第三十二話 この国の音楽の世界を変えてやろうぜ!」
村から戻って来た俺達はクランの素材買取所へニートリアを納品しに行った。
商業ギルドに加盟するこの素材買取所も当クランの提携グループであった。商業ギルドに限らず各種ギルド内部はそれぞれ三つに分かれて各クランと提携している。
「すみません、買取りお願いします」
「素材は何処だ」
体格の良い買取り担当者がぶっきらぼうに応えた。
「こちらです」
ティナのマジックバッグから二ートリアを取り出した。
「ほぉーっ! リバージャイアントラットか! 珍しいな」
最初は興味深く見ていた担当者は次々出てくるラットを見て驚いた。
「オイオイ、いったい全部で何匹いるんだよ!」
「五十匹くらいかな」
「冗談だろ!」
担当者は積み上げられたラットを見て唖然としていた。
「これは少々時間が掛かるな、毛皮は高く売れるし、肉も美味いから報酬は期待していいぞ!」
「明日、取りに来ます」
「おう!」
元気に返事を返す担当者に頭を下げてその場を後にした。
討伐完了の報告は事前に済ませていた事もあり、報酬を手にした俺達は宿舎に帰る途中、市場に立ち寄った。
宿舎に戻ると解体してあったニートリアを取り出してティナは料理を始めた。
ティナはハチミツ、塩、魚醤、酢、チーズや乳等を市場で買い込んでいた。それらを使って数々の料理を作っていた。
スパイスをふりかけて焼いた肉、ハチミツと魚醤を使い甘辛く味付けした串焼き、肉をスライスして湯通しして、ハーブや野菜の上にのっけた物にに酢と塩と油を混ぜたソースをかけたサラダ等が出来上がっていた。
そこへニートリアの肉を乳とチーズで煮込んだスープも作っていたが、エルフであるティナが何故、人間が食べるような物を作れるのかは謎だ。
料理中のティナを横目にバズが俺に声を掛けた。
「師匠、リュートの使い方を教えてほしいっス」
「今日はもう疲れた、明日にしてくれ」
「何時も同じ事を言わないで下さい! 師匠」
「そう言われると確かにそうだな」
俺は立ち上がるとタブ譜の書かれた羊皮紙を探し出しバズに渡した。
「タブ譜だ、数字が書かれているから順番通りに音を鳴らせば曲が弾ける」
「俺、全くの初心者で文字も読めないッス! そんな物、渡されても俺には無理ッス」
「初心者でも指を置く場所くらい知ってるだろ」
「何も知らないから弟子になったッス」
「そんな状態で何で弟子入り志願したんだ? 女にモテるためとかファッションとか言ってたよな?」
俺はバズの並々ならぬ熱意にただならぬ物を感じていた。
「俺、妹がいたッス、ジルフィーって言うっス」
「この前言ってたな」
「両親があの世に旅立って橋の下のスラムに住んでたんすけど取り締まりがあって妹とともに施設に放り込まれたっス」
「大変だったんだな」
「しばらくして、施設のあった街に魔物の大群がやって来て、妹と離ればなれになっちまったんス」
「それとリュートがひけるようになるのとなんの関係がある?」
「リュートをひけるようになって有名になれば妹に、もしかしたら会えるかもしれない、そう思ったッス」
「お前の夢を壊すようで悪いけどそれは難しいかもしれないぞ」
「何故ッスか?」
「この国の音楽界は王立魔法アカデミーの関係者じゃないと相手にされないんだ」
「そ、そんな」
ガクッと肩を落とすバズに俺は続けた。
「お前が音楽に本気で向き合うなら俺も手を貸す、俺達でこの国の音楽の世界を変えてやろうぜ!」
「師匠! 俺一生ついて行くっス」
俺はこの後、全く出来そうも無いことを勢いで言ってしまって後悔した。
「食事にしましょう」
ティナが声をかけた。
「油で揚げたヤツはどうした」
俺は肉を揚げた物が無いことをティナにぶつけた。
「あっ! 作るの忘れてましたわ」
「オイオイ、忘れないでくれよ」
「今度作りますわ」
そんな事を言いながらも、ティナの出来上がった料理を食べると食べ過ぎて、なんかどうでも良くなった。
食いすぎて横になっているとリスに憑依したあすかが念話を使って俺に語り掛けて来た。
『レックスよ、刻印魔法を使ってアヤツにリュートをひかせるんじゃ』
「練習のためにか?」
『いや、お主の実験台にするんじゃ』
あすかは下らない思い付きを俺に進言したが、それに乗ることにした。
「いい考えだな、一度試してみたかったんだ」
俺は早速、持ち合わせの革手袋の指先部分を切って捨て、刻印を書き、魔法を付与した。
「見た目も中々カッコ良いな」
出来上がった革手袋を見て呟いた。それから魚のウロコ状のピックという弦をはじく道具を作ってそれにも刻印を書き魔法を付与した。
「よし出来たな、実験は明日だ」
俺はひと息つくと急に眠くなって来てそのまま意識を失った。




