第十七話 俺のスローライフの終わり
「ここともお別れね」
寂しそうにティナは呟いた。
「そうだな」
俺はそう応えた後、あすかの方を向いた。
「ところでこのままここを放置していいのか?」
「心配いらぬ、結界魔法で認識阻害が掛かっておるで、人間には見つからん」
「それは安心だな、そしたら出発するか」
そう言い残して、俺達はその場を後にした。これから長い旅が始まる、そう思った時だった。
「我の転移魔法で一気に移動じゃ!」
「転移魔法? 一気に移動?」
「そうじゃ、ここからだとティナのエルフの集落が近いな。レックス、お主の実家に行く前にエルフの集落に行くかのう」
そう言うと、何やら魔法陣が浮かび上がり、その上に立つと空間が歪み、まばたきする間もなく異なった景色の中にいた。
「ここは何処だ」
「私の集落の近くだわ!」
ティナが見覚えのある場所を見て、テンションが上がったのか一人先を急いだので、俺はあすかと話しながら歩いた。
「何ていうか、この魔法便利過ぎないか」
「便利過ぎるのが何が悪いのじゃ?」
「いや悪くはないが……」
「なら良いではないか!」
あすかが当たり前のように言うが、何か納得いかなかった。
おかげで、旅を始めてここまで得た達成感や満足感、充足感等、全てまぼろしのごとく消え、俺のスローライフは終わりを告げた。
「こんな獣道しかない様なところにエルフの里なんてあるのか?」
「ここに限らず、いろんな所にエルフの集落は点在しておるぞ」
「はぁ、そりゃまたどうしてだ?」
「人間どもの森を切り拓く開発がエルフ族を分断し、次第に部族ごとにあちこち点在する様な生活を余儀なくされたのじゃ」
「へえっ」
「今でも認識阻害を展開出来る結界魔法の使い手がいる部族は現在も残っておるな」
「だから人間が手を出せなかった未開の地みたいなところにエルフの集落があるのか!」
「何等かの理由で認識阻害の効力が無くなった時、欲深い人間どもが大量に押寄せるじゃろうのう」
「人間はろくな事はしないな」
「大昔、この国というかこの世界はエルフのものだったんじゃがな…… 人間が増え過ぎるのも考えものじゃ」
「そんな事知らなかったよ」
「昔の話じゃからな」
「それでエルフの世界ってどうなってんだ?」
「エルフ達は世界樹を護る上級と一般に別れておってな、一般の中から人間の便利な生活に憧れて人間とツガイになる者も現れた」
「でもエルフって人間を上回る魔法を駆使して便利な生活をしていると聞いたぞ! 人間と関わらずとも生きていけるだろ!」
「そんな生活出来るのは一子相伝の魔法を受け継ぐエルフの上級だけじゃ、一般のエルフ達を差し置いてな」
「何か納得行かねえな!」
「納得行こうが行くまいがそういうモノじゃ」
あすかはそう答え続ける。
「人間とかかわらず生きて来た集落の民は上級に次ぐ寿命の長さじゃが、人間とかかわるようになった者の子孫の寿命は長くないんじゃ」
「まるで人間が疫病神みたいじゃないか。俺も人間だし、ティナの事を考えるとエルフの里へ残した方が良さそうだな」
「それがいいかもしれぬな」
会話をしている間にエルフの集落の前にたどり着いた。
そこには若い女のエルフしか居ないようだった。
「何だよここ! ヤケにキレイな年頃の女しか居ないじゃないか?」
「どうやら、男と女で集落が別なようじゃな」
「そうなのか」
「そんな事より、レックス、選り取り見取りじゃのう」
あすかはニヤつきながらこっちを見た。
「バ、バカなこと言うな」
あすかの選り取り見取りと言う言葉に、俺の苦い記憶が蘇って来た。
俺は以前、学生として王都にいた頃、学友に連れられ、覗き穴から下着姿になった多くの女性達の中から一人を選んでお持ち帰りする事が出来るというサービスの店に行った事がある。
当時、硬派な俺はスマシタ顔で、学生の本分は勉強だろ、と言って誰も持ち帰らなかった事をずっと後悔していた記憶があった。
何故なら親の仕送りのお金を使い込んでまで参加して、生活に困窮したからだ。
「あの忌々しい記憶に上書きをする必要があるな」
俺はつぶやいた。
よし、あの時のリベンジと行こうじゃないか! あすかはエルフの親玉みたいなものだし、お墨付きが出たんだ。俺のハーレム王国を築き上げてやる! 俺は心の中でそう誓い、エルフの女達を物色した。
イキりたつ俺の願望とは裏腹に俺の欲望はしぼんだままだった。
どうしちまったんだ! 俺の欲望は! 俺は心の中で叫んだ。欲望は賢者のままだった。
「どうした、レックス、真っ青な顔して」
あすかが俺にたずねた。
「いや、何でもない、気にするな」
俺は強がりをあすかに言ってみせたが、こうなったのもくだらない事を妄想した自分が悪かったのだと自身にいい聞かせた。
その時だった。
集落の方から声がした。
「バジャ様!」
そうこうしているうちに、シャーマンのバジャがやって来た。




