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第十三話 クマを弔う

 俺は川の中に仕掛けた罠を引き上げた。罠の中にはナマズが入っていた。


「罠に魚が掛かってたぞ!」


 俺は手に持ったナマズを抱え、女に見せた。その時、女は石で何か(くだ)いている最中だった。


 女は微笑(ほほえ)んで出迎えたが、突然、顔に怒気が宿り、自身の短剣を手に取りこちらに斬りかかってきた。


「ソコをどいて!! 後ろにクマがいるわ!!」


 女が俺を押し退け、その横をすり抜けて、クマに向かって行った。


 クマは後ろからレックスに襲い掛かるが、女の短剣が先に一撃を加えた。


 クマの体から血が噴き出すとクマは自らに刻まれた傷を見て凶暴化し、女に狙いを変えた。


「ハッ! そうだ、竹笛を使って支援魔法だ!」


 レックスは竹の笛を手にすると口元にあてた。


 女は必死に応戦するも肝心なところで、足の痛みがぶり返したのか、よろけてしまった。


 クマはその隙を見逃さず手を振り上げた。


 レックスが竹笛で緊急に強化魔法用の象徴的なワンフレーズを奏でた。


 すると上空に魔法陣が展開して落雷が降りそそぎ、クマに直撃した。


「グオオォォッ」


 雄叫(おたけ)びを上げ、全身がビクンビクンと痙攣しその場に倒れた。


「あれ、おかしいな? 女に強化魔法かけたはずなのに」


 クマは白眼を向いて口からアワを吐き、なおも手足がぴくんぴくんと動いていたが、まもなく昇天した。


「何故、ショボい雷魔法しか使えない俺に、強力な攻撃魔法が?」


 俺は手に持った竹笛をみた。


「笛が手作りだからか、微妙に音程が外れたようだな、それが原因か?」


 そんな事を呟いているうちに、女がクマにトドメを刺し、そのまま解体した。


「解体の手際、凄く上手いな」


 思わず口にすると女は照れながら微笑んだ。日も暮れてきて辺りは肌寒くなってきた。


「これだけ寒いと解体した肉は腐らないな。今日食べる分以外は保管して、食事の準備をしよう」


「わかった」


 女はキビキビとした動きで昼間、収穫したキノコや山菜、野草等も使って調理を始めた。


 俺はクマ肉の切れ端を使いネギに似た野草も加え、ミンチ状にした物を竹串にまきつけ、たき火のまわりに立てていった。


 他に余ったクマ肉を竹筒の中に入れ、たき火の中に放り込む。竹からアブクが出たら完成の合図だ。


 後は出来上がりを待つだけだった。その時、地面に転がるクマの頭を女が拾い、竹でこしらえた祭壇の上に置いた。


「それ、どうするんだ?」


「山の神をまつり、狩りの恵みに感謝する為にこうするの」


「へぇ~、そういえば、他のパーティに研修に行った時、目撃したな」


「そうなの」


「そこのメンバーの獣人の一人が、似たような事をしてたんだ」


 そんな事を話していると、料理が完成した。そして出来上がった料理を祭壇の上に並べて行った。


 女がエルフに伝わる口伝の詠唱を唱えた。


 俺は王立魔法アカデミーで狩猟儀礼について学んだ事を思い出した。口伝を詠唱した後、素朴な楽器で神に音楽を捧げたという話だった。


「何か演奏を神に捧げたりしないのか?」


「あるにはあるけど、あなたのと違って単調な音色よ」


「一度、聴いてみたいな」


「ふ、ふ~ん、機会があれば聞かせてあげてもいいわよ」


「お前、もしかして記憶戻った?」


 女は ハッ、とした顔をすると(あわ)てて否定した。


「そんな事、あるわけないでしょ!!」


 否定する目に力がこもっていたので俺は話を変えた。


「料理、美味そうだな」


「あなたのおかげよ」


「お前の手際(てぎわ)が良いからだろ」


「そんな事ないわよ」


「きっと良いお嫁さんになれるよ」


「ヤダ〜、あなたったら! エヘへッ」


 女はそう言うと、照れたように俺の肩を軽く(たた)いた。女に謎の親密さが生まれた瞬間だった。


 その時だった。祭壇のクマのアタマからおびただしい数の、ひかりの粒子が発生した。


「ホタルみたいでキレイね」


「そうだな」


 幻想的な場面に思わず、息をのんだ。


 ひかりの粒子は弧を描き、次第にひとつの塊になったと思ったら強烈な光を発した。


「何だ! このマブシイ光は!!」


 手で顔を(おお)いながら光の方を見た。光が収まるとそこには見た目が十歳にも満たない女の子がいた。


美味(うま)そうじゃのう!」


 そう言って料理のある祭壇に向かった。





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