第二十六話 コード進行?
「ゴブリンが住み着いていますわ!」
戻って来たティナが報告した。
「確認出来るだけでも十体は超えてましたわ」
「おい! あすか、認識阻害の魔法かけてたんじゃなかったのか?」
「人間にしか効果はないぞ」
「なんで?」
「前にそう言ったじゃろ! 人間は強欲じゃからのう」
「人間差別はヤメロ」
「そんな事より経験値を上げるチャンスじゃぞ」
「話を変えやがったな!」
「はよう、行って来い」
「おぼえてろよ!」
俺は竹笛を手にしてその場を後にした。
「旦那さまぁ!」
「ティナ、どうした」
「旦那さまを一人にするなと言われて追いかけて来ました」
「おせっかいだな」
俺達はゴブリン達に気づかれない所まで近づいた。
「旦那さま、ギターではありませんの?」
ティナは楽器が違う事に気づき俺に聞いて来た。
「竹笛で雷魔法を使えた実績はあるが、ギターではまだ使えていないからな」
「そうなんですね」
「そんな事よりあいつら俺達の野営地を好き勝手しやがって!」
俺は雷魔法の詠唱を唱え、以前竹笛で攻撃魔法が発動した時の強化魔法のフレーズを吹いた。
すると魔法が発動して稲妻がコブリン達の身体を貫くと麻痺して倒れたゴブリンが、気を失っている間に、短剣を突き刺し息の根をとめ、証拠を提出する為の耳を切り取った。
生き残りのゴブリンが襲って来るが周囲を警戒していたティナが片付けた。
「こんな事で経験値とやらは上がるのか?」
始末したゴブリンを土の中に埋めながら俺は呟いた。
「付与を刻印する事が出来る魔法が使えるようになっておるぞ」
後から来たあすかが俺に言った。
「刻印魔法は興味があり、学生時代に理論と実践の講習を受けたが魔法適性がなくて諦めていたんだ」
「使えるようになって良かったのう」
そう言うとあすかは以前、自分で創った邸宅の中に入っていった。
屋敷の中にはゴブリンの備品があちこちに転がっていた。その中に小振りなギターの様な楽器と記号のようなものが書かれた羊皮紙があった。
「コイツを頂いておこう」
俺は小型ギターをアイテムボックスに収納した後、羊皮紙を手に取ってながめた。
「演奏に必要なものか? 俺の知っているものとは違うな」
「旦那さま、何かわかるのですか?」
「楽器を演奏する手順かな」
「凄いですわ」
「いや、推測だからな」
俺はあすかの方を見た。
「これ解読出来るか?」
「任せておけ、レックス羊皮紙はあるか?」
「ああ、以前ここで作ったヤツならあるぞ」
あすかは記号が書いてある羊皮紙を魔法らしきもので俺の用意した羊皮紙に人間の言葉に翻訳したものを転写した。
「スゲェ! 読めるぞ!」
「どうじゃ!」
「ありがとう! あすか」
俺はあまりに嬉しくてあすかに抱きついた。
「離せ、レックス」
あすかは満更でも無いような様子だったが、ティナが無理矢理引きはがした。
「ヌシ様は嫌がっておられますわ!」
「我はそれほど嫌がっておらぬぞ」
「庇い立て不要ですわ!」
「あすかも嫌がってないと言ってるだろ、何をそんなに苛立ってんだ」
「苛立ってなんておりませんわ!」
「それに見てみろ! あすかは子どもじゃないか!」
「我は子どもじゃない! 立派な大人じゃ!」
幼女姿のあすかが主張した。
「仲がよろしいんですね」
ティナはそう呟くと俯いて何処かへ歩いていった。
「追い掛けた方が良いのではないか?」
「そうだな」
後を追うと川の近くにティナは佇んでいた。俺はそっと近づき、泣きじゃくるティナの頭を軽く撫でた。落ち着いたのか泣き止んだ。
「ごめんなさい、旦那さま」
「俺もなんか、悪かったよ」
俺は一体、何をやってんだろうと途方に暮れた。
ティナを連れ戻すとご機嫌で食事の準備を始めたが、あすかはご機嫌斜めであった。
「我は子どもではないぞ!」
「姿は子どもだろ」
「ふざけるでない! レックスより遥かに長く生きておるわい!」
「長く生きていても精神年齢はおこちゃまだろ!」
「なんじゃとぉ!」
あすかの怒りが頂点に達したその時だった。ティナが呼び掛けた。
「食事の準備が出来ましたよ」
「食事じゃと?」
あすかは食事の匂いにつられて駆け出した。
「俺よりずっと長く生きて大人ぶってるけれどもやっぱり、まだまだ子どもじゃないか」
俺はため息をつきながら食事があるテーブルに向かった。
俺が席に着くとあすかは食事をしながら俺に嫌味を言い続けた。
「おいあすか! いい加減にしろよ!
人間を超越する上位存在なんだから大人しくしろよ」
「さっきは子どもと言ったじゃろ! 言ってる事が矛盾しとるではないか!」
「なにも矛盾していないぞ!」
「何じゃとぉ!」
俺とあすかが一触即発の状態となったその時だった。
「ふたりともいい加減にして下さぁい!」
ティナが怒りをあらわにした。あまりの迫力に俺達は大人しくなった。
「悪かったよ、あすか」
「我も大人げなかった。すまぬ、レックス」
俺達は仲直りをした。あすかは食べ過ぎで眠くなったのか寝てしまったので俺は先ほどの羊皮紙を開いた。
「旦那さま何が書かれているのですか?」
後ろからのぞき込むティナが声をかけた。
「これか、コード進行と書いてあるが和声っぽいな」
「和声?」
「複数に重なった和音を音楽のルールに従って演奏していく設計図の様なものだろうか」
ティナは理解できていないようだった。
「要は伴奏だよ」
「伴奏?」
「歌を歌っている人物の後ろで歌に合わせた音を重ねて奏でてるだろ」
「はぁ」
「例えば、ティナのいた集落に、狩りで獲物を取ってきた時、感謝を示す祈りをシャーマンのバジャが節を付けて唱えたのがメロディとしてその背後から楽器で音を奏でて盛り上げるだろ、それだよ」
「ああ!」
なにか合点がいったティナは手を叩たたいた。
「伴奏するにも決まり事がある、大ざっぱに言えばそんな所だ」
俺はそう言った後、手元のギターで手本を示した。
「大まかに言うと、この楽器だと決まりに従って弦を一本ずつ順番に鳴らしていくのがメロディで、同時に複数を順番に連続で鳴らしていくのが伴奏だよ」
「それが書かれているのですね」
「そうだな、記号や数字で書かれているからそれを解明しないといけないし、竹笛で雷魔法が発動する原理も解明する必要もあるし、しばらくここに滞在だな」
「まあ! それは良い事ですわ」
ティナはつまらない音楽の話よりここにしばらく滞在する事にたいそう喜んでいるように見えた。




