第十九話 プロポーズ?
「ティナお願いがあるんだけど、手に持っている楽器、貸してくれないか?」
ティナの前に立つとティナは少し戸惑った表情をした。
俺が片膝をついてティナに視線を合わせるとティナの瞳は次第に大きく見開かれ、瞳の奥に光が宿った。
「どうぞ」
ティナが差し出したその手は微かに震え、楽器を落としそうになったが、俺はなんとか受け取り礼を言った。
「ありがとう」
ティナが少し俯くと頬に赤みがさし、同時に少しはにかんだ。
俺は楽器を手に取ると触り心地を確かめた。ネックとしての木の棒に弦が一本、ボディの共鳴胴には頭骨が装着され、それを弓で引くようだ。
針葉樹のヤニを弦に擦り付け、音を鳴らすと澄んだ音を出したので色々試した。
弦を指で押さえ鳴らすと、その音は素朴でありながら複雑な響きを奏でた。
今まで聞いたことのない音色にエルフたちは戸惑うも物音をたてずに聞いていた。
静けさの中にレックスの演奏だけが鳴り響いた。
弾き終わると歓声がわいた。俺は演奏の評価以上の歓声が沸いた事に違和感があった。
ティナを見ると俯いて目の焦点が合わないまま、何故かニヤついていた。
「おめでとう!」
隣にいた族長が俺に声をかけた。
「今日はめでたい日だ!! 大いに楽しもう!!」
族長はあたりみんなに声をかけ、それを合図に馬鹿騒ぎが始まった。
意味がわからない俺は族長に聞いた。
「聖なる火が灯る時、祖霊と一つになった演奏者の楽器が、異性によって演奏されるとき婚約の成立である」
「はああっ! 嘘だろ! 俺はティナにプロポーズした事になったのか?」
「その通りじゃ! それともわしの孫が気に食わんとでも言うのか」
スカリョは怒気を込めていった。
「俺はそもそもそんな事は知らないし無効だ!」
「知らなかったとはいえ演奏した事実は変わるまい、ほれ見てみよ! 皆の衆の喜ばしい事! これを見て断れるのかね」
俺は何も言えなかった。
「旦那さま、これからよろしくお願い致します」
先程まで塞ぎ込んでいたティナは俯いた顔を上げると輝く瞳で俺を見つめた。
「そんな目で俺を見るんじゃねぇ!」
「そんなに照れないで下さい」
ティナは明るく微笑んだ。
「あすか! 俺はコイツ等に嵌められたんだ! どうにかしてくれよ」
冷めた目で、その様子を眺めていたあすかに俺は助言を求めた。
「レックスはティナにプロポーズしたんじゃろ」
「そういう事になってるみたいだな」
「ならば、責任取らねばならんな」
「俺は嵌められたんだ!」
「レックスが、確認もせず軽率な行ないをした結果じゃ、責任を取らねば、嘘つきになってしまうぞ!」
「嘘は良くありませんわ!」
ティナはここぞとばかり、口をはさんだ。
そもそも、こんな俺で良いのか? これから先、本当にやって行けるのか? そう考えると俺はだんだん恐ろしくなって来た。
「助けてくれ! あすか! お願いだ!」
「我は知らぬ、レックスが撒いた種じゃ! オノレで解決するがよい」
あすかに見放された俺に、ティナが弾んだ声で話し掛けた。
「これからはずっと一緒よ! 生涯離れませんわ! あ、な、た」
「よかったのう! レックス おめでとう」
あすかは食べ物を貪りながら、気持ちのこもっていない祝辞を述べた。
俺の希望に充ちたはずの人生に暗雲が垂れ込み始めた。




