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新品ギターで消えた思い出

 俺がここへ滞在してしばらく経った。


「このままだと冬をここで過ごす事になりそうだな」


 曇り空を見上げながら俺はつぶやいた。冬で雪が積もり足留めを喰らうことを心配していたからだ。


 俺はそんな時、ふと、女を見た。女はモクモクと細かい手作業をしていた。それが気になって声をかけた。


「なぁ、何やってんだ」


 女は作業の手を止めて、俺のほうを見た。


「編み物よ」


「編み物? どうしてそんな事してるんだ?」


 俺は思わず聞き返した。


「ねぇ、旦那さま?」


 女は思わせぶりに俺に声を掛けて来た。


「何だ?」


「子供、欲しくありませんか?」


 女は上目遣いで俺の方を向き不穏な質問をした。


「これから生まれてくるワタシと旦那さまとの愛の結晶のために今から準備しているのですわ」


 俺はこの時、この女、こんなヤツだったか? と(いぶか)しく思った。


「お前、一体どうしたんだ! それに旦那さまって呼び方は何なんだ!」


 俺は女が崖から落ちた時、打ち所が悪く、頭がおかしくなったと思い、心配になった。


「そんなに見つめないで下さい」


 そう言うと女は視線を逸らしてうつむいた。


「質問にこたえろよ!」


 女は質問に答える事もなく、自分の世界に入り浸った。そんな女を横目にリスになったあすかが念話で(つぶや)いた。


『折角、家を創ったのじゃから、冬の間くらい、ここに居るわけにはいかんのか?』


「そうしたいが、ここで冬は越せないかな」


『そうか……』


 リスは寂しそうに見えた。


「でも、暫くは世話になるぞ! 折角、あすかが創った家だし住まないともったいないしな!」


『そうか!』


 リスのあすかは、パァッと明るく輝いた。


『ところで何故、急ぐんじゃ?』


(こわ)れた楽器を俺の実家に持ち帰りたいのと、アイツをもといた場所に帰してやりたいと思ってな」


『成る程な』


「記憶喪失のアイツの家族を早く安心させてやりたいんだ」


『記憶喪失?』


「ん?」


『アヤツ、記憶なぞ失っちゃおらんぞ?』


「なに!」


 俺は女の手を(つか)み、あすかの前まで連れてきた。


「そんなに強く手を掴まないでよ!」


 女は何故か喜んでいた。


「お前、記憶失っちゃいねえだろ!」


「あなた、わたしを疑うの!」


 女は(おび)えたような目で俺を見た。


「ああ、あすかが教えてくれたよ」


『ウソはいかんぞ、ティナよ!』


「ティナ?」


『この娘の名じゃよ』


 あすかの言葉に女の顔色が変わった。


「お願い! わ、わたしを信じて!」


 女は俺の顔を見つめながら、すがりついて来た。


「記憶あるみたいだな、ティナ!」


 俺はティナと呼んだ。ティナは自分の名前を呼ばれてハッとして一瞬、顔を俺に向けたが、観念したのかおとなしくなったところで、あすかが俺に(たず)ねた。


『ところで壊れた楽器とは何じゃ?』


 俺はギターをあすかに見せた。


「死んだ兄の形見で俺とともに時を過ごして来たんだ」


『これは使い物にならぬゴミだな、原型を保っておらぬ!』


「ふざけるな! ギターに謝れ!!」


『ゴミに謝罪する気はないが、そのギターとやらの音色は聴いてみたいものだ』


「直せるのか?」


 淡い期待を胸に抱いて、聞いてみた。


『我を誰と思うとる』


 そう言うとあすかはティナの魔力を必要とするため、再度、ティナに憑依した。


 ティナに憑依したあすかが軽く念じると目が(くら)むような光がさし、静寂(せいじゃく)が戻るとギターがあるべき姿に戻っていた。


「スゲぇッ! 元通りだ!!」


「どうじゃ! (すご)いであろう!」


 俺は喜んでギターを手に取ったが、なにか違和感があった。


「新品すぎて傷一つない、最早、別物だ! ギターに俺と兄の同じ時を重ねてきた思い出が空っぽじゃないか!」


「なんじゃ、そんな事か」


「そんな事か、だと?」


 怒りが頂点に達しようとした時だった。


「音楽とは音と音との集まりじゃ、一音一音にさしたる意味はないが、それらが連なり時を経て、一つの作品となるのじゃ」


 あすかが意味ありげに語り、俺を見て続けた。


「それが音楽というのならその壊れた楽器は時を重ね、一つの作品として完成し、引き換えにその使命を終えたのであろう、人間の生き様のようなものぞ」


 そう言うと、俺ののギターを意味ありげに見つめた。


「今度はその新しくなった楽器で、また最初から次の作品を作り始めればよかろう、レックス、お主の手によってな!」


 したり顔で言うが、目は泳ぎ、何かを誤魔化しているようだった。


 俺はあきれてため息をついた。


「とにかくまた、弾けるようにしてくれただけで十分だ。ありがとう! 色々と吹っ切れたよ」


「そうか、それは良かったな」


 あすかは誇らしげな様子だった。その後、ティナからリスに戻ったあすかは俺に注文をつけた。


『レックス、ギターとか言う楽器を(かな)でてみよ』


「そうだな、演奏してみるか」


「竹笛の演奏が素晴らしかったのでその楽器の演奏も楽しみですわ!」


 ギターを手に取り、遠い昔、兄が良く弾いてくれた曲を演奏した。


『ふむ、それがギターの音色か、昔、聴いた事のあるような無いような、どこか懐かしい音色に似ていたのう』


「知っているのか?」


『あまり良く憶えておらぬ』


「そうか」


 一瞬、俺は何処どこかでギターが広まっているのを期待したが、違ったようだ。でもどこかでギターが広まっていればいいなと思った。


『決めたぞ! 我はお主の実家にともに参るぞ』


「私もあなたのご両親に結婚のご挨拶したいですわ」


 ティナはどさくさ紛れに意味不明な言葉をしのばせた。


 こうして、一緒に行くことになったので旅のしたくをはじめた。


「旅の食料の準備できたか?」


 ティナに尋たずねた。


「クマの燻製に塩漬け、どんぐりの粉をかためクマの油で揚げたモノ、最低でも一月は持ちますわ」


「それだけ食料があれば充分だな、でも荷物が少し多いな」


『我に任せておけ』


 そう言って、再び多量の魔力を持つティナに憑依したあすかは目の前の空間をいじって()ねくりまわすとアイテムボックスが出現した。


「それにしても、こんなにも簡単にアイテムボックスが出来るものなのか?」


 俺は目の前で起きたことに、現実味がわかなかった。


「レックス、お主が管理するとよい、遠慮せず受け取っておけ」


「いいのか?」


「今までの礼だ、気にするな」


 俺は遠慮なく受け取った。




 

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