第二十四話 後継者問題
「まさか! お前、そのお嬢さんとの子供か?」
「まあ!」
母が頬に手をそえる。
「お兄ちゃんどういう事なの!」
「いや、旅の途中でちょっと……」
「旅の最中に子供が出来たのか!」
「まぁ!」
「不潔よ」
「そんなわけあるか! おいティナ! お前も何か言え!」
「そうです! 私と旦那さまの愛の結晶です」
「はあ?」
ティナがのたまうと、痛い物でも見るかのような目で俺の方を見る家族に向かって俺は言った。
「おい、お前等いい加減にしろ! 家を出て数年でこんな大きな子供がいる訳ないだろ!」
「言われてみればそうだな」
「そもそも子供の姿をしているが、人間を超越する存在だぞ! さっきも見ただろ、何もない所から現れて重い病気すら軽く治してしまうんだぞ!」
「まあ、確かにそうだな、お前のようなどうしょうもない奴からこんなに凄い子供が産まれるはずはないな」
「そうね」
「そうよ!」
「おい! 酷すぎるぞ」
俺がそう言うと笑いにつつまれた。その後、俺は父さんと二人で今まであった出来事を話し合った。
「お前、学校辞めたんだってな」
「ああ」
俺が今一番、触れられたくない話題だった。
「ワシが聞いた話では、お前が大公爵殿のお嬢様に着せられた濡れ衣を身を挺し、一身に受け、学校を辞めたんだってな」
「誰に聞いたんだ」
「大公爵殿に近しい貴族からだ」
どうやら、俺の預り知らぬ間に俺は殉教者の如き存在に祭り上げられているようだ。
「もしかして、父さんは大公爵派に属しているのか?」
「いや、そういう訳ではないのだが」
「それ、俺のせいかもしれないな」
「どういう事だ」
「俺が王立アカデミーに在籍していた時、公爵令嬢のビクトリアとは多少仲が良かったからな」
「そう言えば、お嬢様をここへ連れて来た事があったな」
「ああ、それで俺を公爵派と思い込んだ誰かが、父さんも公爵派と認識したんだろうな」
「そう言えば、仲の良かった知り合いが急によそよそしくなったり、知らない人物がやたら話し掛けて来るようになったな」
「それって、俺が学校辞めた頃か」
「そんな気もするな」
「成る程、やはり原因は俺にあるようだな、父さんごめん! 俺のせいでくだらない争いに巻き込んだみたいだ」
「くだらない争い?」
「後継者問題だ!」
「王国のか?」
「そう言えば、俺は以前ビクトリアに聞かされた事があった。第一王子派と第二王子派と第三王子派の三派にわかれて争っていると」
「公爵殿は誰を推しているんだ?」
「第一王子だな」
「そうか、ワシもそう見られているのだな」
「ああ、俺の所属していた学部にはビクトリアの他に第三王子もいたな」
「ソイツに嵌められたのか!」
「まあそんな所だな」
俺はその問題が起こった時、辞める理由が出来て丁度良いと思った。
ハッキリと言えば、学校にもビクトリアにも第三王子にも全てに辟易していた。俺は誰にも縛られない自由な環境で音楽の探究をしたかったからだ。
「王立魔法アカデミーで俺が知りたい事は全て学んだ。もはや在籍する理由がないんだよ」
「ちゃんと卒業して王立関係の公的機関にでも入れば、一生安泰だったんじゃないか? 金も名誉も手に入ったろ」
「そうだな」
「それにお前はアカデミー設立以来の音楽の才能だったらしいじゃないか!」
「はあ、話盛りすぎだろ!」
俺は馬鹿らしくなって話を変えた。
「それはそうと跡継ぎどうするんだ? 俺、こんなだし」
「跡継ぎ? 心配いらんぞ! ジャスミンに養子を迎えるつもりだ」
「そうか」
俺は黙ったまま、虚空を見上げ、天井のシミの数を数えた。
「ところで、レックス、お前今何やってんだ?」
父が声をかけた。
「辺境伯領で冒険者をやってる」
「冒険者? そんな底辺な事やってるのか!」
俺は底辺と言う言葉に複雑な気持ちになったが話を続けた。
「俺を苦労して学校に通わせてくれたのに途中で辞めてしまって、合わせる顔がなくなって、気付いたら冒険者になっちまった」
「そうか、仕方ないな」
「こんな情けない姿ですまん、父さん」
「すんでしまった事はしようがない、お前は公爵令嬢を救ったんだ! 自分にもっと誇りを持て!」
「ありがとう、父さん」
「ところであの子供は一体何なんだ?」
「さっきも言ったが、超自然的存在だ。どうもエルフの親玉みたいだな」
「エルフの親玉って、世界樹か?」
「そうなのかな」
「そうじゃ、我は世界樹じゃ! エルフの者どもからはヌシ様と呼ばれておるのう」
その場にいないはずのあすかが唐突に現れた。
「おい、突然出て来るなよ!」
「我の話をしておるからじゃ!」
俺はあすかの頭を軽く小突いた。
「お、おい、レックス、そんなぞんざいに扱っていいのか?」
「大丈夫だ」
「そんなわけないじゃろ!」
あすかは呆れていた。
「デックスとやら、レックスは中々見込みのある男ぞ、我が面倒見るから心配するでない」
あすかはデックスの方を見て続けた。
「それはそうと、デックスの奥方、呪いの魔法が掛かっておったぞ」
「そ、そうですか?」
「話の流れからして後継者争いが関係しているのかものう」
「どうすればよろしいのですか?」
「心配無用じゃ、我が何とかしておく。次に呪いの魔法を掛けてきたら逆に掛けた者に呪いが掛かるじゃろう」
父が俺の方を向いたので俺は肯定の意味で頷いた。
「よろしくお願いします」
父はあすかに頭を下げた。
父との話が終わるとドアを開ける音がした。
「お兄ちゃん、こっち見て!」
俺は妹の方を見た。横にはティナが立っていた。
「旦那さま、この格好どうかしら?」
ティナは恥ずかしそうに俺の方を見た。
「似合ってると思うぞ! 今まで肌の露出が多かったから、丁度良いんじゃないか」
「ありがとうございます!」
ティナの瞳が輝いた。俺はファッションの事に特に興味も無いのでどうでも良かった。
「ジャスミン、他にも見繕ってくれ」
「大丈夫! もう揃えてあるわ!」
「ありがとう、ジャスミン! ティナの格好は目のやりどころに困っていたからな」
俺は妹にお礼を言った。
「ジャスミン、俺達は明日ここを出ようと思っている」
「もう行っちゃうの?」
「ああ、生活して行かないといけないからな、二度と会えなくなるわけじゃないだろ」
「そう、よね」
「心配するな」
俺はそう言って不安がる妹を抱きしめた。
「大丈夫ですわ! ジャスミンさん、ワタシがついてます!」
何の根拠もなくティナは自信満々に語った。
「そうですわね、兄をよろしくお願いします」
妹はその場を後にした。




