第4話『神聖女、冒険者ギルドで殴り倒す』
爆速で森の中を駆け抜けた私たちは、日が暮れることもなくあっという間に目的地である街へ辿り着いた。
さすがに、お馬さんを街の中で歩かせるわけにもいかない――と思っていたら、どこかへ走り去ってしまった。
言葉はわからないけど、なんとなくお別れというわけではなかったと思う。
根拠はなくても、そんな感じがした。
「さて、冒険者の人が集まる場所を目指しましょう」
当然、私は独り言を話しているわけじゃない。
わんちゃんとねこちゃんは、人の流れを避けながらトコトコと両脇を歩いてくれている。
人とぶつからない距離感を掴んで動いてくれているから、最初こそ心配だったけど、たぶん大丈夫そう。
あと歩いているだけで、かわいいし癒される。
「あそこかな」
この街は、敷地的には大きいけど定住している人と出入りしている人が同じぐらいだと聞いたことがある。
小さい頃に抜け出してきたときは、人口とかどういう街とか気にしたことがなかったけど、領地に訪れる人やメイドさんたちが話していたのを聞いた。
こうして自由を手に入れるまでは、なんの意味もない情報だったわけだけど。
でも、メイドさんたちが話をしていた冒険者ギルドと特徴が一致している場所を発見。
白い煙突が4本もあるから、間違いようがない。
「よし――」
一直線に足を進め、出てくる人たちも武器を装備していることから予想は当たっていた。
身長の2倍以上はある両開き扉をくぐって、いざ建物内に入ると、中はしっかりとした石造りの建物になっている。
コンクリートでできているのかと錯覚するけど、たぶん違う。
そんなことよりも。
友達を探すより、受付のお姉さんたちに話を聞いた方が早そうね。
「おい、この神聖な場所に獣を連れてくるんじゃねえ」
1歩踏み出したときだった。
見渡す限り、私しか該当する人が居ないことはすぐにわかり、声がした後ろへくるっと振り返る。
「一応確認ですが、その言葉は私に向けられているものと受け取ってよろしいですか?」
「ったりめえだろ」
「こーんなにかわいいわんちゃんとねこちゃんが、お邪魔でしたか?」
「ああそうだよ」
「まあ、たしかに足を拭いていないですし、抜け毛が散ったり溜まったりしちゃうことは否定できません。それに、獣か否か、と問われたら獣であることは事実だとも思います」
「なんだ嬢ちゃん、反抗的なのか理解力があるのかわけがわからねえな。初めて見る顔だし」
自分でも、この男と人が言っていることはおかしいものだと思う。
だけど事実は事実だし、ペットの責任は飼い主にあるともまた事実。
否定するのではなく、認める以外にない。
「ええ。私は、今から冒険者登録をさせていただこうと思っている最中でして」
「そりゃあ通りで」
もしかして、この人って服は汚れていて大剣を担ぎ、眉間に皺を寄せて初対面で失礼な言葉をかけてくるような人だけど、実はそんなに悪そうな人でもない?
人は見かけによらずってやつで、視力が低かったりシャイで話しかけるときに適切な言葉を見つけられなかった――みたいな感じかな。
だったら――。
「世間知らずなバカ女っぽいと思ったわ。どーせ、男を探すため冒険者になるのか、何もできねーから家を追い出されたんだろ」
――訂正、こいつは絶対に許さん。
100000000歩ぐらい譲ったとして、無理矢理に当てはめたら、男友達を探してる事実はあるし、全てを奪われた結果で家を追い出された事実もある。
だから全てを否定することはできないけど……見下されているし、俗に言う喧嘩を売られている状態だ。
いいよ、そっちがその気ならやってやろうじゃないの!
「いいでしょう」
「んあ?」
「拳を構えてください」
「笑わせるなよ。お前みたいな筋肉もねえひょろひょろな体で、どうやって俺に勝とうってんだ」
「い・い・か・ら!」
「雑魚を痛めつける趣味はねえが、引く気がねえなら仕方がねえ」
喧嘩を吹っかけてきた張本人が何を言っているの。
うーん……ちょっと困ったことになったかも。
最初こそは他の人が気にしている様子はなかったけど、さすがに出入り口付近でこんなやりとりをしていたら、見物人が増えてきちゃった。
わんちゃんとねこちゃんは――ちゃんとお座りして待っていて偉い!
「よそ見なんていい度胸じゃねえか!」
「【ヒールリターンアーマー】」
「いってぇ!」
不意を突かれなかったら魔法を使わなくて済んだのに。
ああごめんなさい女神様、私は咄嗟に神聖な魔法を使用してしまいました。
目の前の男の人は、私に拳を当てることができたけど同じ威力で殴られた痛みを味わって腕を抑えている。
か弱い乙女に向かって卑怯な真似をしたのだから、当然の報いよね。
「何をしやがったぁ!」
「1発は1発。まあ私のは2発分だけどね!」
「がはっ」
私の右拳ストレートは、相手の腹部にねじ込んだ。
魔法を使ったから、とても痛いし威力もあるから腹部を抑えたまま蹲っちゃった。
モンスターを倒せるような攻撃だから仕方ないけど、でもそもそも喧嘩を吹っかけてきたのはそっちだから。
周りの人たちは、腕を組んだまま感心している人が居たり、目を見開いて驚愕を露にしている人が居たり。
誰も止めることはしなかったことに対して、冒険者の間では珍しくない光景なのだとわかってしまった。
強い者が弱い者に虐められることが普通で、弱い者は絡まれないように立ち回らなくちゃいけないってこと? ビクビク怯えながら? そんなのバカみたい。
あーあ。
この人が変に突っかかってきたせいで、このままじゃ冒険者登録できないかもしれない。
さすがにここまで人の目を引いて問題を起こしちゃったから、もう――。
「ねえキミ、もしかして」
「はい?」
「ああやっぱりそうだ。ルミナだよね」




