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第三十話 師弟関係とスカリス


 玄関からドアをノックする音が聞こえた。


「ティナ、お客さんだぞ! 応対して来い」


 我に返ったティナは振り上げた包丁を置いて玄関に向かった。俺はこのままではいつかぶっ殺される、そう思ったその時だった。


「所属パーティを抜けて来た! 俺にリュートの使い方を教えてくれ」


 ブルーバズが転がり込んできた。


「いや、困るんだが」


「俺は覚悟を示せというからここへ来た! 退路は絶った。俺にはもう行く所も戻る場所もねえ! お願いだ、師匠!」


「師匠? 誰が?」


「あんただ! 他に誰がいる! 奥さんもどうか説得して下さい!」


「まあ、奥さんだなんて! わかったわ!」


 奥さんと言われ、気を良くしたティナが満更(まんざら)でもない様子で俺の方を見た。


「旦那さま、こんなに頼み込んでいるのですからよろしいではありませんか」


「駄目だ!」


 俺が威厳を込めて言ったその一言をティナは軽く受け流した。


「ブルーバズさんの部屋はこちらよ」


「ブルーバズは長いんでバズと呼んで下さい」


「わかったわ、バズ」


 ティナはバズと一緒に歩いて、空いている部屋に連れて行った。


「ここ、俺の借りてる家だろ、何でティナが勝手に決めてるんだ。俺の立場が軽すぎる」


 残された俺はそう呟いた。



 翌日、俺はバズを連れてバズの所属パーティに向かう事にした。


「俺の無責任な発言でお前の人生を狂わせちまったようだな、俺が責任を取る」


 そう言って俺はバズとティナを連れてバズの所属パーティに出向いた。


 バズがパーティ脱退を告げた、リーダーのシルビアは俺達の姿を見て目を丸くした。


 バズが弟子入りを志願してパーティを抜けた事を聞くとシルビアは深く(うなず)き、意外な言葉を口にした。


「レックス、バズはうちにとって大事な存在だが、無理に引き留めようとは思わない」


 しなやかでありながらほどよく身体の引き締まった女性リーダーシルビアは話を続けた。


「アイツのリュートにかける思いは私等が失いがちな、本気で何かに打ち込む姿勢を思い出させてくれた」


 シルビアはバズに向き直って言った。


「バズ、お前はうちの宝だ! だからもし音楽の道が上手くいかなくても何時でも戻って来ればいい。お前の席はいつまでも空けておく」


 シルビアの言葉に胸が熱くなったバズは涙を(こら)えた。俺もシルビアの真摯な態度に驚き静かにため息をついた。


「弟子にするよ」


 俺はバズが真剣にリュートに打ち込んでいたことを知り好感を持ったので弟子にする事にした。バズは驚きのあまり言葉が出なかった。


「だだし、約束がある、俺のもとで俺の演奏を真似るのではなく、お前自身の演奏をお前の手で生み出すんだ」


「はい」


 こうして俺とバズの師弟関係が始まった。


「旦那さま、正規ギルドカードの所持者が二名になったのでワタシ達三人でパーティ組めるのではありませんの?」


 ティナが思いついたように口にした。


「そうだな、パーティ登録するか」


 俺達はパーティ名もろくに決めずにクランに向かった。


「この三人でパーティを結成する事になりました」


 クランの代表執務室に俺達はいた。


「キミは夜明けの真相のメンバーで、確かブルーバズ君ですね」


「はい」


「困りましたね、火属性魔法の使い手のキミが抜けると夜明けの真相は戦力ダウンしますね」


「代表、すでに夜明けの真相のリーダーからは許可をもらっています」


 俺は横から代表に進言した。


「そうですか、双方、納得いっているのであれば問題ありません」


「良かったですわね、旦那さま」


「そうだな」


「ところで、パーティ名は決まっているのですか」


「いえ、特に考えてませんが、バズ、何か案はあるか?」


「いや、別にないッス」


「ティナは何かあるか」


「旦那さまがお決め下さい」


「分かった」


 俺はティナの方を見て少し考えた。


「スカリオンでどうでしょうか」


「その名前には召使いの意味が含まれていますから印象は良くないですね」


「旦那さま、スカリスなんてどうでしょうか」


「いいっスね、オリジンオブとか頭に付けるとよりかっこいいっス」


「そうだな、響きもいいし、それにするか」


「問題はありませんね、それで結構かと思います。ところで名の由来は何処からですか?」


「ティナの実家では特別な日に先祖の頭の骨を冠した楽器で祝う風習がある事とそこの部族長の名が代々スカリョとかスカリォ等スカリを冠している事からです」


「ティナさん由来ですか、レックス君もなかなか彼女思いなんですね」


「そうなんですか! 旦那さま、ワタシのために」


 感極まったティナは頬を赤く染めた。


「そんなんじゃねえよ」


「照れなくて良いスよ、師匠」


「うるせぇ、もう帰るぞ!」


「その前にレックス君、新規パーティは低ランクからのスタートですけどよろしいですか」


「はい」


「それで納得しているならよろしいでしょう、こちらでパーティ登録の申請を受け付けましょう」



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