第十五話 新品ギターで消えた思い出
「このままだと冬をここで過ごす事になりそうだ」
曇り空を見上げながら俺はつぶやいた。
「まあ! それは良い事ですわ」
「ふざけるな! 俺は焦ってるんだ」
冬で雪が積もり足留めを喰らうことを心配していたが、この女は違った。
「ねぇ、あなた」
「何だ?」
「子供作りましょう」
女は上目遣いで俺の方を向き目を輝かせる。
「何でそうなる! それに前から気になっていたんだが、あなたって呼び方一体、何なんだ!!」
「イヤぁん! わたしのことをそんなにアツい眼差しで見つめないで」
そう言うと視線を逸らして軽く身悶えしていた。
「質問に応えろよ!」
質問に応える事もなく、自分の世界に入り浸る女を横目に幼女のあすかが呟いた。
「コヤツが冬を越すための家が欲しいと言うから少々立派な家をこしらえたが、余計なお世話じゃったかのう」
「いや、立派過ぎて、庶民が住むレベルではないな。それに長居するつもりもないし」
「そうか、折角、創ったのじゃから、冬の間くらい、ここに居るわけにはいかんかの?」
「そうしたいのはヤマヤマだが俺は人間世界のしがらみがあるからここで冬は越せないかな」
「そうか……」
あすかは寂しそうな顔をした。
「でも、暫くは世話になるぞ! 旅に必要な保存食を作ったりしないといけないからな。それに折角、あすかが創った家だし住まないともったいないしな!!」
「そうか!!」
あすかの顔は、パァッと明るく輝いた。
「ところで何故そんなに急ぐんじゃ?」
「壊れた楽器を俺の実家に持ち帰りたいのと、アイツをもといた場所に帰してやりたいと思ってな」
「成る程な」
「記憶喪失のアイツの家族を早く安心させてやりたいんだ」
「記憶喪失?」
「ん?」
「アヤツ、記憶なぞ失っちゃおらんぞ?」
「なに!!」
俺は女の手を掴み、あすかの前まで連れてきた。
「イヤん! もうっ! そんなに強く手を掴まないでよ!!」
ティナは何故か喜んでいた。
「お前、記憶失っちゃいねえだろ!」
「あなた、わたしを疑うの!!」
「あぁ、あすかが教えてくれたよ」
「ウソはいかんぞ、ティナよ!」
「ティナ?」
「コヤツの名じゃよ」
あすかの言葉に女の顔色が変わった。
「あなた!! お願い!! わ、わたしを信じて!!」
「記憶あるみたいだな、嘘は良くないぞ、ティナ!!」
自分の名前を呼ばれてハッとして一瞬、顔を俺に向けたが、観念したのかおとなしくなったところで、あすかが俺に尋ねた。
「ところで壊れた楽器とは何じゃ?」
俺はギターをあすかに見せた。
「死んだ兄の形見でもともとあった場所に帰したいと思ってな」
「これは使い物にならぬゴミじゃな、原型を保っておらぬ!」
「ふざけるな! ギターに謝れ!!」
「ゴミに謝罪する気はないが、そのギターとやらの音色は聴いてみたいものじゃな」
「直せるのか?」
淡い期待を胸に抱いて、聞いてみた。
「我を誰と思うとる」
そう言って軽く念じると目が眩むような光がさし、静寂が戻るとギターがあるべき姿に戻っていた。
「スゲぇッ! 元通りだ!!」
「どうじゃ! 凄いじゃろ!」
慎ましい胸を張った。
俺は喜んでギターを手に取ったが、なにか違和感があった。
「新品すぎて傷一つない、最早、別物だ! 俺と兄との思い出の欠片が何一つ残っていないじゃないか!!」
「なんじゃ、そんな事か」
「そんな事か、だと?」
怒りが頂点に達しようとした時だった。
「音楽とは音と音との集まりじゃ、一音一音にさしたる意味はないが、それらが連なり時を経て、一つの作品となるのじゃ」
あすかが意味ありげに語り、俺を見て続ける。
「それが音楽というのならその壊れた楽器は時を重ね、一つの作品と引き換えにその使命を終えたんじゃろうのう、人間の生き様の様なものぞ」
そう言うと、レックスのギターを意味ありげに見つめた。
「今度はその新しくなった楽器で、また最初から次の作品を作り始めればよかろう、レックスの手によってな!」
したり顔で言うが、目は泳ぎ、何かを誤魔化しているようだった。
俺はあきれてため息をついた。
「とにかくまた、弾けるようにしてくれただけで十分だ。ありがとう! 色々と吹っ切れたよ」
「そうか、それは良かったな」
あすかは誇らしげな様子だった。
本作品を読んでいただいて、ありがとうございます
物語もティナとの出会いからこのあたりまで、ありがち展開なのは容赦下さい。




