中は無駄にデケえ! 師匠、一体どうなってるんスか?」
「俺に聞くな」
「それにしてもすげえっスよ! この無駄に金が掛かっている感が! そこいらの成金貴族以上っス! 師匠は一体何者っスか?」
「俺に聞くなよ、そんな事より食事にしよう」
「そうですわね、用意しますわ」
ティナは食事を用意した。
「ニートリアの揚げ物です」
「これだよ! これを待っていたんだ!」
「美味いっス!」
俺達は食事を終えるとやる事がなくなった。
「明日に備えて寝るぞ!」
「はい」
バズは明日からの練習を楽しみにしているようだった。疲れもあったのかすぐに寝てしまった。




