第5話『神聖女、勇者パーティに加入する』
「え? あ、はい。どうして私の名前を?」
声の方へ振り返ると、そこには蒼い長髪が似合う綺麗な女の子が立っていた。
剣を腰に携えているし、冒険者なんだろうけど……知り合いに居たかな?
「まあ無理もないよね。出会ったのは数年前だもん」
「ごめんなさい。私に顔見知りは多くないのですけど、思い出せません」
「いいよいいよ。まずは騒ぎを鎮静化させよう」
そう言い終えると、彼女は私と男の間に入って深呼吸をした。
「みんな、一部始終を見ていた人は理解できたと思うけど他愛のない喧嘩よ。それに、明らか男の方が悪い。ということで。この場は、勇者であるわたしが解散してもらえないかな」
勇者という肩書は本物のようで、見物人だった人たちは文句一つ言うことなく散っていった。
「さあルミナ、あの男は放置しておいて受付の方へ行こう」
「え、ええ。ありがとう」
「いいさ。時間をかけて友達のわたしを思い出してくれたらいいから」
「え?」
全然まったく、これっぽっちもわからないけど流れのままに歩き出す。
自慢じゃないけど、私には友達なんて片手で数えられるぐらいしか居ない。
しかも、その全員と数年以上もの月日顔を合わせていないわけで、みんな成長しているから誰が誰かってわからないよ。
少なくとも、冒険者で男友達なら居たけど、勇者の知り合いなんて誰も知らない。
「お疲れ様です、リイン様」
「今日も依頼を受けに来たけど、その前に友達の冒険者登録を手伝おうと思って」
「なるほど。では早速手続きをさせていただきます」
リイン……リイン……リイン。
物凄く聞いたことのある名前だ。
でも、私が知っているリインは男の冒険者で、決してこんな綺麗とかわいいを兼ね備えている女の子ではない。
まさかリインの記憶を引き継いだ誰か――そう、亡くなってしまった兄や弟の意志や思い出を継いで活動している姉か妹なのかも。
それはそれで、私は悲しいし、お姉さんか妹さんは辛い思いをしたのでしょうね……。
「大丈夫ルミナ。支払いは終わったから。それにしても、前とは随分と違う格好をしているけど何かあったの?」
「前?」
「髪の色は、前と一緒で凄く綺麗な白だから目立ってすぐにわかったけど」
私という存在を知っている人は居ても、容姿を把握している人は屋敷の関係者以外にほとんど居ない。
ええい、失礼になってしまうかもしれないけど聞いてみよう。
「もしかして、お姉さんか妹さんですか? リインは知っていますが、お兄さんかお弟さんですよね?」
マズい、やってしまった。
目の前に居る女の子は、驚いていると一目でわかるほどキョトンとして口を開けっぱなしにしている。
聞いてはいけない地雷を踏み抜いてしまった……謝らないと!
「ごめんなさい。不躾な質問をしてしまいました。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げようとしたときだった。
「ですよね、私もリイン様と数年も顔を合わせていなかったら同じような質問をしたと思います」
「え?」
「私はここで働き始めて日は浅いですが――リインとは昔からの友達なの」
「わたしを友達と言ってくれるのなら、様って付けるのをやめてよ」
先ほど話しかけた、担当してくれている受付嬢の人とリインは仲睦まじい会話が始まった。
内容通りに距離感が近く、本当に友人関係だということはわかる。
でも、私はその人も知らない。
「書き進めておくから、ちゃんと説明してあげなさい」
「そうね。ルミナ、わたしはあのとき友達になったリインよ」
「え……」
「あのとき、ルミナは屋敷から抜け出してきたって言ってたよね。話の内容が逸脱しすぎていたけど、ふりふりのドレスみたいな服装だったから信じるしかなくって」
「合ってる。私の記憶とも合ってる」
「あと、勘違いしているようだけどわたしは昔から女よ。たしかに、あのときは男みたいな格好をしていたけど。でもあれにも理由があってね。さっきルミナが経験したみたいなことにならないためなの」
話の辻褄が合っている。
それに私の記憶と一緒だし、男だと思っていたけど女だったというのなら、今の容姿に納得がいく。
「あと、そんな状態だったのに髪が短くてもルミナは『その髪、とても綺麗ね』って褒めてくれたから、今まで伸ばしているのよ」
「たしかに私が言った――じゃあ、本当にリインなのね」
「うん。ルミナ、本当に久しぶり」
「リイン!」
「あら」
私は少なくても濃密な記憶がぶわっと蘇ってきて、感極まってリインに抱き着いてしまった。
「あのときとは逆ね」
「ええ、たしかに」
「このまま抱きしめているのもいいけど、そちらはお仲間さん?」
「あっ」
いけない、流れが流れで忘れてしまっていた。
リインから離れ、数歩下がる。
「このわんちゃんとねこちゃんは、ここへ来る道中で瀕死の状態だったのを助けたの。ちなみにお馬さんも居るんだけど、たぶん今はお散歩中?」
「随分とおとぎ話みたいな状況ね。でも、それにしては白くてふわっふわっで傷の跡とか見えないわね」
「私がしっかりと治してあげたの」
「凄い回復技術だね。そうそう、冒険者になるならパーティは便利だからさ。わたしのところに入らない?」
「いいの? さっき勇者って呼ばれていたと思うけど、新米どころか冒険者の知識は微塵もないよ」
「大丈夫。その回復技術をふんだんに使ってくれると助かる。それに、喧嘩を吹っかけられて逃げずに買うなんて簡単にできることじゃないし、彼はそこそこの実力者だ。それを1発でぶっ倒しちゃうんだから、合格よ」
な、なるほど……冷静に考えてみると、不意の一撃とはいえ威力があったからこそ痛そうにしていたわけだし、それを攻撃の威力に乗せることができたからぶっ倒せたのね。
「でも、止めてくれてもよかったんじゃない? もしもか弱い私だったら、大変なことになってたと思うけど?」
「それに関しては密告させてもらうわ。リイン、あなたを一目でわかったようでウキウキで楽しそうにことの顛末を見ていたわよ」
「え?」
「それに関してはごめんね。でもさ、昔の記憶そのままのルミナだったから嬉しくなっちゃって。『おお、やっちゃえやっちゃえ』って思って。なんとなく負けないだろうなって」
「なんの根拠もないのに見ているだけなんて、酷いと思う」
「ごめんって」
まあたしかに?
ほとんど条件反射みたいな感じで売られた喧嘩を買って、やられたからやり返したけど。
「それで、返事は?」
「絶対に足を引っ張るけど、せっかく誘ってもらったことだしお願いしちゃおうかな」
「と思ったので、記入は済ませました」
「手際がお早いようで」
「ねえ私、騙されてないよね」
「大丈夫大丈夫」
「はい、リインが勇者というのは誰もが認めるところです。さて、ルミナ様。勇者パーティに加入おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます?」
「よしじゃあ、みんなのところへ行こう。ルミナ、これからよろしくね」
「お手柔らかにお願いします」
私はリインと握手を交わし、流れに流されるがまま勇者パーティへ加入してしまったのだった。
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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