第3話『神聖女、怪我をした犬と猫を救う』
数年前に街へ行ったときは、屋敷から出る買い物用の馬車に隠れて乗っていた。
だから長く揺られて退屈で仕方がなかったけど、今は全然違う!
このままビューンッて街まで行けるなら、往復――する必要はもうないんだった。
「ひやっほーう!」
正直、屋敷を出ですぐは見慣れない景色を堪能しながら足を進めていこうと思っていた。
でも今は、そんな緑があふれる自然や空を映し出す湖という綺麗な景色は、次々に視界へ入っては流れていってしまう。
これはこれでもったいないと思いもするけど、でも今の私はそんな景色を日常にすることができるんだ。
街に到着したら、いろんなことをしてみたい!
お洋服……じゃなくて装備屋さん、ご飯屋さん、武器屋さん。
宿を探す必要もあるけど、まずは冒険者として活動するにはどうしたらいいのかな?
どこかで手続きをするのか、名乗るだけで冒険者になれちゃうのか。
うーん、あのとき知り合った冒険者の友達に聞けたら一発なんだろうけどなぁ~。
「ん?」
進行方向に何か……。
「ちょっとストップストップ! あ、止まって!」
指示通りに急ブレーキをしてくれたのはいいけど、さすがに投げ飛ばされるかと思って焦ったぁ!
「ふぅ……」
ありえないぐらいの土埃が舞ってしまったけど。
「よいしょ。気のせいじゃなかったみたいね」
偶然も偶然、視界に入ったのはバタッと倒れる何かだった。
ほとんど一瞬だったから人かと思ったけど、倒れていたのはまさかの白いわんちゃんと白いねこちゃん。
どちらも疲弊しきって――というより、虫の息で大変な状態。
「あと少しの辛抱だから、心を強く持って! 【スウェルヒール】」
今日だけで2回もこの魔法を使うことになるなんてね。
出血量が酷かったり傷が多かったり深かったりしたときに使う魔法だから、本来なら出番がない方がいいに決まってる。
しかも、こんなかわいらしい動物が痛々しい姿は本当に見たくない。
「絶対に助けてみせる。神聖女の名に懸けて」
女神様の加護を受け、神託という名の転生するときに聞いたお話を元に授かった名称。
誰かが勝手に言い始めた呼び方ではあるけど、女神様の名前を汚すわけにはいかない。
自然の摂理に、私が強引に関与しているのは認める。
でも見つけてしまったのだから――必ず!
『クゥーン……』
『にゃーん……』
よかった、声が出せるぐらいまで回復してきたようね。
だったらもう少し! もう少しで!
「――これで、もう大丈夫」
状況が理解できていないのでしょう。
自らの死を受け入れるだけだったのに、気が付いたら体は動くし傷も癒えているのだから。
ゆっくりと体を起こすと、互いに匂いを嗅ぎ合ったり花を合わせたりして状態を確かめ合っている。
かわいい光景ではあるけど、そうしなければ生きているのかを確認できないほどには、2匹とも苦しみながら生死を彷徨っていたのでしょうね。
そんな想像をしてしまうと、今すぐにでも抱き寄せて安心させてあげたくなっちゃう。
でもダメね。
今は2匹だけの時間だから、部外者の私は邪魔をしないように離れなくちゃ。
『ワンッ』
『にゃおーん』
「え?」
立ち上がったそのとき。
2匹は私の足元に近づいてきて鳴き声を上げた。
「あら、どうしたの?」
とりあえずもう一度姿勢を低くしてみると。
なんと、まさかのまさか!
ご褒美としか言いようのない頬ずり!
「きゃぁ~~~~かわいいぃいいいいいい。撫でていいのかな、いいよね? 撫でちゃうねっ」
愛くるしい仕草に、心がキュンキュンしちゃってなでなでタイム開始!
ふわふわなのかさらさらなのか、もうわからないけど、最高~~~~!!!
「これから先も大変かもしれないけど、頑張って生きるのよ」
転生前の世界で例えるなら、わんちゃんはサモエドで、ねこちゃんはラグドールかな。
それっぽいっ見た目だけで正確にはわからないけど。
でも、どちらもふわふわな白い毛は一緒で人懐っこく、種族は違っても兄弟みたいでかわいい。
「名残惜しいけど、私も先を急いでいるからここまで。撫でさせてくれてありがとね」
「クゥーン」
「うにゃー」
「あぁ~、なんて言っているのかわからないのが歯痒い。でも、きっと感謝を伝えてくれているのよね」
最後に少しだけ撫で、立ち上がる。
別れは惜しいけど、時間に余裕があるわけでもない。
神聖女としての魔法や強さはあっても、さすがに夜に森の中で不安に打ち勝てる自信はないし、野宿する技術もないから街へ行かなくちゃ。
「お馬さん、今度は頑張って乗ってみるね。ん?」
お馬さんの尻尾で、背中をペシッと叩かれて振り返る。
「もしかして、一緒に行きたいの?」
『ワンッ!』
『にゃー!』
足音が小さすぎて聞こえていなかったみたい。
少し距離をとったつもりだったのに、いつの間にか2匹とも足元に来ていた。
もう腰で蹴り上げるところで危なかった……けど、私の問いに元気よく応えてもらっちゃったけどどうしよう。
「お馬さん、みんなも一緒に乗せられる?」
『ヒヒィーンッ!』
「元気のいいお返事をありがとう。でも、どうやって乗ったらいいのかしら。まずは私から――とうっ」
お馬さんの毛を鷲掴みながら乗るのは避けたかったから、とりあえずジャンプしてみた。
「うげっ。よいしょ、よいしょ、んっ。よしっ、乗れた!」
なんとか成功。
さすがにジャンプの衝撃をお腹で受けたから痛いけど、体をなんとか動かして乗る姿勢になれた。
「あらっ。なんだか、ちょっと自信がなくなっちゃうわね」
わんちゃんはぴょんっと登ってきて、次にねこちゃんもぴょーんと乗ってきちゃった。
一番体が大きい私が、一番みっともない乗り方ね。
ううぅ、ちょっと恥ずかしい。
「なるほど、それなら大丈夫そう」
私の前にわんちゃんがちょこんと座り、その首元にねこちゃんが抱き着く。
その状態を私が後ろから抱き着くようにすれば、お馬さんの精霊魔法によって大丈夫。
――はわわっ! 私は気が付いちゃった!
こ、これは噂の犬吸いや猫吸いをもふもふしながら堪能できるのでは!?!?
抱っこしないと落下しちゃうかもしれないのだから、ベ、別に邪な考えなんかじゃないんだからねっ。
「さあ、お馬さん! 街に向かって出発ーっ!」
『ヒヒィーンッ!』
『ワンッ!』
『にゃーんっ!』




