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第二十二話 レックスの鎮魂歌


「お兄ちゃんこれは一体どういう事なの!」


 ジャスミンは俺を問い詰めた。


「いやぁ、ベットが一つだけで狭いから俺が部屋の隅で寝ると言ったら、泣き出したんだ」


「私と一緒に居たくないのよ」


 ティナの話を聞くと妹のジャスミンは(さげす)んだ目で俺を見た。


「それより何か用か」


「夕食だから居間に来てちょうだい!」


 俺はティナをなだめて居間に向かった。


 居間に着くと三人で食卓を囲んだ。ティナは落ち着きを取り戻した。


 妹は不機嫌そうだったが、ティナの肩に乗ったリスを見ると目を輝かせた。


「このリスどうしたの! かわいい!」


「ティナが面倒みてるんだ」


「森で出会って、それ以来ずっと一緒よ! 面倒みてるというより私のほうが面倒みられてるかな」


「この子の名前は何ていうの?」


 妹はティナに尋ねた。


「あすかです」


「あすか!?」


 パァッと顔が輝く妹は俺の方を見て興奮した様子で話しかけた。


「ここで飼ってる馬の名前と一緒よ! お兄ちゃん!」


 俺はティナの肩に乗るリスを恐る恐る見るとリスは全身の毛を逆立て歯を()き出しにして俺を威嚇(いかく)していた。


 俺は恐ろしくなったので話を変えた。


「父さんと母さんはどうした?」


「お母さん病気なの、お兄ちゃんが学校辞めて失踪した頃から病に掛かって、お医者さんに聞いても原因がわからないって」


「そうか」


「だからお父さんが付きっきりで看病しているの」


 妹は沈んだ声で呟いたが、俺は正直ほっとした。父さんと顔を合わせずにすんだからだ。


「明日レオーネ兄さんの墓参りに行って、ギターを演奏して弔うつもりだ」


「それはレオーネ兄さんも喜ぶわね」


 


 翌日、兄の墓がある墓地に行き、新品同様のギターに兄が他界してからこれまでの俺の思いの丈を演奏にぶつけた。


 その後、極上と言う訳でもないが、それなりに高価なワインを墓石の上からかけた。


「酒好きかどうかは知らないが存分に味わってくれ」


「きっと喜んでくれますわ」


 ティナが声をかけた。


「そうだな、兄さん、また来るよ」


 そう言ってその場を後にした。


 家に着くと俺は妹に尋ねた。


「なぁジャスミン、祖父ちゃんの部屋ってまだあるのか?」


「ええ、お祖父ちゃんの工房もそのまま残っているわよ」


「案内してくれるか?」


「いいけど」


 妹に祖父の部屋まで案内してもらった。


 祖父の工房も兼ねた部屋のドアを開けると乾いた木の香りが漂って来た。


 部屋の中に入るとオイルニスや天然樹脂に由来する落ち着いた深い香りに機械油や金属の匂いが渾然一体となって物作りへの情熱を感じさせた。


「懐かしいな、あの当時の作りかけのギターがそのままの状態で残されているんだな」


「そうね、お兄ちゃんが王都に出て行ってから、家族三人で出来るだけそのままにして置こうと話し合ったの」


「そうか、ありがとう」


 当時、祖父とレオーネ兄さんと俺の三人でギターを弾いたり他愛も無い事を語りあっていた事を思い出した。


 俺は変わらない祖父の部屋に、二人がいない事について、あついものが込み上げてきた。


「もう二人とは、生きて会うこともないんだな」


 ボソッ(つぶや)くと、俺の目から涙があふれ出した。


「旦那さま、そんな悲しい顔をなさらないで下さい!」


 ティナは俺の手の上に自分の手を添えた。リスに憑依中のあすかも俺の肩にちょこんとすわった。


「一人で抱え込まなくて良いのよ」


 妹のジャスミンもそう言うと俺の手を(つか)んだ。


「ありがとう」


 俺は心からそう思ったと同時に、病に冒されている母さんの事を考えていた。


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