第十話 俺の中の理性
俺はこんな所に女が倒れていることに、心が揺れていた。
千載一遇のチャンスじゃねえか? さっさと、この女やっちまえよ! という下劣な心の叫び声に必死に抵抗し葛藤していた。
それはまるで、何処かの飼い犬が餌を前にオアズケをくらわされている状況に酷似していた。
そんな中、俺の煩悩とでもいうべきいやしい下心が都合の良い言い訳を見繕った。
「俺も冒険者のハシクレ、この女の体の秘境を旅するのも悪くない」
そう呟いて右手を伸ばした。
右手が女の体に触れようとした瞬間、俺の左手が右手首をとらえる。
「クッ!! これは一体どういう事だ! お、俺の右手が無意識に左手に阻まれているとでもいうのか!?」
それでもあらがえない欲望に身を任せて右手を伸ばそうとしたその時だった。
『オマエはそれでいいのか!!』
「誰だ! そこにいるのは?」
あたりを見まわすが誰もいない。それは俺の頭の中から聴こえてくる。
『ワシはオマエの理性だ!』
「理性だと?」
『そうだ! オマエに問おう! オマエはその娘が好みの女性なのか?』
「いや、そういうわけじゃないけど」
『喝!! 思い出せ! オマエはメガネで巨乳のブス専じゃろう!!』
「ハッ!! 俺としたことが、スッカリ忘れていた。でも俺は断じてブス専じゃない! 個性的な顔立ちが好きなだけだ!!」
『フン! そんな事はどうでもいいわい。その娘をよ~く見るが良い。ブロンドの流れる様な長く美しい髪、整った顔立ちに吸い込まれそうな唇、スラリと延びる両手、鹿のように引き締まった弾力のあるヒップにしなやかな脚、スレンダーなボディー、オマエの好みとは正反対じゃろう?』
「確かに! 全然違う!!」
『そうじゃろう! そうじゃろう! それでいいのだ! しっかりと理性を取り戻したようじゃな!! オマエは立派な賢者じゃ!』
そう言い残して理性の気配が消えた。
俺は何もしていないのにスッキリとした気分になり賢者タイムに突入した。
正気に戻った俺は辺りにあった枯れ草を掻き集めそれでありあわせの寝床をつくり女をそこに寝かした。
耳元をよく見ると耳が尖っていた。
「エルフか、書物の挿絵で見たことがあったが、実物を見るのは初めてだ」
理性のおかげで賢者モード発令中の俺にはたいした驚きもなかった。
新しい木の枝がところどころに散らばっていたので頭上を見ると木が折れたスキマから崖が見えた。
「あそこから落ちて来たのか? 足でも滑らしたか」
それから足をねんざしているようなので薬草を探してきてシップした。
次いでに女が目を覚ました時のために簡単な食事の準備も行なった。
「水でもくみに行くか?」
少し手が空いた俺は昨日の竹の残りを加工して水を入れる容器を作った。それに川の水を汲んだ。
水を運んでいる途中、女が起き上がったのが見えた。
こちらに気づくと警戒しながらこちらを睨み付けるが、俺は気にせず女に歩み寄った。
女は威嚇していたが、足が痛むのか自由に動けない感じで、痛む足を見ると薬草のシップがしてあるのに気付いたように見えた。
「倒れていたのでそこに運んだ。食事の準備をしていたんだけど何か食べるか?」
そう尋ねたが警戒したままだった。
この様な展開を四十話に予定しています。
楽しみにお待ち下さい。




